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世界文化遺産 富士山 混雑や環境保全対策は?登録決定10年の課題

  • 2023年6月22日

富士山が世界文化遺産に登録されることが決まってから10年となりました。ただ、登録にあたっては、ユネスコの諮問機関から登山者数の管理や環境保全のあり方について厳しい指摘を受けています。コロナ禍で減少した登山者の数の増加が見込まれる富士山の現状、混雑解消や環境保全の対策などについてまとめました。

富士山 世界文化遺産に登録決定から10年

富士山は2013年6月22日、ユネスコの世界遺産委員会で静岡・山梨両県に点在する25か所の構成資産とともに世界文化遺産への登録が決まりました。

10年の節目の22日は、各地で記念のイベントが開かれ、ふもとの山梨県富士吉田市では、車体に記念のロゴマークがデザインされた高速バスがお披露目されました。
この高速バスは、東京や静岡と富士山周辺の地域を結ぶ3つの路線で1年間運行するということです。

登録で富士山の登山者は

富士山の年間の登山者数は、世界文化遺産に登録される前の年の2012年が31万8000人余り、登録された2013年が31万人余りと2年連続で30万人を超えました。
新型コロナウイルスの感染が広がったあとは、2020年は登山道が閉鎖されましたが、2021年は7万8000人余り、去年は16万人余りとなっていて、ことしは4年ぶりに20万人台を超える見通しとなっています。

登山者数の管理 環境保全 課題は

富士山の世界文化遺産登録にあたって、ユネスコの諮問機関・イコモスから登山者数の管理や環境保全のあり方について厳しい指摘を受けています。

環境保全の課題のひとつにごみの問題があります。弁当の包み紙やたばこ、それにペットボトル、食べ残しも珍しくありません。ここ数年、目立つのが衣類で、登頂するときに着ていた服を、下山の際に脱ぎ捨てていってしまうということです。

回収されたごみは一部の登山だけで1シーズンに600キロに達したこともあるといいます。外国人も含めた登山者の増加で、登山で発生したごみは持ち帰るというルールが徹底されないということです。

自然を守りながら地域の魅力を高めるには

山梨県などは富士山の信仰文化や豊かな自然を守りながら、地域の魅力をどう高めていくかについて考える式典を22日、東京・千代田区で開き、両県の知事は、未来に向けて富士山の普遍的な価値を守り伝えながら、地域の発展を目指すことを盛り込んだ共同宣言を発表しました。

続いて、富士山の文化的価値に詳しい元文化庁長官の青柳正規さんの講演や、世界遺産の専門家や登山ガイドらによるパネルディスカッションが行われました。パネルディスカッションでは、当たり前の存在となっている富士山の価値を見つめ直すべきだとか、5合目ではゴミが散乱している状況で、改善のための財源について議論が必要だといった意見が出されました。

山梨県 長崎知事
「イコモスの宿題にまだまだ答えが出せていない。本来の富士山の価値や姿を取り戻すための取り組みについて、早急に解決の道筋を見いだすべく、議論を加速させたい」

富士山登山鉄道構想をどう見るか

また、富士山のふもとと5合目を鉄道で結ぶ「富士山登山鉄道構想」について長崎知事は、イコモスが指摘する課題の解決に向けて、メリットは多いという認識を示したうえで、「来訪者の管理やさらなる満足度の向上、最低限のインフラ整備ができる極めて有望な案だ。地元の一部から異論もあるが、普遍的な価値の継承という共通目標に向けて、どういうやり方が良いのか、しっかり議論を積み重ねたい」と述べました。

また、富士山世界文化遺産学術委員会の青柳正規委員長はNHKの取材に応じ、富士山の保全や保護のあり方や「富士山登山鉄道構想」について次のように述べました。

富士山世界文化遺産学術委員会 青柳正規委員長
「5合目なり頂上まで電力を通して、環境への負荷を小さくしなければならない。電力を通した結果として登山電車なり電気バスなり、色々な方策があると思うが、登山電車ありきではないと思う。県などが主体というより周辺にいる人間や登山者、あるいは日本全体で『なるべく負荷をかけないようにしよう』という気持ちを持つことが1番重要だと思う。広がりのある形で、みんなで協力して守っていくという形にしていきたい」

混雑回避や安全確保の取り組み

静岡県や山梨県で作る「富士山世界文化遺産協議会」では、混雑の緩和を図るため、ホームページ上で、登山者で混み合う日を予想した「混雑カレンダー」を2017年から掲載しています。また、ことしは混雑を避けた「分散登山」を呼びかける30秒ほどの動画を作成して公開するとともに、SNSなどでの共有を呼びかけています。

また、山小屋では、密を避けるためにコロナ禍で始めた、宿泊する際の事前の予約制度をことしも継続することにしています。
ただ、予約しないまま登り始めた登山者が夜通しで一気に頂上に登る、いわゆる「弾丸登山」を行う可能性もあるため、静岡県ではその危険性を日本語と英語で呼びかけるチラシを作成するなど啓発に力を入れています。
 

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