鹿児島市役所「地下食堂」 61年の歴史に幕
- 2023年03月23日
長年にわたり愛されてきた、鹿児島市役所の「地下食堂」。今月10日に最後の営業日を迎え、61年の歴史に幕を降ろしました。先代の父から店を引き継ぎ、30年以上にわたってのれんを守り続けてきた娘の思いとは?最後の1日を見つめました。
(鹿児島放送局 金子晃久)
【階段を下りた先に昭和が・・】
登録有形文化財にも指定されているレトロな外観の鹿児島市役所の本庁舎。
その地下にあるのが・・・
昭和37年に創業した鹿児島市役所の「地下食堂」です。
61年にわたって、職員だけでなく地元の人たちからも愛されてきました。
そんな老舗食堂の看板メニューが、創業以来変わらないレシピで作られてきた「カツ丼」(530円)です。食べ応えのあるカツに甘辛いつゆの組み合わせが食欲をそそります。
厨房を支えるのは、7人の女性スタッフ。いずれも、長年にわたって店を支え続けてきたベテランです。注文が殺到するなか、手際よく料理を提供していきます。
【父娘2代でつないだ思い】
店の代表を務める西元美貴子さん。先代の父・常秀さんから店を引き継ぎ、30年以上のれんを守り続けてきました。
店の“看板娘”でもある西元さん。最終日には、一目会おうと大勢の常連客が訪れ、店との別れを惜しんでいました。
就職してからですから、50年くらい通っています
もうちょっとやるのかなと思っていたので、残念です
食堂が一番いいですよね。レストランとかは苦手というか入りやすいですからね
コロナ禍による客足の減少や物価高にも耐え、価格据え置きで営業を続けてきましたが、経営への打撃は大きく、今月かぎりで閉店することに。
しかし、少しでも安く料理を提供しようと「お客様第一」を貫いてきた歴史に悔いはないといいます。
「もうちょっと値段を上げんな」って言われるんですけど、「上げたいけどね」って 言いながら上げずじまいでしたっていう感じですかね
気張って、気張って頑張りました
閉店を惜しむ花束の山
そして、午後2時半。最後の客を見送り、61年の長い歴史に幕が降ろされました。
店には、常連客からは届けられたたくさんの花やプレゼントが。最後に従業員と記念撮影をした西元さんの目には、うっすらと涙が浮かんでいました。
本当に楽しい職場でした。生きがいでしたね。お客様がいらしてくださらないとうちは成り立たないので、あんまりきれいでもない食堂に来てくださったお客様には本当に感謝しています
多くの人に惜しまれながら閉店した、鹿児島市役所の「地下食堂」。市によりますと、今後は新しい委託業者を探し、引き続き食堂を運営していきたいとしています。
【取材後記】
実は私も、「地下食堂」の熱烈なファンの一人でした。一番好きだったのはもちろん「かつ丼」。熱々のどんぶりは、午後を乗り切る元気を与えてくれました。そして、料理の安さもさることながら、「ちゃんぽん」や「オムライス」など、和洋中ジャンルを問わないメニューの豊富さにも驚かされました。いつも多くの人が、思い思いの料理をおいしそうにほおばっていたのが印象に残っています。
どこか懐かしいレトロな雰囲気もあいまって、地元の人たちにとっては、憩いの場でもあったのかもしれません。積み上げられた花やお菓子は、父娘2代にわたる「お客様第一」の歴史を物語っていました。今後しばらくは、私も含めて多くの市民が、あの味と雰囲気の余韻を引きずってしまうかもしれません。