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【福島・西会津】農家とつながる“石高プロジェクト”!

  • 2024年03月06日

農家と消費者をデジタル技術でつなぐ新たな取り組みが福島県西会津町で始まりました。
その名も『石高プロジェクト』。
米の量をはかる単位、「石(こく)」を冠した取り組みが目指すのは、米の販路拡大と将来にわたる農業経営の安定化。ユニークな取り組みの現場を取材しました。

筆文字で書かれた「石高プロジェクト」の文字。
西会津町で基幹産業の米作りを支えようとスマートフォンアプリを使ったあらたなサービスが今年度スタートしました。消費者にアプリの利用者として登録してもらい、西会津町の米を継続的に消費してもらおうという仕組みです。

町の事業として進むこのプロジェクト。
中心となって活動するのは、デジタル戦略担当の地域おこし協力隊・長橋幸宏さんです。米の販路拡大、そして農家の経営安定につながる仕組み作りに取り組んできました。

(長橋さん)
「日本でもトップクラスの味のお米が作れるという状況が町内に既にあるにも関わらず、なぜか使われない田んぼが増えていくし、耕す農家もなぜか減っていく傾向にあるという現状があります。今回の“石高プロジェクト”は、なぜ稲作が廃れていくのかっていうところからスタートしました」

山あいにある西会津町は、昔から米作りが盛んで、その食味は全国的にも高い評価を受けています。
しかし、担い手の高齢化は避けられず、後継者不足や離農に伴う耕作放棄地の増加などで、持続可能性には暗雲が立ち込めています。

背景には、中山間地ならではの米作りの課題が。
▽平地が少ないため田んぼの大規模化によるコスト削減が難しく、
▽点在する田んぼを結ぶ水路の整備や維持管理にはコストも人手もかかります。
そうした状況下でも、担い手を確保し米を作り続けていくためには、より高い価格で、安定的に販売できる販路を確保することが重要になります。

東京都出身の長橋さんは、西会津の米のおいしさにほれこみ、その魅力を全国にPRしながら販路開拓できる仕組みを作りたいと考えたのです。

そこで考えたのが、デジタル技術を活用した米のオーナー制度(=収穫前に都市部の人などが購入したり会費を払ったりして、生産体験もできる制度)に似た仕組みです。

専用のアプリを使って行う「石高プロジェクト」のシステムをごく簡単に紹介すると、

①参加している複数の農家から、希望の農家と米の銘柄を選択
②収穫前に、米の量をはかる単位の「石(こく)」を冠したポイントを購入

③収穫後に、事前に購入した石の量「石高」に応じて、指定した西会津米と引き換える

④自宅に西会津米が届く

といった流れです。
収穫前に購入するというのが特徴の1つで、投資的な要素もあります。
天候に大きく左右される米作りは、水害や猛暑などで収量が減少するリスクを抱えていますが、今回のプロジェクトでは、利用者が農家とそのリスクを分かち合います。つまり凶作の年には自分の分け前の米が減る恐れがあり、豊作の年には分け前が増える可能性があるのです。

長橋さんたちは、そうしたリスクを分かち合ってでも、西会津の米作りを応援したいと思ってもらえる、利用者にとってのメリットを工夫しています。
たとえば、
▼オンラインも含めた農家と交流できるイベントを定期的に開催したり、
▼農家のSNSなどを通じて米の生育状況や農家の思いを届けたりして、
利用者が自分に届く米に愛着を感じることができる仕組みです。さらに、オーナー制度と同様に、田植えや草刈り、稲刈りなどを実際に体験してもらえる機会も設ける予定です。

また、購入という手段以外でも、田んぼを見学したりSNSでのPRに協力したりといった“行動”でも「石」を増やせるようになっています。将来的には、経理や広報宣伝などのスキルを持っている利用者が得意な作業を、農家に代わって行うことで「石」を得られるようにすることも検討しているということです。

そして、楽しめるゲーム性も魅力の1つ。

石高の大きさによって、ランクが「百姓」、「地頭」、「肝煎」と“昇格”する設定になっていて、ゆくゆくは大名にもなれるそうです。目指せ100万石の大大名!

アプリやイベントのそこかしこには、「“コメ”ニティ」「イィ稲!」などクスっと笑える「Rice!(Niceとかけてみました)」な要素もちりばめられています。

(長橋さん)
「単純にお米を買ってもらうだけでは味わえない体験が醍醐味になります。米が作られている様子の情報共有はとても重要な部分ですし、実際に現地に来てもらって見学や体験をしてもらうことも楽しんでもらえるんじゃないかと思っています。そうしたことを通して、農家と利用者の関係性が仲間のように近づいていってほしいと考えています」

米の収穫後の去年12月。
長橋さんは、プロジェクトに参加する農家の1人、橋谷田淳さんの元を訪問。米を発送する関東や関西の利用者10世帯あまりの送り状と、プロジェクトのオリジナルシールを届けました。

今年度は猛暑の影響が心配されましたが、発送用の量は十分確保でき、おいしいお米ができました。

(橋谷田さん)
「栽培している段階からお客様のために作るということをすごく身近に感じるというか、より強く意識できて、それだけでも米作りに対する気持ちが全然違う。それも米に現れるというか、もっと頑張ろうとも思えます」

知人の紹介でプロジェクトの存在を知って参加した東京都心で暮らす利用者家族です。

まだ始めたばかりで石高は200石の百姓ですが、SNSでのPRに協力するなどして、プロジェクトに参加しています。
この日は、届いた西会津町の米を家族で味わいました。
5歳の長男はあっという間に完食!直前まで泣いていた1歳の次男も、ピタリと泣き止んで夢中で食べていました。

「おいしかった!」

(母親)
「都心で生まれ育っている子どもたちにとって、稲作に触れるという機会はめったにないですし、ここに住んでいると『米=袋詰めされてお店で売っているもの』くらいの認識になってしまいます。今回の取り組みへの参加で、お米作りに携わっているみたいな気持ちになれるのはいいことだなって」

(母親)「大変なんだよこれを作るの」
(息子)「僕も作ってみたい」
(母親)「ね、作りに行けたらいいね」

プロジェクトでは、利用者と触れあうイベントも行っています。

(乾杯ならぬ「かんまい(米)!!」)

この日の東京の会場には、都内や近郊から利用者やこの取り組みに関心がある人などおよそ20人が集まり、農家や関係者と交流しました。
会場では、プロジェクトに参加している農家が作った米のおにぎりが福島県の郷土料理などとともに提供され、集まった人たちは2個3個と笑顔でほおばっていました。
登録された利用者は2月中旬時点で、およそ130人。
長橋さんは、西会津町の米の魅力の発信のため、より多くの人たちとの持続的なつながりを作っていきたいと考えています。

(長橋さん)
「アプリケーションだなんだと、デジタル上でやっていますが、僕らが結局したいことは農家や参加者など関係者が深くつきあっていくことです。つながりを深くし、それが少しずつ広がって盛り上がっていければなという所なので、それを通して色んな方面から農家さんを支えていくということを実現できたらなと思っています」

  • 佐藤翔

    NHK福島・コンテンツセンター

    佐藤翔

    福島市出身で、現在は会津若松支局勤務。
    石高プロジェクトでは、現在「600石の百姓」。好きなおにぎりの具は、梅干し。

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