現職の実績 工藤vsタレント兄 大泉 上司と部下が対決 函館市長選挙

4月23日に投票が行われる北海道の函館市長選挙は、地元メディアのみならず、週刊誌やネットメディアも取り上げ、地方選挙としては異例の注目を浴びている。
立候補の意向を表明しているのは同じ大学を卒業し、市役所の上司と部下の関係だった2人だ。
(函館局 毛利春香)

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函館市役所から2人が立候補へ

写真:立候補予定の工藤氏と大泉氏


立候補を表明しているのはこの2人。
現職の工藤寿樹は、2011年に現職を破って以来市長を務め、4期目を目指す。
新人の大泉潤は、工藤の部下として部長職を歴任し、タレント・大泉洋の兄だ。

突然のことだった。去年7月、市長の工藤は、保健福祉部長の大泉から、函館市の職員を辞める退職願を受け取った。
翌年の市長選挙への立候補を見据えてのことだった。

上司の工藤は「私がどうこう言うことはありません。本人がそういう希望なら、私は特別何も。頑張りなさいとは言いました」

これに対して部下だった大泉は退職願を提出した日「ゼロからこつこつ歩きながら始める選挙戦になると思います」

写真:五稜郭

函館市は北海道南部に位置し、戊辰戦争の舞台となった五稜郭や、和洋折衷の雰囲気を残す町並み、函館山からの夜景でも知られる。イカをはじめとする海産物も豊かな港町で、市内を走る路面電車では日々、観光客の姿を見る。

一方、高齢化は進む。人口約24万3900人のうち65歳以上が35%を超え、北海道内でも高い水準にある。観光地に空き家も目立ち、まちの活性化は大きな課題だ。

その函館市のリーダーを決める市長選挙の投票は4月23日に行われ、この2人が立候補の意向を表明している。

立候補予定の2人は

大泉が市役所を去った2か月後の去年9月、工藤は4期目を目指して立候補を表明した。これを最後の立候補としている。
工藤は北海道乙部町出身の73歳。早稲田大学法学部を卒業し、函館市と合併する前の旧亀田市役所へ入った。函館市役所で部長職や副市長を務め、2011年の選挙で現職を破って当選し、現在3期目だ。
今回の選挙を「普通の選挙ではない」と語る。

写真:インタビューに応じる工藤氏

(工藤寿樹)
「マスコミがタレントの兄だと過剰に取り上げて話題を呼ぶ。それは大泉陣営にとって有利な取り上げられ方で、話題性だけが先行する。そこには普通の選挙と違って危機感を持っている。マスコミなんて来なくていい、そっと戦わせてくれないのか。本人ではなくて弟たるタレントと戦っているような感じになる。ただ、多くの人は人柄や資質、政策で選ぶと思うので、単純にタレントの兄だからというだけで選ぶほど有権者は愚かではないと思っている」

一方の大泉は去年10月、後援会の発足にあわせて初めて記者会見して立候補を表明した。
大泉は北海道江別市出身。投票日には57歳になっている。工藤と同じ早稲田大学法学部の卒業で後輩にあたる。1995年に函館市役所に入り課長職や部長職を務めた。市内の出身ではないが、父親が隣接する七飯町で勤務していた。
弟には選挙への応援を頼む考えはないとしている。

写真:インタビューに応じる大泉氏

(大泉潤)
「大泉洋のことを聞かれる、話題になることは増えましたね。非常に誇らしいですよ。お世辞もあるかもしれないけど、みんな褒めてくれる。僕も彼が好きだし、とてもうれしいですよね。純粋にそういう気持ちです。選挙に応援だとかいう話をしたことはないし、弟と自分の政治活動は言葉どおり本当に、別なものです。工藤市長については個人としての評価は控えますが、出された政策を読んでも、これまでを継続なさるということだと感じています」

かつての上司と部下 お互いに厳しい目

工藤が市長に就任した際に部下だったのが大泉だ。
同じ大学の学部を卒業した後輩で、秘書係長を務めたことがあった大泉を秘書課長に抜擢。その後も函館の主力産業をけん引する観光部長や、コロナ禍の保健福祉部長を任せ2人で市政の中核を担ってきた。
そんな2人の関係を「師弟関係のようなものだった」と話す人もいるが、当の本人はお互いをどう見ているのか。

選挙戦で争うことになったいま、工藤が大泉を見る目はこれまで以上にシビアだ。
工藤は、大泉を育てようという思いがあったが、実際に要職を任せてみるとその仕事ぶりは、度々、市長に伺いを立て判断能力に欠けていたと振り返る。

(工藤寿樹)
「市長候補になんて全く考えていなかった、私の後継としてはね、それは全くない。実際の選挙戦を前にして、今は本人の資質や政策に関係なく話題を呼んでいるというのが実態で、それ以上なんとも言いようがない」

大泉もまた、工藤と仕事をする中で、市長の後継者として市政を譲り受けようなどと考えたことはなかったと振り返る。
現市政の人口減少への危機感の欠如や、市民置き去りの市政運営を改革するために自ら立候補するという。

(大泉潤)
「不十分だったかもしれないけど、支えてきたという自負はあります。工藤市長は、辞める時が来ても誰かに譲ることはしないで新しい人同士が競えばいいと話していたし、僕は後継者だと感じたことはありません」

対照的な戦い方 組織と草の根

選挙戦に向けて、2人は対照的な展開を見せている。

写真:選挙事務所の工藤氏

工藤は、自民党から推薦を取り付けた。
後援会では支援者へのあいさつ回りを進めるとともに、パンフレットを投かんし、政策の浸透を図る。
1月の事務所開きには市の商工会議所会頭や建設業協会会長をはじめ、各種団体の代表者がスーツ姿で勢ぞろいした。
組織固めを重要視して、市長を3期務めた実績の強みを訴える。
工藤本人は「選挙の話はしないけれど」としたうえで、公務を最優先しながら市長として声がかかる会合やイベントに顔を出している。

写真:演説する大泉氏

大泉は、立憲民主党から支持を得た。
陣営幹部には、大学教授や若手経営者、福祉団体の代表がいて、草の根で幅広い層への支持を広げたい考えだ。
2月に行われた事務所開きには親子連れなど、老若男女、幅広い世代の姿があった。
本人も、町内会の集まりや学生が参加するイベントなど様々な場所へ足を運び、街頭演説も始めて政策を訴える。
大泉は「僕は無所属で市民党として、いろいろな人から多くの支持を得たい」と話す。

どうする函館 2人の政策は

工藤は「人口減少対策と経済回復」を強く打ち出している。
学童保育料の助成拡大や、学校給食の無償化へ向けて公費負担制度を導入するなど少子化対策に力を入れる。経済分野では、若者の雇用の受け皿となるIT関連企業やワーケーションの誘致、キングサーモンと昆布の完全養殖技術の確立を掲げた。このほか、観光客数については過去最大となる年間600万人を目指すとした。

大泉は「選ばれるまちになるため、都市のステータスを上げる」と何度も口にする。
子育てや教育といった未来への投資に力を入れるほか、函館を交通の要所として発展させること。経済や雇用の部分では、地域内経済の循環が必要だとして、公共事業の発注を地元優先にすることや、再生可能エネルギーで電力の地産地消を推進することを掲げている。

函館市長選挙は、統一地方選挙後半戦、4月16日に告示され、23日に投票が行われる。
100万ドルの夜景の輝きが照らし出すのは、どちらが描く未来なのか。
(文中敬称略)

函館局記者
毛利 春香
2018年入局。初任地は秋田局。人生初の北海道で函館市政を中心に取材。