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浜通りの産業復興はどこまで? 先端産業のいま

福島県で進むイノベーション・コースト構想の現在地とは? 徹底取材しました
  • 2024年03月05日

原発事故で大きな打撃を受けた福島県の産業。そんな現状を立て直すべく、10年前に始まったのが「イノベーション・コースト構想」と呼ばれる計画です。廃炉に加え、航空宇宙産業や水素エネルギーなど、先端技術を持つ企業を誘致。県内に新しい産業構造をつくり出し、経済の面からも復興を目指すのがねらいです。構想はどこまで実現しているのか。立ち上げから10年、多くの企業が県内に進出しているロボット産業の現状を取材しました。

予算は4400億余――肝いりの“国家プロジェクト”

イノベーション・コースト構想とはどんなものなのか

そもそも「イノベーション・コースト構想」とは、いったいどんなものなのでしょうか。福島県が公表した資料には、“原発事故で失われた浜通りの産業基盤を新たにつくり出すための国家プロジェクト”などと記されています。

福島県公表の資料から抜粋

10年前に当時の政府が方針を発表し、主に浜通りの15市町村を対象に進められているこの構想。福島第一原発の廃炉に必要な技術開発を筆頭に、ロボット、エネルギー、航空宇宙など6つの分野が設けられています。構想の実現のため投入されたのは、令和6年度までの7年間で4400億円あまり。先端産業の確立に必要な研究拠点の整備費用や人材育成、さまざまな事業や参入企業への補助などに巨額の費用が投じられています。

浜通りなどへのロボット関連企業数の推移

特にさまざまな企業が集積しつつあるのがロボット産業です。県のまとめによると、事故後に福島県浜通りに進出した関連企業はおよそ80。ことし1月の時点で、100件近いロボットの研究開発が行われているとされています。

最先端の機体? “犬型ロボット”

4脚歩行する通称“犬型ロボット”

そんなロボット関連企業の1つを取材することができました。会社がある南相馬市のオフィスを訪ねると、早速、開発中のロボットを見せてくれました。リズミカルな足音を立てて4つの脚で歩行する、通称「犬型ロボット」。地形を問わずに移動できるのが特徴で、車輪では難しい場所でも移動できる高い踏破性能があり、警備や測量などの仕事に利用できると注目を集めています。アメリカなどではすでに開発の実績がありますが、姿勢や歩行の制御が難しく、この機体の開発では国内でもトップを走っている会社です。

開発を手がけるのはロボットベンチャー

この最先端のロボットを開発しているのは、従業員およそ20人のベンチャー企業。社長の大西威一郎さん(46)さんは、本社のある神奈川県から5年前に南相馬市に進出、支社を設けました。ロボットを開発する上で、南相馬市は魅力的な場所だといいます。

社長の大西威一郎さん

(大西さん)
南相馬市はロボットの実証実験を街ぐるみで応援してくれてるんですよね。例えば市役所に実証実験に必要な書類を持っていって不備があったら、すべて直してくれたりとか。本当に実験をやらせてあげよう、応援してあげようという印象を受けます。南相馬市ならテストも、ものづくりもここでできますので、ロボットベンチャーにとってはこの上ない魅力があります。

ロボット専用の開発拠点“ロボットテストフィールド”

大西さんが魅力を感じている要因の1つが、150億円あまりをかけて整備されたロボット専用の開発拠点。4年前に本格的な運用が始まったこの施設、災害用ロボットをテストする市街地を模したエリアや、ドローンの試験飛行のための滑走路、水中用ロボット開発のためのプールまで設けられています。大西さんなどロボット開発に励むベンチャー企業が入るオフィスエリアも用意されているなど、国内有数の開発環境が進出の決め手でした。

開発には手厚い支援があるのも大きな魅力だという

さらに魅力だったのは、県の補助によって得られる潤沢な開発資金です。補助は3年間で、費用の3分の2を年間最大7億円まで受け取ることができるといいます。大西さんも毎年、数千万円を開発資金として受け取っているとのことでした。

“階段昇降お掃除ロボット” 特許も取得した

ここに拠点を置いて、ことしで6年目の大西さん。犬型ロボットの開発に着手する前は、3年間かけて階段を上り下りしながら掃除する、お掃除ロボットを開発。県や市などのサポートもあり、特許も取得しました。

頼りは…地元企業の技術力

ロボットは試験的に作られたものばかり

ユニークなロボットの開発を行う大西さんたち。しかし、自前でロボットを製造する工場などの拠点を持っているわけではありません。大西さんのようなロボット開発ベンチャーは、ロボットのコンセプトの考案や、機体の設計、動かすための制御プログラムをつくるのが本来の仕事。そこで実際に機体を作る上で頼るのが、ものづくりにたけた地元の中小企業です。

大西さんが訪ねたのは、南相馬市内の精密加工会社

大手メーカーの下請けなどの会社が多く立地する南相馬市。2月下旬のある日、ロボットの部品製作を頼んでいる地元企業に、依頼していた犬型ロボットの脚のパーツのできばえを確かめに訪れました。大西さんは、こうした地元企業の助けなしにロボットの開発は立ちゆかないといいます。

想像以上のできばえ、とは大西さんの談

というのも、ロボットの部品は基本はすべて特注です。特に人や動物をかたどったロボットは、複雑な構造や曲面を持つものが多く、部品を作るには高い技術力が求められるのです。こうした難しい要求に応えてくれる企業が多いのも、大西さんが南相馬市で開発を続ける理由です。

地元企業の技術力は高く、コストも安いという

(大西さん)
依頼した部品は予想以上のできばえで、いろんな加工のノウハウが詰まっていると思っています。一般的には少ない発注数だと利益が上がらないので嫌がられるんですが、南相馬市の企業さんたちは、“ロボットのまち南相馬”というのを意識して、地元を盛り上げようという気持ちがすごくあるので、1個だけ部品を作って納めてくださいと頼んでも、すぐ持ってきてくれます。嫌な顔をしないですし、早いし、安い。技術力も高い。本当に一緒にロボットを作っているという感覚ですね。

地元企業 “利益は…まだまだ”

部品の製作を依頼する地元企業の渡邉光貴さん(右)

一方、大西さんが部品の製作を依頼するこの会社。創業45年、大手家電メーカーの製造用機械などを作る精密加工会社で、地元では技術力に定評のある会社として知られています。ロボット開発に携わっていることでどのくらいの利益が出ているのか、社長の渡邉光貴さん(42)に現状を尋ねてみると、返ってきたのは意外な答えでした。

利益は出ていないという渡邉さん

(渡邉さん)
われわれが受けてる仕事っていうのは基本的に試作が多くて、ロボットに関していえば量産化されたものを作っているわけではないんです。試作だと初めてのものも多いですから、それに費やすコスト、予期せぬことが起こったりということもあるので、どうしてもコストがかかってしまいます。数も稼げないので採算が合わないというのもありますし、ロボットが売り上げの柱になっているという状況では全然ないですね。

ロボット産業誘致の効果…道半ば?

ロボットの部品づくりだけでは大した売り上げにならないという

ロボット関連の仕事はまだまだ産業として成り立っていない、という渡邉さんの答え。確かに公表されているデータを見ると、その理由がよくわかりました。

原発周辺12市町村の製造品出荷額等の比較を示したグラフ(単位は億円)

こちらはかつて原発事故で避難指示が出た南相馬市を含む12市町村の工業製品などの出荷額をまとめたグラフです。事故前の2010年には3045億円でしたが、事故から9年がたった2020年には8割ほどの2519億円に。産業の面で見ても、事故前の規模にまで戻っているとはいえないのが現状です。

売り上げは8割…いまだ影落とす事故

会社で最も大きな加工機械

渡邉さんに詳しく現状を聞いてみると、会社の経営に、いまだに原発事故の影響が影を落としていることがわかりました。渡邉さんが見せてくれたのは、会社にある金属加工の機械の中で最も大きいもの。大きな金属の板を削り、成型するための機械です。主に工場などに設置する製造用の機械を作るために使われるそうです。

震災前はフル稼働だったが、いまは月に半分から3分の2程度だという

事故前には連日稼働していましたが、今は停止している日も多いとのこと。原因の1つが、浜通りにあった取引先の撤退。部品の製造依頼を受けていた浜通りにあった企業が原発事故の影響で事業の継続が軒並み難しくなり、ほかの地域に移転したまま戻ってこなくなってしまったというのです。渡邉さんによると、現在の売り上げは8割ほど。このまま以前のような規模に戻るのは、厳しいとみています。

売り上げは事故前の8割程度だという

(渡邉さん)
動いていない機械があるというのは、寂しいですよね。やはり製造業は機械を動かして、鉄を削ってなんぼっていう世界なので、少しでも新しい仕事を取り入れて、売り上げを戻していく努力をしないといけないのかなと思っています。

ロボットの部品は設計図を元に自分たちで立体化し、製作する

事故前の規模に売り上げを戻し、さらに会社を成長させたい渡邉さん。試作といえど、大西さんのようなベンチャー企業の仕事を快く引き受けているのは、ロボットがいずれ会社を支える大きな産業に成長するのではないかという期待があるから。ベンチャーの研究開発に協力するのは、まさに会社の将来を考えた先行投資と捉えているのです。

量産化、事業化が焦点と話す渡邉さん

(渡邉さん)
現状はまだ大成功とは言えないですけど、種を植えて少しずつ芽が出てきたような状況じゃないでしょうか。ただ、われわれもボランティア団体ではないので、やはり収益を上げなければ継続することもできません。ロボット産業でなんとか利益を出さなければわれわれも生きていけないですし、今後はなるべく早めにロボットの量産化、事業化をしていくことが焦点になると思います。

県担当課 “ギアを上げていく”

福島イノベーション・コースト構想推進課

原発事故で大きな打撃を受けた地域に、新しい産業を集積させようという構想が立ち上がってから10年。多額の費用を投入してもまだこれといった成果が出ていない厳しい現状を、県はどう見ているのでしょうか。イノベーション・コースト構想を進める担当課に直接、疑問をぶつけてみました。

福島イノベーション・コースト構想推進課の竹内広悟課長

(竹内課長)
ロボット産業では関連企業も進出していますし、現に成果は出ていると思っています。しかし、われわれが目指している震災前の水準に浜通りの産業を戻す、あるいは産業的に世界が瞠目する地域になるという面で十分かというと、一層頑張っていく必要があります。特に事業化や販路拡大、量産化のフェーズに注目しながら、そこをどうしていけばよいのかということを考えていく必要がある。去年11月に構想の今後の方針について意見を交わす分科会も開きましたので、今後も継続的にそういった場で有識者のご意見も伺いながら、効果的な取り組みを模索していきたい。さらにギアを上げてしっかり取り組んでいかないといけないと思っております。

コラム:1000に3つの“センミツ”

製品化への道のりは厳しい

構想から10年がたってもビジネスとして確立するに至ってないのはなぜか? 当事者の大西さんたちベンチャー企業にこの点を聞くと、やはりロボットの量産化にはたくさんの課題があるそうです。ロボット自体の性能や機能以外にも、量産化にあたってのコストや、社会に実装する上での安全性など、いくつもの課題をクリアしなければならず、大手企業との競合になると、費用や人員の面で小さなベンチャー企業には厳しい面も多いとのことです。

“センミツ”を目指して格闘の日々が続く

起業家や技術者の中ではよく知られた話として、先端産業などで勝負するベンチャー企業の成功は、「1000に3つしか成功しない」という意味で“センミツ”という言葉で表現されることもあるといいます。確率にして0.3%。それだけ新しいビジネスが成功するのは難しいということを表していますが、身軽で意思決定が早く、独創的な技術やアイデアを実践しやすいのがベンチャーの利点。コンピューターや情報通信産業など、いまは世界的に有名な企業も、もとは小さな会社でした。だからこそ、大西さんは試行錯誤しながら挑戦していく面白さがあるといいます。

近いうち、この地域からヒットは必ず出てくるという大西さん

(大西さん)
いま南相馬では日本中からベンチャー企業が集まって、いろいろな試作開発、研究開発をしていますけれど、たくさんの試みが1000になったら3つのヒットが出てくるんだと思います。わたしたちもこの地域には本当にお世話になっているので、なんとか成功して貢献できるよう頑張りたいと思っています。いまはそのちょうど苦しい時期にもあるし、面白い時期にもあるんじゃないかなと思ってますし、個人的にはそう遠くない時期にヒットが出てくると思っています。

ブレイクスルーはロボットづくり?

「ロボット開発研究会」のようす

会社を立て直すため、なんとかロボットを事業の柱にしていきたい渡邉さんは、大西さんや市内の製造業の仲間たちとともに技術やアイデアの共有を進めています。その名も「ロボット開発研究会」。

開発しているのは災害用のロボット

地元企業と、新たに進出してきたベンチャーなどおよそ20社が参加するこの研究会では、新旧双方が垣根を越えて災害用ロボットを共同製作。それぞれが持つ知恵と技術を集めてロボットを作り、実際に製品化を目指そうというのです。

部品を作る地元企業として活発に発言する渡邉さん

互いにロボットづくりに関わるノウハウを共有して量産化につながるヒントを得たり、会社どうしの関係性を強めたりして、目下の課題、量産化へのブレイクスルーを生み出すことがねらいです。製品化や量産化が実現できれば、各社で部品づくりのノウハウを共有でき、そうなれば地域への波及効果が生まれ、地元に大きな利益を生み出す可能性があるためです。

製作するロボットの制御や素材について熱い議論が交わされた

渡邉さんはこうした集まりを続ける中で、企業どうしで技術を磨き、さまざまなロボットの開発から量産までできる地域にしていきたいと考えています。

地元企業としてはロボットによるビジネスの成功は悲願だという

(渡邉さん)
新しいものを作るということは結局前例がないので、いろんな角度や新しいチャレンジをしていかないと難しいと思っています。ロボット自体はまだ芽が生えた状態なので、これからいかに大きな木、幹にしていくかっていうことはすごく重要だと思いますね。今後はロボットでいかに利益を上げるかというところが勝負なので、それはできるだけ早く実現したいなと思っています。

まだ成功例はないが、これまでの経過は悪くないという

(大西さん)
ここまでいいムードできているんで、やっぱりこの取り組みを成功させる最後のピースが、事業化、製品化、量産化。そこはわたしたちも一生懸命頑張るつもりですが、わたしたちが成功するだけでなくて、ここの仲間たちのどこかがヒットしてくれればうれしいですし、商売としてもいろんな連携ができますので一緒に盛り上がっていきたいですね。

小さなイノベ?:“ふるさとでロボット開発できるなんて…”

支社で働く5人のうち、3人は県内出身

大西さんの会社を取材していて印象に残ったのが、ロボット好きな社員たち。南相馬市の支社には5人が勤務しています。マーケティングや広報を担当する1人を除き、学生時代からロボットの研究や開発を学んできた、筋金入りのロボットおたくが集まっているそうです。県内出身者も3人雇うなど、会社は年々地元に浸透しつつあります。その中で大西さんが紹介してくれた1人が、浪江町出身の畠山大樹さん。

浪江町出身の畠山さんを紹介してくれた

畠山さんは、10歳のころに東日本大震災と原発事故を経験。事故直後は山形県や新潟県を転々とし、高校を卒業する18歳まで家族で茨城県に避難していました。小さいころから自分でロボットをつくりたいという夢があったという畠山さん。高校卒業後に神奈川県にある大学に進学し、ロボットの研究に打ち込んでいたところ、たまたま大学の近くにあったのが大西さんの会社でした。去年4月に新卒として入社したことで、12年ぶりにふるさと浪江町に戻ったといいます。“社会人になっても大好きなロボット開発に携わっていきたい”という夢が、地元で実現できるとは思っていなかったと話していました。

実家の浪江町から通っているという畠山さん

(畠山さん)
地元にロボットテストフィールドができたというのは聞いていたので、そこで自分のやりたいことと合う企業が見つからないかなとは思っていたんです。そしたら大西さんの会社の支社があって、しかも本社は自分が通っている大学の近くにあるというので、ダメ元で行ったら採用されたという感じです。事故直後は地元に戻って暮らせるなんて考えもしませんでしたし、ロボットを仕事にできているなんて想像もできませんでした。本当にうれしいですね。

若手が働ける環境が増えれば、ロボット産業もより発展するかもしれない

最先端のロボット産業に携わりながら、ふるさとで暮らして仕事をすることができる。イノベーション・コースト構想、そしてロボット産業の確立はまだまだ途上ですが、福島で働きたいという若者たちの受け皿は、少しずつできつつあるようです。畠山さんのように、先端産業に関わりながら福島で暮らしたいという人たちが今後も増え、地域経済の復興につなげられるのか。いま、重要なターニングポイントを迎えているのかもしれません。

  • 藤ノ木 優

    NHK福島放送局

    藤ノ木 優

    さまざまな先端産業やサイエンス、テクノロジーの分野を担当しています。代わりに取材してくれて、原稿まで書いてくれるロボットの社会実装を心待ちにしています。

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