世代型社会保障制度
(医療・年金・介護・労働)

全世代型社会保障制度の実現に向け、政府の検討会議が19日にまとめた中間報告。医療・年金・介護・労働、各分野ごとに詳しくみます。

● 医療分野 ●

高齢化の進展で医療費が膨らみ、医療保険財政を圧迫することを想定し「痛み」をともなう改革も盛り込まれました。

後期高齢者「負担引き上げ」

現在は原則1割となっている75歳以上の後期高齢者の病院などでの窓口負担について「一定所得以上の人は2割とする」と明記しました。

これについては、高齢者の疾病や生活状況などを踏まえて、
▽具体的な施行時期や
▽2割の負担を求める人の所得基準、
▽長期にわたって頻繁な受診が必要な人への影響を見極めて
適切な配慮を検討するとしています。

そして、いわゆる団塊の世代が、75歳以上になり始める2022年度のはじめまでに実施できるよう、来年夏までに成案を得るとしています。

紹介状なし大病院の受診時定額負担は

紹介状のない患者が大きな病院を受診した場合、初診で5000円以上を診察料に上乗せする制度について、外来の機能分化を進めるため、大幅に拡充するとしています。

対象となる病院を病床数が400床以上から200床以上の中規模な病院に広げるほか、負担額も引き上げ、増額分を医療保険財政に投入するとしています。

検討にあたっては、患者の病院へのアクセスが過度に制限されないよう、現在の上乗せ負担の徴収状況などを検証するとしています。

「ワンコイン負担」や「市販薬保険適用外」は見送り

▽外来受診の際に一定額を上乗せする「定額負担制度」の導入や
▽市販薬と効能が同じ薬を保険適用から外す改革については、
日本医師会や与党から受診の抑制につながるなどと慎重な意見が相次ぎ、中間報告には盛り込まれませんでした。

医療提供体制の改革

▽公立・公的病院の再編・統合などを柱とした「地域医療構想」の推進
▽医師が都市部などに偏り、地方で不足する医師偏在の問題への対策
▽医師の働き方改革を「三位一体」で推進するとしています。

また、患者の健康を日常的に把握する「かかりつけ医」の機能の強化を進めるとしています。

● 年金分野 ●

年金分野では、将来にわたって支給水準を維持していくため支え手を増やそうと大きく3つの制度改正が盛り込まれました。

厚生年金の適用拡大

働き方が多様化する中で、パートなどで働く短時間労働者が厚生年金に加入しやすいよう、加入条件となっている企業規模の要件を緩和するとしています。

具体的には、現在の「501人以上」から
▽3年後の2022年10月に「101人以上」にしたうえで、
▽5年後の2024年10月に「51人以上」まで
2段階で引き下げるとしています。

いわゆる「就職氷河期」世代の非正規雇用の人などの老後の安心を確保し、低年金対策につなげるねらいもあります。

在職老齢年金の見直し

働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」制度について、就労を促すため、年金が減らされる収入の基準額を、
▽60歳から64歳の人は
今の28万円から47万円に引き上げるとしています。

一方で、
▽65歳以上の人については、
与党内からも、高所得者の優遇になるなどと引き上げに慎重論が相次ぎ、今の47万円のまま維持します。

受給開始年齢の選択肢拡大

また、高齢者の就業機会の延長に合わせて、現在60歳から70歳までとなっている年金の受給開始年齢の選択肢の幅を、75歳まで拡大することとしています。

政府は、こうした内容を盛り込んだ年金制度改革の関連法案を来年の通常国会に提出する方針です。

● 介護分野 ●

介護費の抑制に向け、介護予防の取り組みの強化を打ち出す一方、給付と負担の見直しは、盛り込まれませんでした。

介護予防

病気の予防や健康づくりを後押しようと、地域で高齢者が交流する場を拡大するなど、介護予防に積極的に取り組んだ市町村や都道府県を評価し、メリハリをつけて交付金を配分するとしています。

給付と負担の見直し

介護費は、高齢化を背景に年々増え続けていて、給付と負担の見直しが喫緊の課題です。

しかし、
▽原則1割となっている介護サービスの自己負担を収入に応じて2割負担や3割負担となる人を拡大することや
▽在宅で介護を受ける際に必要なケアプラン作成の有料化は、厚生労働省の審議会で、いずれも利用者への影響が大きいなどとして見送られました。

こうしたことも踏まえ、中間報告には、介護分野での給付と負担の見直しは、盛り込まれませんでした。

● 労働分野 ●

労働分野では、働き方の選択肢を広げていくための方策を盛り込んでいます。

「70歳まで」の就業機会確保

元気で意欲のある高齢者が活躍できる社会を実現するため、70歳までの就業機会の確保に向けて2段階で法整備を図るとしています。

まずは、
定年の廃止や延長のほか、定年後に個別に業務委託契約を結ぶなどの選択肢を示し、企業側がいずれかの措置をとることを努力義務とする法案を来年の通常国会に提出するとしています。

そのうえで、
将来的には、取り組みが不十分な企業名の公表など、事実上、義務化するための法改正を検討するとしています。

「中途採用」「経験者採用」の促進

大企業による新卒中心の採用制度を見直し、中途や経験者の採用を拡大するため、大企業で働く正社員のうち、中途採用や経験者採用が占める比率の公表を義務づけるとして、来年の通常国会に必要な法案の提出を図るとしています。

多様な働き方へ 今後の検討課題

多様な働き方ができるようにするため、今後の検討課題も示しています。

▽兼業・副業の拡大に向けて、労働時間の規制や割増賃金の取り扱いを検討するほか、
▽フリーランスの実態を把握したうえで、
労働法制上の保護や規制の在り方などを検討するとしています。