急性骨髄性白血病の最新治療 高齢患者でも使いやすい薬

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急性骨髄性白血病熱があるせきがでる体がだるい血液

高齢者への負担が大きかった従来の治療

白血病はいわば“血液のがん”です。急性白血病は、進行の速い白血病で、診断される人は国内で年間1万人以上、亡くなる人は年間8000人以上とされています。急性白血病の5年生存率は、年齢が高くなるにつれ下がっていき、60歳以上では5~20%とされています。これは、従来の治療では強力な抗がん剤を使うために体への負担が大きく、高齢者などの場合は治療の選択肢が限られているためです。
白血病は、白血球になるはずの細胞が何らかの原因でがん化する病気で、がん化した細胞を「白血病細胞」といいます。

血液の顕微鏡写真

上の図は、血液の顕微鏡写真で、紫色の大きい細胞が白血病細胞です。白血病細胞が増えるほど、正常な白血球がつくられなくなり数が減少します。治療では、抗がん剤により白血病細胞を死滅させることで、寛解を目指します。寛解は、症状が治まり、白血球の数値が正常範囲になった状態です。
抗がん剤による治療は、白血病細胞だけでなく、正常な細胞にもダメージを与えるため、骨髄抑制という副作用が起こりやすくなります。骨髄は、骨の中心部にあり、赤血球や血小板、白血球など、血液の成分をつくっている組織です。骨髄抑制が起こると骨髄の働きが低下し、血液成分が十分つくられなくなります。そうすると赤血球の減少による貧血、血小板の減少による出血、白血球の減少による感染症を起こしやすくなります。特に高齢者の場合は、こうした副作用が強く現れやすく、治療を中断せざるを得ない場合もあります。また、重い持病があったり、糖尿病や高血圧が良好に管理できていない患者も同様で、強力な抗がん剤による治療を受けられないことも少なくありません。そのため、特に大人の患者が多い「急性骨髄性白血病」の場合、治療が難しいケースが多くありました。
このような場合、これまでは寛解を目指すのではなく、症状をできるだけ和らげて、少しでも体調のよい状態を維持する方法が選択されていました。しかし最近は、高齢者や重い持病のある人でも使える、体への負担が少ない薬に健康保険が適用され、効果を発揮しています。

体への負担が少ない新しい薬

従来から慢性白血病に使われているベネトクラクスというのみ薬が、急性骨髄性白血病にも効果があることがわかり、2021年にベネトクラクスを使った治療法に対して健康保険が適用されました。
ベネトクラクスは、白血病細胞の死を促す薬です。細胞には、細胞が適切に働く状態を保つために、一定期間が経過すると積極的に自死する仕組みがあります。これをアポトーシス(細胞死)といいます。

アポトーシスを抑えるBCL2というたんぱく質

しかし、白血病細胞はアポトーシスを抑えるBCL2というたんぱく質を過剰につくりだすため、白血病細胞はなかなか死なずに増殖し続けます。

ベネトクラクス

ベネトクラクスは、BCL2と結合してアポトーシスを抑える働きを妨げる薬で、白血病細胞のアポトーシスを促す効果が期待できます。また、ベネトクラクスは骨髄以外の細胞への影響は少ないので、強い副作用が現れる頻度が、従来の抗がん剤治療と比べて少ないとされています。

健康保険が適用

健康保険が適用となったのは、ベネトクラクスとアザシチジン(注射薬)を併せて使う方法と、ベネトクラクスと少量のシタラビン(注射薬)を併せて使う方法の2つがあります。従来の抗がん剤が受けられない人に対して行なわれた臨床試験では、2つの治療法とも、5割ほどの人が1か月ほどで寛解に至りました。
一方、4人に1人ほどの割合で重い副作用が生じ、治療を中止せざるをえないケースもみられました。このような課題があるものの、多くの高齢者や持病がある人にとって、新しい治療の柱になると期待されています。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年10月 号に掲載されています。

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