『道南ドキュメント7.2時間』#7~函館・閉店間近のバッティングセンター~
- 2023年10月18日
道南のとあるスポットを7時間ちょっと定点取材する『道南ドキュメント7.2時間』。 第7回の舞台は函館市のバッティングセンター。開業は1979年。道南唯一といわれる屋外バッティングセンターで長年親しまれてきましたが、10月29日に閉店することに。 スポーツの日に訪れた人たちにお話をうかがってきました。 (報告:NHK函館 平田泰大)
10月9日(祝・スポーツの日)正午取材開始
暖かく青空が広がり、まさにスポーツ日和となったスポーツの日。正午から取材を始めました。このバッティングセンターは全部で8打席。ストラックアウトが2つあります。
取材開始直後、子どもたち3人がバッティングを楽しんでいました。
12:05 函館から
「父:市内からです。この子たちサッカー少年なんです。今から北斗市でサッカーの練習があるんですけど、その前に来ました。一番下の子は初めてのバッティングです」。
「小学1年生:楽しかった!」
(もう野球やっちゃう?)
「うん、もうやっちゃう~!」
「父:サッカーもういいのかよ!笑」
12:30 北斗市から自転車で来た親子
自転車用のヘルメットをかぶりながら笑顔でバッティングをしている男の子が。
お母さんがネット越しに「腕疲れたら休んでいいよ」と声をかけても「まだやる!」と
夢中になっています。
「母:北斗市から小学2年の息子と自転車で来ました。こないだ偶然このバッティングセンターを発見して、きょうで2回目なんです」。
(まもなく閉店してしまうんですが)
「え~!!せっかく見つけたばっかりだったのに・・・残念です。今バッティングセンターとかがあまりないから、やっと遊べる場所見つけたと思ったのに。遊べる場所どんどんなくなっちゃいますね」。
12:50 元甲子園球児
少しずつお客さんが増えてきた中、ひときわ快音を響かせる男性が。
(すごい打球音でしたが経験者ですか)
「はい。駒大苫小牧高校出身で甲子園にも行きました。いまも函館太洋倶楽部で社会人野球をやっています。まもなく閉店ということできょうは来ました。僕は小学校から野球をやっていてずっとここに通っていたのでさみしいです」。
13:05 高校球児の母
高校3年生の息子がバッティングする姿を見つめるお母さんにお話をうかがいました。
「息子はこの夏野球部を引退したところです。朝練が早いから毎朝お弁当を作ってね。一日お米を3~5合ぐらい食べたかな。途中でケガをしてこの夏ギリギリ間に合ったぐらいですが、よくがんばってました。私も大変でしたけど息子のためですから。子育てもこれで終わるし。きょうはスポーツの日で天気も良くていいですね」。
13:30 受験勉強の息抜きに
高校3年生の3人と出会いました。
「右:きょうは祝日ですが大学受験の面接の講習を受けてきました。そのあと図書館で勉強しようと思って、その合間にここに来たんです」。
(みなさん進路は決まっているんですか)
「左:僕は函館の大学を一般受験しようかと。勉強の息抜きに来ました」。
「中央:僕は看護学校です。小学校のときにおじいちゃんが脊髄損傷で寝たきりになってしまって、助けになりたいなと思って」。
「右:自分は札幌の医療大学ですね。看護師になりたくて4年でがんばって知識をつけたいと思っています。就職先も札幌がいいです。函館を出たいなと思ってて。函館はここもそうですけど、どんどんお店が潰れていって高齢化にもなって・・・もっと都会で看護師になりたいです」。
13:55 児童関係のお仕事
「閉まると知ってから何度か来てます。小学校のころからずっと野球をしていました。社会人になってからは仕事上で子どもと野球することはありますよ」。
(マイニュースはありますか)
「北広島市のエスコンフィールドに何回か行って、やっぱり生で見る楽しさに気づきましたね。5~6試合見て勝ったのは2回だけでしたけど(笑)。バッティングセンターに通うひとつのきっかけにもなりました。鹿部町出身の伊藤大海投手は同じ道南出身として応援していますよ!」。
14:10 今金町から2時間半かけて
今金町から車で2時間半かけてやってきたという、にぎやかな家族の姿が。
お父さんは小学校からずっと野球をやっていて、今も草野球の監督をしているそうです。
「子どもが野球をやるようになってからよく連れてきてたので、閉店は本当に残念です。こうやって集中して打てる環境ってなかなか無くて・・・全体練習だとどうしても一人何球かずつしか打てないので。函館のチームの子たちも困ってるんじゃないかな。野球人口が減ってきたなか大谷選手の活躍でせっかく子どもたちが盛り上がってきたところなんだけどね」。
(息子さんが野球をする姿はいかが)
「子どもにとっては親が野球をやってると口うるさいから嫌だと思うんですけど、自分と同じ道を歩んでくれるのはちょっとうれしいですね」。
(マイニュースは)
「飲食店をやっているんですが最近皿をよく割ったり調子が悪いです。疲れてるのかな。アルバイトの子にも“疲れてるんですか?”って言われたし・・・」。
15:40 週1で通う親子
「父:息子と同じチームでコーチをしています。ここは週1回は必ず来てたので困りますよ。教えるのは難しいですけど楽しさを忘れないでやってほしいです」。
(マイニュースは)
「う~ん、車が壊れました。車でエスコンフィールドに行こうと思ったときにエンジンが壊れちゃって。息子も函館のファイターズというチームで野球をしているのでプロ野球もファイターズを応援してます。やっぱり伊藤大海投手が好きですね」。
「子:野球は楽しいです。強い打球を打てたり、ファインプレーできると楽しい」。
16:00 フルスイングの中学3年生
きれいなフォームでフルスイングしている中学3年生がいました。
「小学校から野球をやっていてもう9年です。コツは体重移動ですね。好きな選手は引退しちゃったけど日本ハムの杉谷選手。守備はどこでもできてお笑いまでできて・・・自分もオールマイティな選手になりたいのであこがれています」。
(マイニュースは)
「なんでしょう?彼女と別れたことですかね。あ、今でも仲良くはしていますよ」。
16:20 きょうが誕生日
「このバッティングセンターには小学校のときから友達と一緒によく来て練習していました。大人になってからもコロナが始まる前までは来ていました。閉店すると聞いてから懐かしくてまた来ています。ストレス発散になりますね」。
(マイニュースは)
「来週友達の結婚式に初めて参加します。それぐらいですかね。あっ、きょう私の誕生日です。27歳になりました」。
(私と同い年です!おめでとうございます!)
16:55 転勤で函館に
日が暮れ、バッティングセンターにライトが灯りました。
家族連れが減ってきた中、男性がひとりでやってきました。
「この7月に転勤で函館にきたばかりなんです。出身は釧路町です。電力関係の仕事をしているんですが、埼玉・岡山と転勤して今回初めて希望が通って北海道勤務になりました。バッティングセンターが好きで岡山では頻繁に通ってたんです。函館で調べたらここにあるということで来てみたんですが、今月で閉店ということでさみしいです」。
(バッティングはストレス解消ですか)
「そう、リフレッシュしたいときに来ますね。仕事で現場に異常が見つかったときに自分で見てどう補修しようか考えて業者さんと調整するのは大変なんですが、うまく直ると達成感があるんです。ボールがうまくバットに当たったときのうれしさに似てるかも。閉店したあとは違う趣味を見つけてストレス解消しないと・・・」。
17:10 小学校の先生2人で
隣り合う打席で、おしゃべりしながらバッティングを楽しんでいる男性2人。
2人とも小学校の先生なんだそうです。
「右:僕らは同じ小学校で働いてたもの同士です。いまだに職場の仲間で声かけて公園野球やってます。ドラえもんの世界みたいなことしてるんです(笑)。全員素人でね、それが楽しいですよ」。
(マイニュースは)
「左:最近星とか夜空を見るのが好きでプラネタリウムを買いました。曲も流れるので毎日つけながら寝てます。癒されるので」。
「右:こないだ一緒にキャンプ行ったときに夜空を楽しみにしてたんですが、曇ってたんですよ。代わりにそのプラネタリウム見てました。これでいいやん!って言いながら。私のマイニュースは、学習発表会の台本を一緒に組んでる先生と夜遅くまでかけてがんばって作ったんです。翌日の1時間目にクラスで見せたら、その日一日子どもたちの目が心なしか輝いて見えたんで、頑張った甲斐があったな~って。いまだに心がほっこりします」。
(子どもと接するときに大切にしていることは)
「左:そこまで語れるほどじゃないけど、いい所を見てあげる。子どもが笑顔でいられるようにっていうのはなるべく意識してます」。
「右:大人楽しいんだぞって思わせたいですね。大人になっても週末は友達と遊びにいくし、野球もするし。なんか今の時代って大人がすごいつらい顔をして働いてるようなイメージを持たれることが多いのかなと思っていて・・・、いやいやそうじゃないんだよ。大人になったらいいもんだよって」。
17:30 大学3年生の2人
(すいません、NHK函館なんですが大学生ですか)
「左:はい、大学3年生です。ぼく4年前の高校2年のときに、ほっとニュース北海道のスポーツ企画で取材されましたよ。スキーのナショナルデモンストレーターという資格を目指す特集です」。
(えっ!その節はお世話になりました。きょうはマイニュースをうかがいたくて)
「左:夏休みに韓国とニュージーランドに行きました。韓国は大学の授業で、ニュージーランドはスキーのトレーニングで。クライストチャーチという南の島にスキー場があるんです」。
(スキーでプロの世界に?)
「左:いやそれは現実的ではないかなと。まだ業種は決めていませんが、スキーをしながらできる仕事がいいなと思っています」。
「右:私は出版系とか報道に興味があります。SNSがちょっと苦手で、相手の顔が見えないし本音を隠したコミュニケーションになってしまいがちになるんです。やっぱり生で人と関わって、若いうちにいろんな分野の人と接して広い視点でものが見えるようになりたいなと思うとそういう業種なのかなって。ちなみに私のマイニュースは韓国行ったときにサムギョプサルを食べたんですけど、ピーマンだと思って大量に食べていたものがトウガラシで、しばらくお腹壊してました(笑)」。
19:12 取材終了
【制作後記】
スポーツの日。建物に入る前から青空に響き渡る打球音。
取材前、緊張ぎみだった私の不安をもかっとばしてくれました。
今回の取材で、たくさんの方からお話を聞けました。閉店のニュースを知っている人もいれば知らない人も。長年通っているという人もいれば今日初めて来たという人も。さまざまな想いを抱えた人が、同じバッティングセンターで白球に向き合っていました。
7時間ちょっと私がカメラを回していて気付いたのは、白球を追っている時はみなさんリラックスしているという事。良い当たりを飛ばしても、打ち損じても、空振りしても、なんだか楽しそう。空振りした後、けっこう球が速いな・・・なんて小さくつぶやきながら次の球を楽しそうに待っている人も。イチイバッティングセンターは44年間そんな笑顔をたくさん見てきたのだろうなと思いました。使い込まれたバットや球からも温かみを感じました。
ちなみに私のニュースは『筋トレにはまっている』ことです。体を動かして、しっかりとバランスの良い食事をとり、十分に睡眠をとる。いつのまにか筋肉がついて、身体が大きくなりました。心なしか気分も良いです。しかし、調子に乗って取材後に何十球か打ったところ、翌日は筋肉痛。身体の節々がミシミシきしみました。精進します。
過去の『道南ドキュメント7.2時間』はこちらから↓
第6回 ~テーオーデパート 最後の7.2時間~函館(2023年9月)
『道南ドキュメント7.2時間』#6 ~函館・さよならテーオーデパート~
第5回 ~小さな遊園地 こどものくに~函館(2023年8月)
『道南ドキュメント7.2時間』#5 ~ 小さな遊園地 こどものくに ~
第4回 ~緑の島は夏模様~函館(2023年7月)
『道南ドキュメント7.2時間』#4 ~ 函館・緑の島は夏模様 ~
第3回 ~日曜日の奥尻島~奥尻町(2023年6月)
『道南ドキュメント7.2時間』#3 ~ 日曜日の奥尻島 ~
第2回 ~大型連休中の道の駅~七飯町(2023年5月)
『道南ドキュメント7.2時間』#2 ~ 大型連休中の七飯町・道の駅にて~
第1回 ~春を迎えた浜辺にて~函館・大森浜(2023年4月)
『道南ドキュメント7.2時間』はじめました。