詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2018年4月 号に掲載されています。

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悪性脳腫瘍は希少がんの1つです。希少がんとは、年間の発生率が10万人当たり6人未満で、患者数が極めて少ないがんです。希少がんは200種類近くあるといわれており、がん患者全体に占める割合は、5~7人に1人程度と考えられています。
希少がんは病気のデータも少なく、ほかのがんに比べて情報を得たり、治療を行ったりするうえで、多くの課題や困難があります。
脳腫瘍は、脳やその周囲など頭蓋骨の中にできる腫瘍(できもの)で、さまざまな種類があります。脳やその周囲の組織から発生する原発性脳腫瘍と、ほかの臓器で発生したがんが脳に転移する転移性脳腫瘍に大別され、原発性脳腫瘍はさらに良性と悪性に分類されます。
良性脳腫瘍は、髄膜や神経、下垂体など脳の外側から発生します。増殖する速度が遅く、正常な組織との境目もはっきりしているので、手術で全摘出できれば再発することはほとんどありません。
一方、悪性脳腫瘍は脳そのものから発生します。原発性脳腫瘍を発症する人は年間2万人程度と考えられ、そのうちの約半分が悪性脳腫瘍です。悪性脳腫瘍はいわば「脳のがん」で、急速に増殖を増大する上に、正常な組織との境目がはっきりしないという、やっかいな特徴を持っています。
そのために再発もしやすく、治療をしないと命に関わることもあります。
原発性脳腫瘍の38%を占めるのが、脳を包む髄膜にできる髄膜腫です。脳そのものにできる神経膠腫(しんけいこうしゅ)(グリオーマ)が29%、さまざまなホルモンを分泌する下垂体にできる下垂体腺腫が16%、脳神経にできる神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)が8%、そして血液中のリンパ球ががん化する中枢神経系悪性リンパ腫が2%です。
悪性脳腫瘍にあたるのが、大半を占める神経膠腫(グリオーマ)と、血液のがんが脳にできる中枢神経系悪性リンパ腫です。神経膠腫は、年間10万人あたり4~5人が発症すると考えられています。この2つの悪性脳腫瘍は、「急速に増殖・増大する」「正常な組織との境目がはっきりしない」といった特徴があるので、再発もしやすく、命に関わる非常に怖い病気です。
悪性脳腫瘍の症状を知って早期発見する方法脳腫瘍の手術法の進歩によって、以前よりも腫瘍を広く安全に切除できるようになってきています。また腫瘍をできるだけ広く切除しながら、脳の機能を保つことができる手術が行われるようになっています。
覚醒下手術は、言葉や運動の機能を温存するため、患者さんと対話をしながら脳の言語をつかさどる部位などを避けて行う手術法です。
術中脳波・筋電図モニタリングは、脳や手足を刺激して脳波や筋電図を記録することで、手足の運動機能を温存し、まひが残らないようにします。
術中蛍光診断は、手術前に特殊な薬をのむことで、光を当てると腫瘍が赤く光るようにして行います。腫瘍の場所がわかりやすくなり、より的確に切除しやすくなります。
術中MRIは、MRIで脳内に残っている病変を確認しながら手術を行うことで、腫瘍の取り残しを防ぐのに役立ちます。
脳の内部(脳実質)にできる腫瘍、神経膠腫(グリオーマ)のほとんどは悪性なので、手術によって摘出します。ただし、正常な脳組織との境目がわかりにくいので、脳の機能を保ちつつ可能なかぎり腫瘍を摘出します。そのため、完全摘出は困難です。
手術を安全に行うために、手術中に腫瘍の位置を確認する術中MRIを行ったり、手術部位をモニターに表示するナビゲーションなどの技術が用いられます。
また、5アミノレブリン酸という物質を服用すると、青色レーザーを患部に照射したときに取り残した腫瘍が赤く光るので、取り残しを防ぐことができます。さらに、手術の途中で麻酔を覚まし、会話したり、手足を動かしたりしてもらいながら、脳に機能障害がないかを確認することもあります(覚醒下手術)。
手術中には病理検査を行い、悪性かどうかや悪性度を調べ、抗がん剤が効きやすいかどうか(MGMT)を分析します。
神経膠腫は、手術で腫瘍を全て取り除くことが困難なため、残った病変を小さくしたり、大きくなるのを抑えたりするために、手術後も治療が行われます。
手術中の病理検査の結果、65歳以上でMGMT活性がある場合は、抗がん剤が効きにくいので、手術後に放射線療法を行います。MGMT活性がない場合は、テモゾロミドという抗がん剤による化学療法を行います。65歳未満では、放射線療法と化学療法を併用します。放射線治療は、正常な脳組織に影響しないように少量の照射を週5回行い、それを6週間続けます。
神経膠腫のなかでも悪性度がもっとも高い膠芽腫(こうがしゅ)に対しては、テモゾロミドを1年間服用し、病気の状態によってはベバシズマブという薬が追加されることもあります。
これらの治療を終えたあとも、脳の状態や再発の有無を確認するために、定期的にMRIによる画像検査を受ける必要があります。
悪性脳腫瘍はほかの部位に転移することは、ほとんどありませんが、再発することはあります。悪性脳腫瘍は治療から20年後でも再発する場合があるので、ほかのがんとは異なり、少なくとも治療後10年間は1年に1回は検査を受け確認することが大切です。
再発した場合は、手術や放射線治療を再度行ったり、抗がん剤の追加や変更をして治療します。再発に対する新薬や治療法の開発が進められており、がんセンターや大学病院など、より専門的な施設を受診し、新薬の治験を含めた最新の治療を受けることが勧められます。
詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2018年4月 号に掲載されています。