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マダニにかまれて命の危機に!?当事者が語る恐ろしさ

  • 2023年09月28日
マダニ

マダニにかまれたことによる感染症の患者が増えています。県内では、すでに3人の方が亡くなっています。近年、全国的にマダニが媒介する感染症の患者が増加傾向にあり、中でも広島県は、全都道府県の中で最多なんです。

(広島放送局ディレクター 松岡哲平)

マダニにかまれて生命の危機に・・・

私は三次市に住んでいて、最近よく「山の中に入るときにはマダニに注意するように」と言われます。実際、マダニにかまれたこともあります。幸い、発見が早く、すぐに手で払って落とすことができたため、大事には至りませんでしたが。

そして先日、知人の一人から、「友人がマダニにかまれて大変な目にあった」という話を聞きました。なんでもマダニ感染症にかかって病院に担ぎ込まれ、生死の境をさまよったというのです。どんな経緯だったのか、さっそく訪ねて話をうかがうことにしました。

 

マダニ感染症を患った40代の男性

その男性は、瀬戸内海にある香川県小豆島に住んでいます。40代で、夫婦で農業を営んでいると言います。マダニ感染症の怖さについて多くの人に知ってもらいたいけど、“感染症”ということで偏見や誤解を受けるのは避けたいということで、匿名を条件に取材に応じてくれました。

日焼けした肌に、がっちりとした体格。まさに健康そのものに見える今の姿からは、命の危機にあったことは想像できません。そんな男性の体調に異変が生じたのは今年4月半ばのことでした。

マダニ感染症を患った男性
普通に仕事をして、で、仕事が終わって夕方に、あれ?ちょっと熱があるな、くらいで思ってて、で、熱を測ったら思ったより高くって、39度3分ぐらいあって。たぶん風邪だろう、ま、最悪コロナかな、ぐらいにしか思ってなかった。

しかし、翌日になってもその次の日になっても熱は下がりません。それどころか、立ち上がるのも困難なほどに状態が悪化。ペーパードライバーの妻がなんとか運転して地元の病院に向かいました。まずはコロナの検査を受けましたが、結果は陰性。

そして、血液検査の結果、血小板と白血球の数値が低下していることが判明します。体にばい菌が入って起きる普通の風邪の場合、ばい菌をやっつけようとして白血球は増加するはずです。ところが、高熱が出ているのに、白血球の数が減っている。これはおかしい。医師はマダニにかまれたことによる感染症ではないかと疑いました。

感染症の専門医のいる大学病院で詳しい検査を行うため、男性はドクターヘリで緊急搬送され、即座にICU(集中治療室)に入りました。そして検査の結果、重症熱性血小板減少症候群=SFTSと診断されたのです。

 

男性の診断書

SFTSは、マダニが媒介するウイルスによる感染症で、10年前に国内で初めて見つかりました。白血球の減少や意識障害などの症状を伴い、国立感染症研究所によると、致死率は最大30%に及ぶとされます。まだ有効な薬剤やワクチンはなく、マダニが媒介する感染症の中でも最も危険なものです。

ICUに入ってからの男性の記憶は断片的にしか残っていません。医師からの説明は全て妻が聞いていました。

男性の妻
(医師から)「この病気に特効薬はありません」って言われたんですね。「対症療法はできるけど、臓器不全とかそういうのも起こす可能性もあるよ」って。「場合によっては人工呼吸器がつくし、輸血もしなきゃいけないかもしれないし、急変もありえます」と。

その後も男性の血液の数値は悪化を続け、「敗血症」になりました。血液が固まってできた血栓が、全身の血管内にばらまかれ、臓器障害を引き起こす可能性が高い、非常に危険な状況におちいったのです。

男性の妻
私が泣き崩れてしまって、もうおいおい泣いて。看護師さんとかがサポートしてくれたんですけど。先生は、「本人には最悪な状況だっていうことは言わないでおこう」と。気力が大事だからって。

ICUでの治療は11日間に及びました。幸いにも男性は回復し、退院。仕事にも復帰できました。
今も、自分がどこでウイルスに感染したのか、そのルートは分かっていません。知らないうちにマダニにかまれていた可能性がありますが、それだけでなく、飼っていたネコがマダニにかまれてSFTSウィルスに感染していて、猫経由で感染した可能性もあると言います。

そして男性は、3か月以上たった今も抜け毛やストレスなどの後遺症と見られる症状に悩んでいます。マダニ感染症の怖さを身をもって学んだと言います。

男性
なんか精神的にこう、人と会いたくない人と会いたくないってのがあって。(気持ちが)上がってこないって感じですかね、はい。

男性の妻
あんなちっちゃい生き物が、人を殺してしまうぐらいまでの力があるっていうのが、すごい怖かった。

 

実はマダニが媒介する感染症の患者数は増加傾向にあります。日本紅斑熱とSFTSという代表的な二つの感染症の患者数を足し合わせたのがこのグラフ。昨年は全国でおよそ600人が感染しています。

そのうちのおよそ100人は広島県の患者。広島は、マダニ感染症が全国で最も多く報告されている県なのです。今年5月には福山市の70代女性が日本紅斑熱で死亡、8月に尾道市の70代男性がSFTSに感染して死亡、さらに9月にも三原市の70代男性が日本紅斑熱で死亡しています。

尾道市の皮膚科クリニックの院長・浜中和子医師の元には、今年、マダニにかまれたと受診する人が過去に例のないほど増えていると言います。患者の多くは皮膚に赤い斑点上の炎症を起こしたり、水膨れを起こしてやってきます。マダニが皮膚に食い込んだままの状態で受診する人もいます。

マダニに咬まれて赤い湿疹が出た患者(浜中皮ふ科クリニック提供)
皮膚に食い込んで吸血するマダニ(浜中皮ふ科クリニック提供)
浜中 和子 医師

浜中 和子 医師
例年にない発生状況で、普通だったら夏場に「マダニにかまれた患者さんがついに来たな」という感じなんですけども、今年はもう一番最初の患者さんが3月に来まして、それからもう次々とマダニの患者さんが増えて。私ここで開業して28年になりますけど、これまでで一番マダニの患者さんが多いんですよ。例年になく異常に多くて、本当にびっくりしています。

野生動物を介して忍び寄るマダニ

では、どのようにしてマダニから人へのウイルス感染は起こるのか。

通常、マダニは山の中にいて、シカやイノシシなどの野生動物の血を吸うことで成長します。そして、動物の血を十分に吸ったマダニは地上に落ちて脱皮。さらに成長するためには別の動物の血液を吸う必要があるため、葉っぱの裏などでそのチャンスを待ちます。

そこを人間が通ると、動物と同じようにマダニに取りつかれ、吸着される可能性があります。そして、そのマダニが病原体を持っていた場合、感染する可能性があるのです。

 

イノシシの血を吸って大きく膨らんだマダニ
葉の裏にいるマダニ (写真提供:広島県保健環境センター)

マダニにかまれた患者が増えている背景について、浜中医師も、患者からの聞き取りを踏まえて、こう話します。

浜中 和子 医師
やっぱり一番はイノシシなんですよね。この広島県の東部の尾道、福山、世羅とかのあたり、あるいは尾道でも島の方にまでですね、イノシシに普通に庭先で遭遇するとか、本当に犬の散歩に行っているときにイノシシに出会ってしまうとか、もうそういう状況が続いていまして、そういう動物を介して、マダニに感染するというのがすごく増えているんだと思います。

イノシシなどの野生動物が人間の生活圏に侵入していることで、マダニ感染症のリスクが増えているという見立て。それは専門家の調査によっても裏付けられています。

広島県保健環境センターで長年マダニの研究を続けてきた島津幸枝さんの調査に同行させてもらいました。訪れたのは広島市東区の牛田山のふもとの住宅街です。住宅が密集する斜面の上にはうっそうとした森が広がっています。

この地区にあるマンションの管理人さんによると、最近、森からやってくるイノシシの被害に悩んでいると言います。イノシシは夜間に敷地内に侵入して土を掘り返し、住民と遭遇することも多々あるそうです。

 

マンションの敷地内にイノシシの掘り返し跡が

そして、小学校に隣接する牛田山ハイキングコースで島津さんが調べると・・・白い布に次々とマダニが付着してきます。成虫だけではありません。卵からふ化して間もない小さな幼虫もたくさんいます。幼虫であってもウィルスを持っている可能性があることから油断はできないと言います。

広島県保健環境センター 島津幸枝さん
こういうところで地べたに座ると、幼虫とかいたりしたら、体に這い上がられちゃいますから、なるべくじかに、地べたには座らず休憩した方がよいです。

ハイキングコースで島津さんが採取したマダニ

マダニにかまれないために

では、マダニにかまれないようにするために、どのような対策が有効でしょうか。国立感染症研究所は、以下のサイトで服装の注意点などを詳しく解説しています。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000164561.pdf

ポイントは、マダニがいそうな自然の中で活動する際には、肌の露出をできる限り少なくし、マダニが服の中に侵入する隙間をつくらないこと。

国立感染症研究所のサイトより

長袖、長ズボンで、足元は長靴など丈のあるものが有効。できれば手袋も付けた方が良い。首元にはタオルなどを巻くと良いとされています。ただ、あまりにも隙間をふさぎ過ぎると、今度は暑い日の熱中症のリスクが高まります。あちらを立てればこちらが立たず、という関係にあるので、注意が必要です。

また、ニットやフリースのような毛羽だった素材は避け、マダニがつきにくく払って落ちやすい、サラっとした引っかかりのない生地の服を着るのが良いでしょう。また、明るい色の方がマダニが付いたときに発見しやすいです。

虫よけ剤も有効です。「ディート」や「イカリジン」という、マダニを寄せ付けない効果がある成分が含まれているスプレーが市販されています。マダニの侵入経路となる「服の開口部の皮膚」「服の表面」「マダニが付きやすいズボンや靴下の表面」などに使用すると良いでしょう。

なお、ディートについては濃度によっては赤ちゃんや子どもへの使用が禁止されているものもあるので、注意が必要です(商品ごとに注意事項が書いてあります)。

それでもかまれてしまったら・・・

それでもかまれてしまったらどうするか。病院にすぐ行ける時間帯であれば、マダニを自分で取らずに皮膚科を受診するのがベストです。病院では専用の器具を使って、マダニをきれいに取り除いてくれます。

もし、病院にいけない時間帯や休日だったらどうするか。広島県保健環境センターの島津幸枝さんによれば、吸着された初期に気づくことができれば(まだマダニがあまり膨らんでおらず、皮膚に食い込んでいない段階であれば)、先のとがったピンセットや毛抜きを使ってマダニの口部分を挟んで抜き取ることができます。

マダニを除去する際の注意点(島津幸枝さんによる)

手でマダニ本体をつまむのは、マダニの吐き出しを誘発し、病原体を人間の体内に入れてしまう可能性があり危険なのでやめたほうが良い、とのことです。

もしマダニがすでに膨らんで皮膚に食い込んでしまっているような場合は、口の部分がちぎれて残ってしまう可能性があるので、後日に皮膚科で処置を受ける必要が出てくる可能性があります。迷ったら、休日や夜間でも受け付けてくれる救急窓口に相談してみるのも手です。

取り除いたマダニは生きているので、セロテープなどで挟んで動けなくして捨てましょう。病原体を持っていた場合に危険なので、つぶしてはいけません。

もし体に異常を感じたら・・・

マダニにかまれた可能性がある活動をした後、数日~10日くらいの間に高熱、倦怠感、発疹などの異常が出たら、我慢をせずに、内科などの病院を受診してください。血液検査を受け、数値に異常が出ていないか確認してもらう必要があります。

また、マダニに何度もかまれていると、マダニの唾液に対するアレルギーで、かまれた場所が赤くなったりかゆくなったりする場合があります。このような場合も皮膚科に相談すると良いでしょう。

  • 松岡哲平

    NHK広島放送局 ディレクター

    松岡哲平

    2006年入局、福岡局、報道局、沖縄局を経て広島局に。
    食料とエネルギーの自給目指してます。マダニにかまれて以降、山に入るときは必ず長袖・長ズボン・長靴着用!

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