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移住社長の“恩返し”音楽祭

上場企業社長が本気で移住・本社移転までしたワケ
  • 2023年10月03日

9月下旬、過疎化に悩む珠洲市で、有志の手弁当で小さな音楽祭が開かれました。主催したのは東京から珠洲に移住した、ある上場企業の社長。その理由とは…
(アナウンサー 浅野達朗)

※【期間限定】動画は12月5日までお楽しみいただけます。

過疎の町に集まった有志の演奏家たち

9月23日、珠洲市で開かれた、「第1回 奥能登 珠洲 風の音楽祭」。演奏したのは、東京など各地から駆け付けたプロやアマチュアたち。

企画したのは、2年前に東京から珠洲に移住した岩城慶太郎(いわき・けいたろう)さんです。

東京生まれ東京育ちの社長が珠洲にほれ込んで移住

能登半島の先端、珠洲市。

岩城さん、実は東京に本社を置く上場企業の社長です。子会社を含めると社員は1400人以上。医薬品などの開発や製造、販売をおこなっています。東京生まれ東京育ちの岩城さんですが、旅行がきっかけでこの土地が気に入り、何度も訪れるうちに移住を決めました。

移住した決め手の一つが、地元の人との関わりです。
移住前から何度も訪れていましたが、その際に地元の人から魚や野菜をもらうなど、東京ではなかった経験をしました。 

東京での暮らしには無い魅力を感じ、骨をうずめる覚悟です。

岩城慶太郎さん
「ここの場所がいい。この場所で一生を終えたいとまで思ったんです。この場所でずっと死ぬまで生きたい。」

過疎地域はビジネスの種が眠る“宝の山”

一方、社長として、珠洲でビジネスの種を次々と見つけ、収益をあげています。
東京本社の機能の一部も珠洲に移転。新規事業の開発をここでおこなっています。

「珠洲は日本でも一番ひどい過疎の場所の一つですけれども、おそらく見方を変えると30年進んだ場所。その30年進んだ場所でビジネスを起こすことができたら、そこで起こったビジネスは30年後には日本のデファクトスタンダード(事実上の標準)になっているだろうと思います。」

地元の農家との会話の中でヒントを得て、市内に多くある耕作放棄地や休耕田に着目。
まだ日本にあまりない外国原産のハーブの栽培を始めました。お茶として販売し、軌道に乗っています。 

さらに、地元の造り酒屋や農家と、珠洲産のコメを使った酒造りも始め、9月から販売しています。

珠洲に移住して2年。スピード感のあるビジネスの立ち上げには、珠洲という地域が適していたと言います。

「人口が少なくて調整しなくちゃいけないステークホルダー(利害関係者)が少なくて、すぐに物事ができるっていう場所は、田舎の方が都会よりもずっと、新規事業を起こすには向いているというふうに思ったんです。それを横展開して日本中に、できれば世界中に広げていくというのが我々のビジネスのコンセプトです。」

感謝の気持ちを音楽で伝えたい

お世話になっている珠洲に、子どもの頃から続けている音楽で、恩返しができるのでは。そう考えた岩城さんは、手弁当で、無料の音楽祭の開催を決意します。

「珠洲の人たちにすごく良くして頂いたから、それの恩返ししたいみたいなふうになんとなく思うんですけれども、でも簡単に言うと、やりたいからなんです。この土地で音楽を奏でることがとても幸せだと思いますので、この幸せを皆さんに知って頂きたいです。」

音楽祭当日の9月23日。会場のロビーには開演前から多くの人が詰めかけました。すると…

サプライズのミニ演奏会がスタート。来てくれた人に感謝の気持ちを伝えます。

会場に100人以上がつめかける中、岩城さんもファゴットやサックスを演奏。指揮もつとめ、会場を盛り上げました。

「珠洲は一回くれば絶対恋に落ちるっていう、そういう場所なんじゃないかなと思います。珠洲の皆さんによくしてもらった分がございますので、これが全然返しきれていないので、たぶん一生返しきれないんですけど、ずっと返していきたいと思います。」

 

取材後記

今まで各地を取材していて、取材先から「田舎はしがらみが多い。新しいことができない」みたいなことを聞くことが多くありました。取材中、岩城さんにそういうことはありませんか?と聞いたところ「珠洲はそういうフェーズ(段階)は過ぎた。誰でもなんでも受け入れてくれる。」
さらには「珠洲は宝の山ですよ!最先端の社会課題がそこら中に転がっているんです。」とも話していて、経営者としての視点の鋭さを感じました。

また、音楽祭で演奏に来た人たちは、岩城さんの知人・友人がほとんどで(中には珠洲が気に入って何回も来ているという人も!)演奏会後の打ち上げでは、皆さん珠洲が気に入って満場一致で来年もこの音楽祭をやろう、という話になったそうです。
私も珠洲で取材をしていて、景色も良くて食べ物もおいしくて人も親切で、岩城さんに言うように「珠洲に恋して」しまったうちの一人になりました(笑)
引き続き、珠洲、そして石川県内を取材していきたいと思いました。

  • 浅野達朗

    NHK金沢 アナウンサー

    浅野達朗

    クラシック音楽には疎いのですが、今回の取材で、20年以上前にやめたピアノを再開しようと決意。

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