与野党全面対決! 人口減少にどう立ち向かう 北海道知事選挙

写真:与野党対決!

春の政治決戦、統一地方選挙。前半戦で行われる9つの知事選挙のうち、唯一、与野党の全面対決の構図となったのが、北海道知事選挙だ。
その最大の争点は、人口減少。
企業の本社機能移転や先端産業の誘致により、「新たな人材を呼び込む」と訴える与党支援の現職・鈴木直道。
子育て環境を改善し、公共インフラを維持することで「人口流出を食い止める」と唱える野党支援の新人・池田真紀。
与野党双方の思惑もにじむ、北の大地の攻防に迫る。
(札幌局 眞野敏幸)

与野党対決 突きつけられる課題

写真:会見する鈴木氏

現職の鈴木直道。北海道・夕張市長を経て前回2019年の選挙で初当選。2期目を目指す。
「道民の暮らしを守り抜き、北海道の未来を切りひらいていく。道民とともに、ひたむきに北海道を前に進めていく」

写真:会見する池田氏

新人の池田真紀。2017年から衆議院議員を1期務めた。知事選挙は初めての挑戦だ。
「私が目指すのは誰1人取り残さない、温かい道政をつくることだ。人に焦点を当て、4年間で必ずやり遂げる」

両者に突きつけられた最大の課題は、人口減少だ。北海道の人口は24年連続で減り、減少数も10年続けて全国最多。道都・札幌でも減少に転じるなど歯止めがかからない。

鈴木がアピールするのは、知事に就任以来、企業の本社機能の移転を通じて、道外から人を呼び込もうと取り組んできた実績だ。

(鈴木直道)
「4年前、人口減少の課題にしっかりと向き合っていく決意を申し上げた。進めてきた取り組みの一つが働く場の確保だ。企業へのトップセールスなどを懸命に進め、首都圏から本社機能を移転する企業の増加数、サテライトオフィスの開設企業数は全国1位を達成した」

今回、政策の柱に据えるのが、先端半導体の生産拠点の整備や、大量のデータの保管・処理を行うデータセンターの誘致だ。北海道の優位性を高め、活力ある人材を取り込むと訴える。

(鈴木直道)
「世界中のあらゆる産業にイノベーションをもたらす次世代半導体を北海道で開発する。『メードイン北海道だ』と世界に言えたらいいじゃないか。世界を日本が支え、北海道がデジタルを支えていく。引き続き仕事をさせてほしい」

対する池田が力点を置くのが、公的サービスを維持して、道外への人口流出に歯止めをかけることだ。

(池田真紀)
「医療、教育、鉄道、ライフラインを含めた公共財をしっかりと守り抜くことができるかが重要だ。『共助』という地域の支えも必要だが、『公助』なしではできない。北海道全体を守っていく。国道を守り、命を守っていく。そこに焦点を当てて政策を作っていきたい」

保育料や学校給食費、高校生までの医療費の実質無料化など、子どもを産み育てやすい環境づくりを進めることで、安心して暮らしていける社会を構築すると訴える。

(池田真紀)
「トップが、政策のリーダーシップをとるのもありだが、トップが『前へ、前へ』と言いながら、置いてきぼりになっている地域や人々がいるのが今の北海道だ。道民の力を結集し、血の通った、体温の感じる道政をつくっていきたい」

実は共通項の多い2人

政策的な立場は異なる2人だが、その経歴を見つめると、実は共通項は多い。

写真:2008年夕張市に派遣された鈴木氏

鈴木は埼玉県出身の42歳。高校在学中に母子家庭となり、アルバイトを掛け持ちしながら生活費や学費を捻出した。高校卒業後に東京都の職員となり、仕事のかたわら、大学に通った。

2008年、多額の財政赤字を抱えて破綻した夕張市の再建を支援する職員として派遣されたことが契機となり、2011年、夕張市長選挙に立候補。当時、全国最年少の30歳で当選した。そして、2019年、自民・公明両党の推薦を受けて知事選挙に立候補し、野党が支援する新人との一騎打ちを制して初当選を果たした。

就任翌年の2020年2月、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、政府に先駆け北海道独自の緊急事態宣言を発出。夕張市長時代から支援を受けてきた菅前総理大臣とのパイプも生かし、政府に対しても積極的に発言してきた。

写真:2011年NPO活動の池田氏

池田は東京都出身の50歳。板橋区職員として福祉行政に携わりながら、シングルマザーとして2人の息子を育てた。2011年、札幌市に移り住んだ後は社会福祉士として活動した。

2014年の衆議院選挙に当時の民主党の支援を受けて北海道2区から立候補。敗れ1年余り後、隣の北海道5区に移り、補欠選挙を戦った。この選挙では、野党各党が支援する統一候補として臨み、“野党共闘”の象徴的存在とされた。

そして、2017年の衆議院選挙。小選挙区では及ばなかったものの、比例代表北海道ブロックで復活、初当選を果たした。
国会では社会福祉士として培ったキャリアを生かし、福祉分野の政策に力を入れた。子どもの貧困対策や、産後ケアを推進する法案など、議員立法のとりまとめに携わり、政府の対応を追及した。

苦労を重ねて政治の道を志した2人。ともに首都圏出身の元公務員でもある。
市長と国会議員という経験の違いはあれど、北海道に移り住んでから政治活動を始めたという点も共通する。

いざ短期決戦

北海道知事選挙における与野党対決の歴史は長い。過去19回のうち、与野党相乗りとなったのは、わずか1回。それ以外の選挙では、自民系が11勝、非自民系が7勝と、与野党が激しくせめぎ合ってきた。

自民・公明両党は20年前、現・参議院議員の前知事、高橋はるみを担いで勝利。以来、確保してきた知事の座を譲るわけにはいかない。

一方の野党も、非自民勢力が固い基盤を築き、かつて「民主王国」とも呼ばれた北の地で、道政を奪還することは悲願とも言える。

かくして今回の選挙戦も与野党の全面対決と相成ったわけだが、与野党双方のお家事情もあり、構図が固まるまでには時間を要した。

写真:集会の鈴木氏

鈴木が、立候補の意向を固めたのは年が明けてからのことだ。即断を避けた背景には、自民党との過去の経緯がある。
初当選した前回の選挙は、自民党内に別の人物の立候補を推す動きがあり、鈴木は一部の反発にさらされながらの選挙戦だった。
今回は自民・公明両党の道内トップが早々に支援を表明し、鈴木の立候補は既定路線となっていたが、前回選挙のこともあってか、鈴木は慎重の上にも慎重を期して水面下の調整を進めた。

「みんなの思いに応えていきたいと思う。決意は固めました」

鈴木が記者にそう告げたのは1月中旬。すでに選挙は2か月余り先に迫っていた。

写真:集会の池田氏

対する池田の立候補表明は、2月にずれ込んだ。
現職への対立候補を擁立するため、立憲民主党・国民民主党が連合などと選定を進めるも、選考作業は越年。国政経験があり、福祉分野に明るい池田に白羽の矢が立ったが、すんなりと受諾したわけではなかった。
補欠選挙を含め、3回の衆議院選挙を北海道5区で戦ってきた池田としては、次の選挙でも5区で捲土重来を期す覚悟だったのだ。

「迷いはあった。でも、野党第一党の不戦敗は避けなければ」

両党道連からの要請を受け、池田は立候補を決意した。

立憲民主党は、市民団体を通じて共産党や社民党と協議。両党も支援に回ることが決まり、“共闘”の態勢は整った。与党に対峙する池田の戦いは、野党勢力の体力を占うものともなった。

知事選挙にはこのほか、美容師の三原大輔と会社経営の門別芳夫が、無所属で立候補。

三原は「解体工事が進む百年記念塔を守りたい。豊かな未来を見て建てられた象徴であるシンボルタワーだと知ってもらい、絶対、守らなければいけない」と訴えた。

道が老朽化が進んでいるなどとして解体を決めた札幌市の百年記念塔の保全を訴え、回る方針だ。

写真:門別氏

門別は「経済格差を見直し、道民目線の道政をつくりたい。北海道をともに守り、育て、豊かにしていくため、北海道に住んでいる人々と手を組んでいきたい」と呼びかけた。
政党や団体の支援は受けず、動画投稿サイトなどSNSを中心に自らの主張を発信。

戦いは鈴木が制す

選挙戦で鈴木は、新型コロナへの対応など4年間の実績を強調し、道政の継続を訴えるとともに、企業の本社機能の移転や先端産業の誘致で新たな人材を呼び込み、北海道経済を成長させると訴えた。

そして、推薦を受けた自民党、公明党の支持層を固めたほか、無党派層からも幅広い支持を集めて2回目の当選を確実にした。
(文中敬称略)

【リンク】北海道知事選挙の開票状況はこちら

札幌局記者
眞野 敏幸
新聞記者を経て、2019年入局。北海道庁担当キャップ。兵庫県出身で、北海道で初めて食べたスープカレーが好物。