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「TSMC」熊本進出④半導体人材の獲得競争が激化

地元企業では内定辞退も。賃上げや外国人採用など対策の現場は。
  • 2023年03月17日

熊本で半導体人材の獲得競争が激化

台湾の世界的な半導体メーカー「TSMC」の進出で、熊本では「半導体人材」の獲得競争が激しさを増している。

競争の激しさを示す1つが「給与面」だ。
TSMCの熊本工場(JASM)では、大卒の初任給を「28万円」で求人している。
これは熊本県内の製造業より、7万円余り高い水準だ。
世界的メーカーの進出で、地元企業にどんな影響が出ているのか、現場を取材した。

2023年3月公開記事(取材:熊本局記者 馬場健夫)

熊本で進むTSMCの工場建設

2023年1月撮影
2023年3月撮影 TSMC熊本工場の建設現場

TSMCが進出する熊本県菊陽町では、工事が24時間体制で行われている。
すでに巨大な建屋が姿を現していた。
工場は年内に完成し、来年12月までに操業予定。
1700人を雇用する計画だ。

TSMCの熊本技術者は台湾ですでに研修

台湾のTSMCの工場

そのTSMCの拠点がある台湾では、熊本工場で採用された技術者を対象にした研修が始まっていた。
去年11月、現地の施設では、熊本から来た4人が研修を受けていた。

台湾のTSMCで研修を受ける熊本の従業員

この日は、電力の供給システムについて、装置の使い方を学んでいた。
TSMCの熊本工場には、今年4月には100人以上が入社し、来年は200人以上を予定している。
新入社員は、高い給与水準に加え、台湾で英語などで研修を受ける予定だ。

地元企業は工場増設で賃上げも

TSMC進出をきっかけに、関連企業の進出が相次ぐ熊本では、地元企業の人材獲得競争が激しさを増している。

県内に拠点がある、半導体製造装置メーカー「くまさんメディクス」

工場増設を説明する白瀬嗣久社長

増産に対応するため去年、工場を5つ増やして21拠点になった。今後、さらに2つ増やす計画だ。
また、従業員は900人増やして2800人になった。工場増設にともなった人員は、全国から何とか確保した。

従業員が増えるなか、力を入れているのが育成面。一人ひとりに丁寧に指導していた。
また、今年春入社の大卒初任給を約10年ぶりに引き上げ、7%アップした。従業員全体の昇給も行う。
さらに、来年春入社の初任給も引き上げる予定だ。

【入社したばかりの従業員】
先輩たちや先生が、きっちりしっかり教えてくれるので、安心して仕事ができています。自分も大きな装置の組み立てをする1人として携われることでワクワクしています。

【去年入社した従業員】
毎回やさしく丁寧に教えてくれてとても作業がしやすいです。半導体が不足していると聞いているので、少しでも貢献できるように、1つでも多くのパーツを組み立て作業者に届けられるように頑張りたい。

内定者の辞退相次ぐ

しかし、人材確保は簡単ではない。予想外の事態が起きた。
今年春の入社に向けて内定を出した新卒の26人のうち、半分が辞退したというのだ。
初任給が高いTSMCや、別の大手企業に流れたという。

【人事担当者】
通常であれば、このうちの8割、9割は承諾の丸がつくという思いで考えていたんですけれど、実際承諾されたのは半分で、辞退がかなり並んでしまっている。正直、今までの人事活動の中で初めての現象でしたので、すごく戸惑っておりました。

半導体製造装置メーカー
くまさんメディクス、白瀬嗣久社長

(内定辞退は)やっぱりなと思いました。JASM(TSMCの熊本工場)が稼働した時に、経験者を当然欲するでしょう。我々の会社で仕事をしていれば経験者になりますから、非常に危機感を持っています。賃金はさらに上げていかないと、競争には勝てない。ただ、私たちがJASMみたいな給与体系にはできません。

業界はもともと人手不足でしたが、JASMの進出でさらに人手不足になりました。仕事が増えるチャンスはありますが、人材の獲得競争は、今までにない厳しさが出てくるのではないかと考えています。我々の企業から人材が離れていかないようにしていかなければならないし、成長を考えるならば、新たな人材を獲得もしていかないといけません。

県外からの進出企業は戦略を転換

人材の獲得競争が激しさを増す中、新たな戦略をとる企業もある。

ジャパンマテリアルの熊本事業所(大津町)

去年、三重県から熊本県大津町に進出した、半導体工場のインフラ運営管理などを行う「ジャパンマテリアル」
新たな拠点で工場の整備を進めていて、すでにJASM(TSMC熊本工場)向けの配管の加工を始めていた。

JASM向けの配管を持つ所長

これはJASMの工場の中で使われる、排水を流す配管で、こちらで加工を行っております

熊本では150人を採用する計画だが、予定通りにはいっていないという。
この会社は、熊本を中心に経験者を探してきた、これまでのやり方からの「転換」を図った。

ジャパンマテリアル熊本事業所 田村安 所長

今までは経験者を中心に集めていたけれども、経験者以外のあらゆる業種から、半導体業界に興味があれば、どなたでも参加してもらって、この産業に携わってもらいたい。いろんな分野から来てもらって、その人たちを教育しながら、我々の会社に携わってもらうという形にしていかなきゃいけないと、方向を変えるように考えています。

専門外の学生も大歓迎

そこで学生向けのオンライン説明会では、「半導体を勉強していない学生」にもアピール。
理系に限らず文系も含めて、全国から学生を集めようとしている。

【人事担当者】
この半導体業界でぜひともやってみたいという気持ちがあれば、全く専門がない、知識がないという方でも、会社に入ってから勉強して、この業界で活躍していただきたい。

他業種の中途採用も積極的に

また、「他業種からの中途採用」も積極的に行っている。

【元銀行マン】
もともとは地元の銀行で働いていて、取引先の融資や個人預金、投資信託、保険の販売とかしていました。去年の今頃は(半導体業界への転職は)全然考えすらなかったです。

【元美容師・自動車部品会社】
最初は美容師のアシスタントをして、自動車部品の製造会社の生産管理をしてから、今に至っています。熊本にTSMCが工場を作ると知って、日本の半導体業界と熊本の盛り上がりにすごい興味を持ったので、この業界を選びました。

ベトナムの高度人材も

さらに、活路を求めたのが「ベトナム」だ。

幹部が直接ベトナムに出向き、理工学部を卒業した優秀な50人を採用した。

三重県の本社にトレーニングセンターを設け、半年間かけて研修を実施している。
給与や待遇は日本人と一緒だ。

アメリカ、日本、中国の半導体の競争がすごく激しくなっています。激しい環境に慣れたら、いろんなことを身につけられると思います。

半導体工場インフラ運営管理会社
ジャパンマテリアル 田中久男社長

国籍は問いません。(人材は)取り合いですね。ただし我々も、正直言って熊本県だけでとろうなんて思っていません。もう熊本県だけだと絶対無理です。採用プラス育成のところ、教育面、そこにかなり投資をしていかないかんだろうと思っています。

100名の予定が例えば70名で終わったらどうするか。その3割は、個人の能力を30%上げることしかないのかな。その分、スキルアップと賃金のベースアップを含めて補充していかなければいけません。

新規雇用は約1100人

熊本県内では、企業進出が相次ぎ、人材ニーズが高まっている。
「半導体関連企業の立地協定」の件数は、2020年11月のTSMC進出の発表以降、今年2月末現在で、TSMCを除いて「25件」
新規の雇用人数は、「約1100人」に上る。
熊本大学や高専などでは、半導体人材の育成の取り組みを進めている。今後は産学官の連携が鍵を握ることになりそうだ。

動画はこちら!

【2023年3月1日放送】

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  • 馬場健夫

    熊本局記者

    馬場健夫

    2007年入局。秋田、名古屋、国際部、広州支局をへて、2020年から熊本局。

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