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  • 2021年12月3日

これが東京湾!? サンゴは忍び寄る温暖化の危機か 潜ってみた

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「ここ最近、サンゴがどんどん増えてきている。すごいペースで範囲が広がっているよ」 
あるダイバーからの情報だ。暖かくトロピカルな沖縄の話?それとも九州?いやいや、東京湾のことだという。いったい東京湾で何が起きているのか?漁業者など、すでにこの変化の影響を受けている人たちもいるという。 
私たち潜水取材班は、情報を確認するため東京湾の入り口にある千葉県鋸南町へ向かった。 
(【潜水取材班】千葉局/カメラマン 高橋大輔、首都圏局/カメラマン 浅石啓介)

地元ダイバーも驚く海の異変

鋸南町の勝山漁港で、ダイビングガイドの魚地司郞さんに話を聞いた。東京湾で50年以上潜り続けている大ベテランだが、ここ数年の海の異変に驚いているという。

魚地さん

これまでは探して見つけられるかどうか…というレベルだった南方のサンゴが、いたるところに点在している。あっちこっちにサンゴがある、そんな感じだよ。

私たちもこれまでに東京湾に潜って撮影をしたことがあるので、東京湾でサンゴが確認されていることは知っていた。しかし、魚地さんの話を聞くと、どうやらその規模は私たちの想像を超えているようだ。さっそく潜水撮影の準備を整え、港から船で15分のポイントに向かった。

サンゴの群集があるポイントへ向かう

そこにはサンゴが広がっていた

海に入り、潜り始めてすぐに水深8mの海底が見えてきた。 
「確かに、あたり一面がサンゴだらけだ」 
枝のような形をした骨格の堅いサンゴだ。以前から見られる種類のサンゴだが、これほどの規模に広がっているとは驚きだ。その周囲を青や黄色のカラフルな南方系の魚が泳ぎ回っている。

本当にここは東京湾?海の中の変化を改めて感じた。

南の海から北上してきた“テーブルサンゴ”が…

中央の赤茶色がエンタクミドリイシ

このサンゴ、エンタクミドリイシという。“円卓”というだけあってテーブルのような形をしており、九州などの温かい海に見られるものだ。このような南方系のサンゴが、もともと生息している温帯性の枝状のサンゴを覆うように生息していた。それはまるで、サンゴ同士の縄張り争いのようだ。中には、直径50cmを超えるエンタクミドリイシもあった。サンゴの専門家によると、エンタクミドリイシは最も寒い月の平均水温が14度を下回ると生き残ることができない。これだけの成長をとげたということは、東京湾の海水温に長期的な変化がおきているということだ。

また、直径3センチほどの小さなエンタクミドリイシとみられるサンゴの赤ちゃんも、そこかしこに見られた。南方系のサンゴが広がり、昔から見られた枝状のサンゴを飲み込もうとしている、そんな雰囲気が海中に漂っているのを感じた。

3センチほどの小さなエンタクミドリイシとみられるサンゴ

魚地さん 
「最近はこの南方のテーブルサンゴが大きくなって、数も増えている。新しく小さい個体もどんどん増えてきている。原因は冬場の水温じゃないかな。今までは冬場の水温は10℃ぐらいまで下がっていたが、ここ数年は冬でもだいぶ温かい印象が強いんだよ」

トロピカルな海に喜べない 江戸前のワカメが大ピンチ!!

カラフルな熱帯魚が行き交う南の海は魅力的だが、そんな悠長なことを言っていられない変化が起きていた。漁業者は海水温の変化がおよぼす影響で大打撃を受けているのだ。

鋸南町の海でワカメの養殖をしている平島康裕さんは、シーズンに入るというのに養殖に使うロープが積みあげられたままの港で話を聞かせてくれた。ここ3年ほどワカメの収穫が激減し、昨年はほぼ全滅だという。

ワカメ養殖をしている 平島康裕さん 
「海水温が高くて、種を植えても育ちません。毎年12月ごろには種付けを始めますが、ことしも続けるかどうかは、まだ判断できない状態です。この海全体がそうですが、カジメなどの海藻がなくなってしまい、それを餌に育つアワビやサザエが姿を消して、そうした貝類の漁も厳しくなってしまいました」

水温の「1度」は気温の「1度」より遥かに大きな影響をもたらす

いったい何が東京湾は起こっているのか? 
鋸南町の海を定期的に調査している筑波大学のアゴスティーニ・シルバン助教は、東京湾の置かれた現状について危機感を募らせている。

アゴスティーニ・シルバン助教 
「エンタクミドリイシなどのサンゴは、九州や沖縄などで産卵し、その後は黒潮にのって北上して東京湾に流れ着きます。近年、冬場の水温が下がりきらなくなっているため、本来なら冬を越せずに消滅するはずの南方のサンゴが越冬して、毎年成長を続けられる環境になっているのです。鋸南町の海で、私が調査を始めた5年前と比べると、明らかに南方のサンゴの個体数が増えているし、サイズも大きくなっているのがわかります。冬場の温かい水温でサンゴが増えていく一方で深刻に感じているのが、カジメやアマモなどの藻場の消失です。サンゴの近くにあった藻場が年々減少しているのです。水温が今までのように下がらなくなると、海藻を食べるアイゴなどの魚が冬でも活発になり、海藻を食べてしまいます。『サンゴが増える』と聞くと、一見きれいな南国の海をイメージしてしまいますが、結果的には、元々その海にあった生態系や漁業の営みなどにも大きな影響を及ぼしてしまうのです」

シルバンさん曰く、短期的には黒潮の蛇行による影響もあるが、東京湾の海水温が温暖化によって上昇し続けているのは確かだ。水温の「1度」の変化は、地上の気温の「1度」より遥かに大きな影響をもたらすという。

東京湾が海の荒れ地に!?海洋酸性化という恐ろしい未来

東京湾はこれからどうなっていくのか。私たちはどうするべきなのか。全国のサンゴを調査している国立環境研究所の山野博哉さんに、この海水温上昇がもたらすシナリオを説明してもらった。

国立環境研究所 山野博哉 生物多様性領域長 
「私たちのシミュレーションでは2035年までに東京湾は、海藻の生えていた藻場が消えて、サンゴに置き換わる可能性が高いです。環境の変化は、それまでの私たちの行動の積み重ねの影響が続くので、いま私たちが行動をどれだけ変えても、しばらくは現在進んでいる環境の変化は止まらないのです」

上の図は、藻場がサンゴ群集に置きかわる確率を示している。色が濃いほど確率が高い。Aは1970年から2009年までの状況を示したもので、Dは2035年にかけての予想。東京湾は広い範囲で100%を示す濃い赤色に覆われている。

「本当に恐ろしいのはその先です、この環境変化が続いた先に、海洋酸性化という現象があります。二酸化炭素が海に溶け込んで、海水が酸性化していくと、もうサンゴも住めない海になり、最後は荒れ地の状態になってしまうという可能性があるのです」

東京湾を海の荒れ地にしないために

今、世界中で温暖化の主な原因となる二酸化炭素の排出を減らすなど、温暖化を食い止める取り組みが始まっている。海中の変化を目の当たりにして、ここまではっきり影響が見える場所が私たちの暮らす場所のすぐそばにあるのかと驚くとともに、環境変化への危機を強く感じた。 
今回、私たちは増えていくサンゴの姿から東京湾の変化を可視化することができたが、海の中は容易に観察できる場所ではなく、私たちの目に届きにくい。だからこそ、今後も東京湾で何が起きているのかを伝え、海の中の変化を自分事として考えられるきっかけを作っていきたい。

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