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なぜ?女性が入れなかった幕末の酒蔵 そして今

『らんまん』 酒造りに魅せられた綾が遠ざけられた当時の状況
  • 2023年04月06日

「おなごが蔵に入ったらいかんですき!」
6日放送の『らんまん』(第4回)で、酒蔵に足を踏み入れた綾に向けられた言葉です。
女性の杜氏や蔵人が活躍する今と比べて、江戸時代のタブーに疑問を感じた方も多かったと思います。なぜなのか、当時の事情を探りました。
(高知放送局リポーター 五十嵐優衣)

『らんまん』のワンシーン

今月3日に放送が始まった連続テレビ小説『らんまん』。
主人公・万太郎の実家は土佐の有名な造り酒屋です。
ドラマでは江戸時代末期の酒造りに関するさまざまな風習や行事が描かれています。

6日に放送された第4回で私の心に残ったのは、行方が分からなくなった万太郎を探す姉の綾が、「立ち入ってはいけない」と言われていた酒蔵に入ったシーンです。

初めて入る酒蔵。
いっぱいに立ちこめる甘いにおいに魅せられて、歩みを進める綾。
その時、杜氏の寅松が綾を蔵の外に引っ張り出します。
「おなごが入ったせいで、腐造を出したらどうするがぜ」

「おねぇちゃん悪うない」と泣きながら訴える万太郎に、寅松は「酒蔵の神さんがおなごを嫌うき」と説明したのです。

「寒造り」が広がった江戸時代

なぜ女性が酒蔵に入ることを許さなかったのでしょうか。
牧野富太郎博士の出身地でドラマの舞台になっている高知県佐川町を訪ねました。
佐川町はいまも酒造りが盛んな地域です。
高知県酒造組合の理事長で、この地で酒造会社を経営する竹村昭彦社長に話を聞きました。

司牡丹酒造 竹村昭彦 社長

竹村さんはまず、江戸時代には酒造りが男性主体の仕事になったことを説明します。

竹村昭彦さん
江戸時代には寒造りという手法が取り入れられました。
それまでは1年を通して酒造りを行っていましたが、どうやら冬場に造った方が酒がおいしくなるということが分かってきて、この時代から冬に酒を集中的に造るようになったんです。

冬の厳しい寒さの中、機械を使わずに大量の酒を造る仕事は、かなり力を使う労働でした。
このため、酒造りは男性の仕事に変わっていったと考えられているのです。

“神聖”とされた酒蔵

綾が足を踏み入れた酒蔵

だからといって、女性を遠ざけるというのは、おかしいですよね。
疑問をぶつけると、酒ができる科学的な仕組みがわかっていなかったことが関係しているのではないかと解説してくれました。
酒造りで大事な役割を果たすのが、麹菌と微生物の酵母です。この2つの働きがあってはじめて、お米が日本酒になります。
しかし、江戸時代は菌や微生物の存在がよく分かっていなかったそうです。

竹村昭彦さん
メカニズムが解明されていなかったので、酒造りは神聖なものと捉えられていました。
普段関わらない女性が立ち入ると、うまく日本酒ができなくなってしまうかもしれない。
そんな考えが当時の人たちに広がっていたのではないでしょうか。

男性中心の酒造りが一般的になる中、こうした理由で女性が酒造りの現場から閉め出されてしまったのではないかというのです。
菌や微生物の働きを日本人が知るのは明治時代になってからのことでした。

働く環境に別の事情も・・・

昔の酒造りの様子を知りたいと、麹菌の培養やお米に付着させる作業を行う「麹室(こうじむろ)」を案内してもらいました。
麹の働きをよくするためには、高温多湿の環境が必要不可欠です。
この酒蔵の麹室には、昔ながらの名残が残っています。

麹室の入り口

現在、室内はステンレス製の設備になっていますが、隅には伝統的な木製の「麹蓋」が置かれていました。
「麹蓋」は蒸したお米に麹菌を繁殖させていく作業で使います。
木製は金属製に比べて湿度の調整がしやすく、高品質な米麹に仕上がるといいます。

現在も使われている木製の麹蓋

当時の働く環境も女性を入れないことに関係があったと、竹村さんは考えています。

竹村昭彦さん
江戸時代の麹室はまきや炭をたいて加熱していて、汗をかきながら薄着で作業を行っていました。その仕事は泊まり込みです。
そんな環境で男女間で何か問題が起きていけないと心配して、女性が入れないようにした。
これが現実に近かったんじゃないかと思います。

変化する酒造りの現場

もちろん、今の酒造りの現場は江戸時代とは違います。徐々に女性が酒造りを担うようになっています。
高知県香美市で夫婦で酒造りをしている、有澤綾さんに話を聞きました。
酒造りに強い興味を持つ万太郎の姉・綾と同じ名前ですね。

アリサワ 有澤綾 専務取締役

杜氏である夫・浩輔さんとの結婚を機に日本酒の世界に入り、酒造りにも携わっています。
女性が現場に入ることで起きた変化をこのように語ります。

有澤 綾さん
もともと男性しかいなかったので、働く環境は男性目線でしか整備されていませんでした。
酒造りをする道具のほとんどが「どうしてこんなに?」と思うほど重かった。
そこで、車輪を付けたり、機械を活用したりして、少しずつ改良していきました。
女性が作業できるようになることで、男性にとっても仕事が楽になりました。
どんな人でも、お酒を造りたいと思えば入っていける業界になってほしいと思っています。

全国各地でも女性の杜氏や蔵人が増えているといいます。
多くの女性が参加することで、日本酒業界の姿はこれからもっと変わっていきそうです。
『らんまん』で酒造りに魅せられた綾が、成長する中でどう酒造りに向き合っていくのか、ドラマの行方にも注目です。

  • 五十嵐 優衣

    高知放送局リポーター

    五十嵐 優衣

    カツオには絶対日本酒!
    生酒が好きです。辛口派。

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