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なぜ北海道の電気代は高いの?識者に聞いてみた③

  • 2023年6月23日

よく行く食堂のランチが値上がりした。そんな経験をしたのは、きっと私だけではないはずです。その食堂に聞くと「食材や電気料金などの光熱費が値上がりしていて、すみません」とのことでした―。

家庭向けの電気料金のうち、道内の7割以上にあたる230万戸が契約する料金プラン「規制料金」について、北海道電力は6月1日から平均23.22%の値上げを行いました。一方、工場やオフィス向けの電気料金はこれより先に値上げされていましたが、家庭向けより「すごい値上げ」という指摘があります。
こう指摘するのは北海道電力出身のエネルギーコンサルタント、越智文雄さん。その背景には料金設定に上限のない自由料金にも関わらず、競争相手が少ないという状況があるといいます。どういうことなのか。そしてこの値上げを乗り切るには。お話を聞きました。

■有識者プロフィール
越智文雄さん

元北海道電力広報課長、エネルギーコンサルタント。大手電力会社の業界団体、電気事業連合会の元副部長。

規制・競争無で“すごい値”

Q.4月に事業所向けのプランが値上げされました。家庭向けと比べると料金は違うのでしょうか。

A. 「高圧」という、業務用や産業用の料金プランがありますが、こういったところは実は政府の申請も査定もない、いわゆる自由な料金体系の分野です。業種でいいますと、事務所、ホテル、病院、学校、自治体の庁舎があります。産業用でいいますと、大きな工場、中小工場もそうですね。それから酪農家や水産加工場。ほぼ産業、地域経済に関わる大きな分野は高圧電力で自由料金になっています。

普通「自由料金」と聞くと、自由に競争をして下げていくという分野だったんですが、ここ数年のうちに競争していた多くの中小の新電力が撤退してしまいました。理由は「電力プール」という卸電力市場の価格が非常に高騰したこと。そこから電力を仕入れていた新電力がかなり撤退してしまったのです。
いわば既存の電力会社にとっては競争相手がほぼいない、1社独占にほぼ戻りつつある。戻ったんだけど、昔のような申請や査定などの厳しいところがなくなっているのが自由分野というわけです。そのため、家庭向けの低圧に比べて、高圧のほうがものすごい値上がりになっています。

値上げは4月1日から始まっていますが、北海道電力の業務用の標準的な単価は、去年の時点では1キロワットアワーあたり18円だったのが、今年は33円、8割の値上がりです。全国的にも東北で101%、北陸で121%、中国は125%、沖縄も97%というように倍近く、倍以上あがっています。要は自由化で下がるはずだったのが、ノーコントロールで電力会社が積み上げた電気料金がダイレクトに請求されている状況です。お客様としては、自由化分野ですから、ほかに安い電力会社を探そうということになるのですが、安いところが見渡してもほとんどなくなっちゃったので、言われた通りの値段で契約せざるを得ないというのが苦しいですよね。

実際に届いた電気料金の請求書

あらゆる商品価格に波及

Q.値上げの影響の大きさはどう見ていますか?

1970年代のオイルショックのときよりも、今の方が値上がりが大きいと思っています。もともとロシアがウクライナに侵攻したという国際紛争の影響があって、このエネルギー事情の変化は、電力会社や各地の自治体が手に負えるものではありません。
政府は激変緩和対策として、家庭向けで1キロワットアワーあたり7円、同じく高圧で3.5円ほどの補助を行っていますが、こちらは暫定措置で9月で終了しますし、8割9割の値上がりが起こっている今、政府には悪いですが焼け石に水というレベルです。

今後も夏のクーラー需要、冬の暖房需要の増加や、燃料の価格によって変動する「燃料費調整単価」が突然上がってくることも想定されます。観光需要がせっかく膨らんできているのに、電気料金のせいで産業が冷やされてくるのが心配です。

それともう一つ、電気料金の特徴としては他の物価上昇と違って、あらゆる産業、あらゆる人にかかる「価格転嫁」が起きます。つまり、電気料金が値上げした分、ものづくりでもサービスでも飲食店でも製品単価、商品単価に上乗せされるのです。価格転嫁できなければ、その産業はつぶれてしまいます。そういう意味で、今回の値上げというのがどこまで波及していくかですよね。政府が抜本的な大きな対策を打たないと、非常に心配な事態が起きるのではないかと思っています。

価格転嫁のイメージ

こんな事例もあります。北海道と並んで、全国でトップレベルの電気料金である沖縄では、沖縄の知事、首長、議員さん、経済界が一体となって要望、陳情を繰り返しまして、国の特別な交付金「沖縄特措」が適用されることになりました。さらに自治体でもなんとか捻出して、結果的に沖縄では今回の値上げが、家庭向けで平均2%台で済んだと。9月までの特別措置だそうですが、このように政治が動いたという例もあるそうです。政府は全国でこういう対策を取らないと、コロナで弱体化した経済に、電気料金の値上げが追い打ちをかけている今、大変困難なことになるだろうと予測しています。

実際に、現場は難しい状況になってきています。私のところに相談があったホテルのケース。このホテルは、これまで年間で7千万円の電気代を払っていましたが、この4月から改定された単価で計算すると1億数千万円になるといいます。そう大きくないホテルでも、5千万円の負担が増えるということです。考えてみてください。1件あたり1万円だとしたら、新たに5千件のお客さんに来てもらう必要があります。無理ですよね。キャパシティとしても不可能ですし、値上げをしたらまずお客さんが来ません。請求書が来た今、値上げ額を目の当たりにした各社は対策を考え始めていると思います。

機器更新・新電力・自家発を

Q.対策として、できることはあるのでしょうか?

今やり残していることを全部やりつくすしかないと思います。たとえば、照明がまだ蛍光灯や電球でしたらLEDにするとか、空調とか冷蔵庫とかクーラーとか、そういうもので効率の悪いものは最新のものに変えていく。これを体力のあるうちにやることが大切です。いよいよ体力がなくなってくると、省エネ投資すらできなくなります。

それから、新電力に切り替えること。先ほどかなりの数の新電力は撤退してしまったと申し上げましたが、残っている会社の中でも電力会社の供給曲線と自社の需要曲線が合致すれば、安く済む場合もあります。また北海道は夏にはあまり電気を使わず、冬はたくさん使うといった季節需要があるので、基本料金がぐっと安くなる新電力と契約すると、それなりに下げることができると思います。

そして最後に、抜本的な話になりますが、もう自家発電をしてしまう方法もあります。自前で太陽光パネルと蓄電池をセットして自分で電気をつくる。電気料金が高くなった今、これまでよりも元を取るのが簡単になっているのも事実です。今までは30年でも元が取れなかったのが、15年で元が取れるのならば、これはやるべきなんです。北海道電力も「原子力発電所が動けば値下げする」と言っていますが、それを待っていては遅く、もはや電気料金対策を真剣に急いで考えていかねばならない段階に来ていると思います。

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