悪性脳腫瘍の再発を抑えるウイルス療法

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脳腫瘍麻痺(まひ)がある視力や見え方の異常言葉が出ないしびれがある脳・神経

悪性脳腫瘍で特に再発しやすい「悪性神経膠腫(こうしゅ)」

脳腫瘍は、頭蓋骨の内側にできる腫瘍の総称で、良性脳腫瘍と悪性脳腫瘍に分けられます。

悪性脳腫瘍

悪性脳腫瘍は、いわば“脳のがん”で、国内で年間約6000人が新たに発症するとされています。悪性脳腫瘍のなかにはさまざまなタイプがあり、治療法や治療後の経過が異なります。早期に手術を受ければ根治しやすいタイプもありますが、そうでないものも少なくありません。

悪性脳腫瘍の3分の2を占める悪性神経膠腫(こうしゅ)

悪性脳腫瘍の3分の2ほどを占めるとされる「悪性神経膠腫(こうしゅ)」の場合、5年生存率は8~33%ほどとされています。悪性神経膠腫は、脳の神経膠(こう)細胞に起こる脳腫瘍で、複数のタイプがあります。悪性脳腫瘍の治療は手術が基本ですが、悪性神経膠腫は、がん細胞が脳にしみこむように増殖するので、手術ですべて取り除けたようにみえても、周囲の脳にがん細胞が残っていて、それが再び増殖し、再発することが少なくありません。そのため手術後は、再発を予防したり遅らせたりするために、放射線治療と抗がん剤による治療を行います。手術、放射線治療、抗がん剤による治療を合わせて、悪性脳腫瘍の「初期治療」といいます。

脳腫瘍ウイルス療法薬

悪性脳腫瘍は、初期治療を行っても再発する可能性があります。

膠芽腫(こうがしゅ)

上の図は、頭部を真横から断面でみたものです。脳の上部、矢印で指しているのが、「膠芽腫(こうがしゅ)」です。膠芽腫は、悪性神経膠腫の半分以上を占めるタイプで、初期治療を受けても残念ながらほとんどのケースで再発します。再発した膠芽腫は、従来の治療では進行を抑えることが困難で、1年生存率は約15%とされています。

しかし2021年に、再発した膠芽腫に対して効果が期待できる、「脳腫瘍ウイルス療法薬」に対して健康保険が適用されました。脳腫瘍ウイルス療法薬は、「単純ヘルペスウイルス1型」というウイルスの遺伝子の一部を組み換えた薬です。この薬を腫瘍組織に注射すると、がん細胞の中でウイルスが増殖し、がん細胞を内側から破壊します。さらに増殖したウイルスは周りのがん細胞にも感染し、次々に破壊していきます。

また、がん細胞は本来、自分の細胞から生じて免疫に異物と認識されないため、免疫細胞に攻撃されずに増殖し続けますが、ウイルスに感染すると、免疫がウイルスを排除する過程でがん細胞を認識して、がん細胞も攻撃するようになります。これは、つまりがん細胞に対してワクチンのように働くということなので、再発を予防する効果も期待できます。

治験の結果では、再発した膠芽腫で脳腫瘍ウイルス療法薬の投与を受けた19人のうち、5年以上再発していない人は3人でした。また、ウイルス療法開始後の19人の1年生存率は84.2%で、生存期間の中央値は約20か月でした。従来の治療の1年生存率約15%、生存期間の中央値約9か月と比較して、大きく延びました。

治療を希望する場合

治験の対象は再発した膠芽腫がある人でしたが、健康保険の適用範囲はそれよりも広がり、悪性神経膠腫(こうしゅ)で、放射線治療と抗がん剤による治療を受けたことがある人となっています。
費用については、高額療養費制度を利用することができます。自己負担額は、治療を受ける人の年齢や所得などにより異なりますが、たとえば69歳以下で、年収500万円、健康保険で自己負担3割の人の場合、治療費、入院、手術の費用を合計して月当たり10万円前後となります。
治療を受けられる医療機関はまだ限られているので、治療を希望する場合は、担当医に相談してください。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年10月 号に掲載されています。

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