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請求書が届いた…どうする電気料金?

  • 2023年6月12日

6月1日からの値上げされる家庭向けの電気料金。実はすでに請求書が届いているところがあります。「高圧」や「特別高圧」という業務用の工場やオフィス向けの料金プランはすでに4月から値上げされ影響が出始めています。今回、取材にお邪魔したのは特に大量の電気を使う企業です。先行事例として現場を取材しました。

6月13日放送予定でしたが、27日(火)に延期となりました。
値上げされる電気代…前回の放送記事はこちら

不況の業界に追い打ち

先日5月9日の放送やウェブコンテンツ(北海道電力の電気料金 値上げで世界一に⁉ | NHK北海道)で、みなさんからも今後「掘り下げてほしいこと」(北海道電力の電気料金 値上げで世界一に⁉ | NHK北海道 放送後記)について特に多かったのが「値上げの影響」でした。「特に影響が大きいのはどこか…」考えながらキッチンに立っていたところ「早く閉めて」と声が聞こえました。冷蔵庫を開きっぱなしにしてしまっていました。待てよ、大きな冷蔵庫のような冷凍倉庫を営む会社は大変なのでは…。業界団体の北海道冷蔵倉庫協会にお伺いすることにしました。

さっそく電話したところ、詳しく窮状を教えてくれました。特に大変なのが消費地の札幌圏から離れた水産物の産地に近い道東の釧路などの倉庫とのこと。近年続く不漁の影響で荷物を集めるのに苦労しているなかで、電気料金の値上げが追い打ちになっているというのです。「会社には言っておくのでぜひ取材してください」。

紹介を受け訪ねたのが釧路市の釧路東水冷凍。4つの冷凍・冷蔵倉庫・製氷工場を備えるこの会社。出迎えてくれたのは宮脇力社長=写真下=です。さっそく冷凍倉庫の1つを案内してくれました。節電のため入口の自動ドアの開閉も最小限にしているということで、早歩きで宮脇社長のあとに続きます。もくもくと白いもやが立ち上るなかで、中に入っていくと、ひんやりとした空気のなか天井には大きなつららが。聞くと倉庫内の温度はマイナス25度とのこと。広い倉庫内にサケやホッケなどの水産物の入った箱が積んでありますが、すき間も目立ちます。聞くと繁忙期にはフォークリフトが通ることができるくらいの細い通路を挟んで満杯になることもあるとのことですが、いまは閑散期。特に近年は漁獲量の減少で荷物集めに苦労しているとのこと。「倉庫に1つでも荷物があれば全体を冷やさなければならない。いまの水産環境だけでも大変です」。自社で加工しているサケの切り身の材料はロシアから輸入していますが、仕入れ価格は円安の影響で高くなっているとのことで経営は厳しいといいます。

「これが4月分の請求書です。どうしようか分からない」。事務所に戻りさきほど案内してくれた工場の請求書を見せてくれました。この工場は閑散期の4月でも1日で一般家庭のおよそ半年分の電気の量を使います。値上げ前と比べると50万円近い負担増で、会社の4つの冷凍・冷蔵倉庫・製氷工場すべて合わせると、燃料費高騰分が料金に転嫁されていた昨年と比べても年間1,600万円を超える負担増となる試算が北電から示されているということです。「100円のサケの切り身を10円値上げすると買ってもらえない。売ってもらえない」と取引先への価格転嫁にも悩んでいます。北海道冷蔵倉庫協会によると転嫁を荷主に受け入れられずに長年続けた冷凍倉庫事業を辞める判断をした会社もすでに出ているということです。宮脇さんは料金値上げを伝えに来た北電の担当者を問い質したところ、「ほかの電力会社を選んでいただいても構いません」とにべもなかったといいます。「値上げの必要性は分かるがそのまま転嫁して迫って来るというのは我々民間ではできないこと。まったく納得できない」。

家庭より割高なのは

この会社の「高圧」というカテゴリーの電気料金を、家庭向けの規制料金と比べてみます。家庭向け電力量単価の値上げ率は最大1.4倍程度に対して、この会社は夜間時間以外でも最大1.8倍超で、割高になっています。基本料金については、値上げ幅が家庭向けでおよそ1.1倍なのに対し、1.4倍を超えています。この基本料金は、直近1年の最高需要をもとに決まり閑散期も電力の使用量に関わらず定額を負担します。

では、どのように価格は設定されたのか。北電は「燃料価格、卸電力市場価格の上昇分を反映して、電源構成の実態に合わせるとともに、加えて競争環境なども総合的に勘案して価格を設定している」としています。規制料金は消費者保護の観点から上限が設けられ国の査定を経て料金額が決まるのに対して、自由料金には上限がありません。今回、規制料金の値上げの申請は燃料費の高騰分が上限に達し赤字額が膨らんだのが主な理由でしたが、自由料金は燃料費の高騰分が上限なく料金に反映されてきた経緯があります。にも関わらずさらなる値上げをいわば強気に行える背景には何があるのでしょうか。

競争環境も勘案

電気料金が全国的にも高い水準の北海道では、大手電力会社以外のいわゆる新電力と呼ばれる会社のシェアが一時、特別高圧で19.4%(2022年3月)、高圧で37.4%(2018年11月)といずれも当時ほかの大手電力管内と比べて最も大きくなっていました。しかし直近の2023年1月は特別高圧が3.5%、高圧が11.2%と大きくシェアを下げ、いずれも全国平均を下回る水準となっています。この背景には、2022年1月に卸電力市場で起きた価格高騰による影響が業界に色濃く残っていることがあります。それまで1キロワットアワーあたり平均7~8円程度だったのが1月15日に一時250円を超え、1月の月間平均価格も66円を超えました。これは大手電力に比べて独自の電源が少なく卸電力市場から調達することの多い新電力の経営に特に打撃となり撤退が相次ぎました。2022年度の新規の契約を停止していた新電力は「売れば売るほど赤字になるので停止せざるを得なかった」と振り返っています=図上=。北電の相対取引による収入増は販売単価の上昇などで10年前と比べ472億円増えています。元北電広報課長のエネルギーコンサルタント、越智文雄さん=写真下=は「競争がなくなりコントロールされない状況ならば、誰からも査定されない形で自分たちの思いどおりに値段がつけられる。本来は自由化分野で安いところを探せるはずだがほとんどほかにいない状況」と指摘します。

さらに10年前に電源の5%を構成するとしていた原子力発電を0%に見直したこともあります。原子力はいわゆるベースロード電源として、時間帯を問わず一定量を安定して供給できる反面、急に止めることは難しく供給に合わせ一定量の需要が必要になります。こうした夜間の“余った”電力がいまはない状況です。昼間も夜間も区別せずほぼ同じ額が値上げされた結果、元々安かった「夜間時間」の値上げ率が大きくなっている格好です。高圧や特別高圧の業務用の工場やオフィス向けの料金プランは夜間時間で2倍を超える値上げとなっています。道内の特別高圧の製造業の幹部は5月に届いた請求書を見て覚悟していたとはいえ驚きを禁じ得なかったといいます。「何十年も務めているが見たことない請求書。深夜帯のメリットが無くなると昼間の操業を増やすなどの調整も検討しなければならない。ただかなりの電力規模となることから、夏場などの需要期には電力をひっ迫させてしまう危険性もある」と話しています。

夜間は値上げ率大

家庭向けでも、夜間料金のある自由料金のプランがあります。蓄熱する給湯器や暖房機を使うオール電化住宅向けのプランで、夜間時間の料金単価は1キロワットアワーあたり26円あまりで1.8倍となりました。規制料金の最も安い料金単価の1キロワットアワーあたり35円あまりと比べると安いですがここの値上げ率は1.47倍なので、相対的に夜間時間の値上げ率が大きくなっています。空知の浦臼町にあるオール電化の公営住宅に住む60代の男性は「ことし1月の電気代は63,000円を超え去年と比べて2万円以上上がっている。ことしの冬に向けて光熱費を減らしたいが蓄熱機などを北電から借りており電力会社の変更は考えていない」と話しています。北電は夜間の蓄熱が一般的な蓄熱暖房器を、生活に合わせて稼働させる寒冷地向けエアコンに取り替えるなどする際に設置費用を補助する取り組みを行っています。これにより光熱費を減らせるとしています。

燃料費 直近は安く

この料金に対して、実際の請求額には、国による負担軽減策として1月から1キロワットアワーあたり家庭向けで7円、企業向け(特別高圧を除く)で3.5円の補助が付きます。また太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを導入するために課されている賦課金が4月から2円あまり安くなったほか、燃料費等調整制度について直近の燃料市場価格や為替レート、卸電力市場価格を料金に反映させた結果安くなりことし1月と比べると4月は11円あまり安くなります。これらを合わせると実際の負担はかなり軽くなる格好です。ただ燃料費は厳冬などで再び上がりかねないことも想定されているほか、国の負担軽減策も9月までです(9月は補助額が半額に)。昨年10月にこの補助を決定した際に国は「今回の値上げ申請も念頭に置きながらこの春以降の激変緩和措置とした。10月以降は一切が未定。今後の資源価格の動向も見極めていく必要がある」(資源エネルギー庁)としていました。

釧路で冷凍倉庫を経営する宮脇さんは企業としての存続に危機感を覚え悩んだ末に行政への負担軽減策の要望できないか、地元の経済団体に呼びかけることとしました。今回の値上げ幅は燃料費等調整を考慮しないと電力量単価だけでも1キロワットアワーあたり14.79円ですので、国による3.5円の負担軽減後でも11円あまりの負担増となります。また先ほど触れたとおり使った量に関わらず定額負担する基本料金は1.4倍を超える値上げ率となっています。料金の水準が北海道と一、二を争う水準となっている沖縄電力管内では県が独自に家庭向けで3円、企業向けで2.3円の補助を上乗せしています。要望を受けその受け止めについて問われた北海道の鈴木直道知事は9日、国の負担軽減策の対象外となっている特別高圧の中小小規模事業者への支援や医療機関や介護・障害福祉施設、私立学校への支援などを先月決定したことに触れ「まずはこういった取り組みをしっかり進め影響の緩和に努めていきたいというふうに考えています。来週の中央要請において電気料金の値上げによる影響緩和について、国にさらなる対策を講じるよう求めていきたい」と述べました。宮脇さんは「体力のないところはどんどん倒れていくのではないかと心配です。1分でも1秒でも早く負担軽減のために国が動いてほしい」と話していました。

さて、前回に引き続き電気料金の疑問に応えるべく取材を進めている次回のシラベルカですが、放送は6月27日(火)午後6時~「ほっとニュース北海道」で! LINEと投稿フォームで皆さんに今後取材してほしいことについて募集します。

▼電気料金を安くするには
▼料金値上げの影響をもっと

合わせてご意見も募集したいと思いますのでぜひご参加ください!

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