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なぜ龍馬が『らんまん』に登場するのか

牧野富太郎博士は学者版の坂本龍馬?舞台裏を紹介
  • 2023年04月05日

ディーン・フジオカさん演じる天狗こと坂本龍馬。朝ドラ『らんまん』に登場して話題を呼んでいますが、そもそも龍馬って史実では高知にいないはず…。ドラマの裏側を徹底取材しました。
(高知放送局 記者 田中開)

「いらん命らあ、ひとつもない」

第3回の『らんまん』で存在感を放っているのが、ディーン・フジオカさん演じる坂本龍馬。
生まれてこなければ良かったのではないか、と悩む主人公、万太郎を力強く励まします。

“天狗”こと坂本龍馬
「生まれて来ん方がよかった人らぁ一人もおらんぜよ。いらん命らあ、ひとつもない」
「己の心と命を燃やして、何かひとつ、事を為すために生まれてくるがじゃ」

激動の幕末を駆け抜けた坂本龍馬と、94年の生涯を植物学に費やした主人公のモデル・牧野富太郎博士の将来を重ね合わせるような名シーンでしたよね。私は不覚にも涙がにじみました。
ただ「あれ?そもそも坂本龍馬って史実だと高知にいたの?」と疑問に思った人もいたのではないでしょうか。確かにそうなのですが、取材すると、龍馬をドラマに登場させたワケが見えてきました。

実際の坂本龍馬は何をしていた?

ドラマで描かれているのは、慶応3年(西暦1867年)3月の土佐・佐川です。
この頃、史実では龍馬はどこで何をしていたのか。

話を聞いたのは、坂本龍馬に詳しい、高知市にある県立坂本龍馬記念館の前田由紀枝さんです。

県立坂本龍馬記念館 前田由紀枝さん
「慶応3年は龍馬にとって非常に大事な年です。土佐藩を脱藩し、各地を転々としながら天下の人物と交流を深めていた龍馬は、この年の1月、土佐藩の参政・後藤象二郎と会談します。そこで話し合われたのが、脱藩した龍馬と土佐藩が手を結ぶという画期的な内容でした」

激動の幕末にあって、当時の土佐藩が目を付けたのが、長州藩や薩摩藩などとの太いパイプを持つ龍馬だったといいます。記念館に所蔵されている当時の資料を紹介してもらいながら、そのころの龍馬の足跡をさらに聞きました。

慶応3年1月13日に長崎の「清風亭」で後藤象二郎と会談した龍馬は、その後3月頃には脱藩したことが正式に許され、翌4月には海援隊の隊長に就任します。この間、主に住んでいたのは下関の伊藤九三という豪商の邸宅だったということです。ドラマのシーンについて聞くと…。

県立坂本龍馬記念館 前田由紀枝さん
「土佐に帰ったという記録はありません。下関でその後の動き方を考えながら、歌会に参加するなど充実した日々を送っていました。時期的には脱藩が許されたことが龍馬や土佐の家族にも伝わっていると考えられるので、現実離れしたシーンというわけでは、実はなさそうですよ」

牧野博士と坂本家の意外なつながり

さらに前田さんは、牧野博士と坂本家の意外なつながりも教えてくれました。
龍馬は慶応3年の11月に京都・近江屋で暗殺され生涯を終えますが、その親族からは、のちの自由民権運動の弁士が次々に登場します。ドラマでも今後描かれますが、実は牧野博士は青年時代、自由民権運動に参加しています。その活動の中で坂本家の人物と関わり、年老いても交流を続けたといいます。

高知・桂浜に建つ龍馬の銅像には今も多くの人が訪れる

県立坂本龍馬記念館 前田由紀枝さん
「中でも龍馬のおいの血筋にあたる土居磯之助という自由民権家との関係は深く、牧野博士が土居を植物採集に誘った記録もあります。こうした人たちから龍馬の人物伝を間違いなく聞いていたと思われ、ほかの資料からも、龍馬にあこがれや敬愛の念を抱いてたことがうかがえます」

牧野博士は学者版の龍馬?

『らんまん』のチーフ・プロデューサーを務めている、松川博敬さんです。
決して史実では交わらない龍馬をドラマに登場させた背景には、ある意図があったと話します。

松川博敬チーフ・プロデューサー
「実はドラマの構想段階で『牧野博士は学者版の坂本龍馬なんです』と説明していました。土佐出身のふたりは活躍の場こそ違えども、一途な思いを持ち続け、常識にとらわれずに生涯を駆け抜けた。我が道を行くその姿は周囲を引き付け、愛される存在でもあったことが重なりました」

「だったら坂本龍馬との出会いが幼少時代にあったらいいな」。
佐川は龍馬が脱藩の際に通った道があったとする説もあり、龍馬にとって無縁の土地ではないだろうとイメージを膨らませながら、作品に仕上げたと話してくれました。

ドラマはフィクションではあるものの、史実では下関に滞在していたことを踏まえ、第3回では迎えに来た別の侍が「何やりゆうがですか、下関におることになっちゅうがですき」と龍馬をとがめるなど、しっかり史実を押さえるシーンも盛り込んだそうです。

『らんまん』では今後も高知が生んだ偉人が登場します。フィクションとして大胆に構成されているからこそできる、そうした偉人と牧野博士の「幻の共演」も楽しみに見ていきたいと思います。

  • 田中開

    高知放送局 記者

    田中開

    2018年入局
    いつか「記者版の坂本龍馬」と言われるように一途な姿勢で取材を続けます

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