橋や道路…「廃止もやむなし」4割超 老朽インフラどうしますか?

全自治体のトップに聞いてみました。

4月に迫った4年に1度の統一地方選挙。
これを前に、NHKは地方の「いま」を探ろうと、すべての自治体のトップを対象に、初めての大規模一斉アンケート調査を行った。
対象は、都道府県知事、市長、区長、町長、村長、1788人で、回答は1664人。回答率は9割を超えた。

アンケートには、自治体トップたちのやりがいや望み、怒りや悩みが率直につづられている。この結果をもとに、地方が抱える課題をシリーズで伝えたい。

第1回目のテーマは「老朽インフラをどうしますか?」。

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「廃止もやむなし」42%

全国には、国から「補修が必要」とされているにも関わらず、補修が進んでいない橋やトンネルなどのインフラがたくさんある。

高度経済成長期に多くつくられたあと老朽化が進み、いま各地でこれを維持するための財源や人手をどう確保するかが大きな問題となっている。

そこでアンケートではこう質問した。

「あなたの自治体では、老朽化が進むインフラを維持するための予算の確保に不安がありますか。ありませんか」

グラフ

回答は、
非常に不安がある 50.7%
やや不安がある 42.5%
あまり不安はない 5.6%
まったく不安はない 0.4%
わからない 0.8%

まとめると「不安がある」は93.2%。実に9割を超える自治体がインフラの維持に不安を抱いていることが明らかになった。

では、持てあましているインフラをどうしようと思っているのか。
本音に迫ってみた。

「『予算不足などのため補修できない橋やトンネルなどについては、一部を廃止することもやむを得ない』という考え方について、あなたはどう思いますか」

グラフ

そう思う 10.0%
どちらかといえばそう思う 32.3%
どちらかといえばそうは思わない 34.9%
そうは思わない 21.2%
わからない 1.6%

インフラの廃止もやむを得ないと考えている自治体が4割を超えたのだ。われわれが生活する中で、当たり前のように存在している橋やトンネル。しかし、もう維持していけないかもしれない。アンケートは、そうした強い危機感がにじむ結果となった。

待ったなし! 「老朽インフラ」の実態

NHKは、「老朽インフラ」について取材を続けてきた。
2022年12月には、独自の分析から、必要だとされながら補修されていない橋とトンネルが、全国で計7041か所に上ることを報じた。

具体的には、
①全国約74万か所の橋やトンネルの安全点検に関するデータ(国土交通省公表・2022年3月時点)
②点検時期のデータ(情報公開請求で入手)
を組み合わせて分析。

「早期に補修が必要」「緊急に補修が必要」と判断されながら、補修が行われていない橋やトンネルは全国であわせて3万3390か所。

このうち、国は5年以内に補修などの措置が必要だとしているが5年を超えても補修されていないのは、橋が6967か所、トンネルが74か所の合わせて7041か所に上ることが明らかになった。

【リンク】“橋がトンネルが崩れる” 74万のオープンデータを調べてみると

「橋の通行止め」に着目した分析も行った。
「緊急に対応が必要」と判断されたもののうち、「未対応」だった全国の343の橋について調査した結果、2022年12月の時点で、41の都道府県のあわせて265の橋で、修理や撤去の対応が取られず、1年以上「通行止め」が続いていることがわかっている。

【リンク】老朽化で1年以上通行止めの橋 全国265か所

待ったなしの「老朽インフラ」問題。
アンケート結果は、取材班が得たデータや危機感とも軌を一にするものだ。

市長たちの悩み “予算が足りない”

「廃止もやむを得ない」に「そう思う」と回答した1人が、青森県十和田市の小山田久市長だ。

県庁職員を経て、2009年に初当選し、現在4期目。職員時代も含めると50年以上にわたって地方行政に携わってきた。

「インフラは、人口がどんどん増えていった時に、一気に整備したものです。今はその『逆のコース』。残念ながら人口が年々減少している。インフラをこれからも全部更新、整備するのは予算の関係などでそうはいきません。ただ、10人が10人『賛成』ということはまずほとんどない。地元との話し合い、了解がなければなかなか進みません」

198の橋を管理する十和田市。
2021年、そのうちの1つの廃止を決めた。

水田が広がる地域にかかる「第2下川原橋」。62年前(1961年)に建設され、生活や農作業のルート、それに子どもたちの通学路としても使われてきた。

2018年に調査を行ったところ、老朽化により「早期に補修が必要」と判断された。現場を訪れると、橋の四隅にある親柱が傾き、多数の亀裂も確認できる。

補修には600万円以上かかると試算。利用実績も勘案して検討した結果、橋を撤去する方針を決定。住民への説明を行った。

この地区の町内会長、山下善道さん(71)。橋がなくなると生活に影響が出ると感じながらも、地域の安全のためにしかたがないと、市の方針を受け入れた。

「子どももお年寄りも生活に使ってきました。向こうが田んぼなので、軽トラで荷物を運んだりとか苗を運んだり。う回路はぐるっと回る距離なので、何にしても年寄りは近いほうがよかったです。さみしいですけど、事故があってからでは大変なので、あきらめるしかありません」

雪をかぶった「第2下川原橋」は、通行止めになったまま、撤去の時を待っている。

「選択と集中」「マンパワーも課題」

「廃止もやむを得ない」に「そう思う」と回答した首長にさらに取材してみた。

背景として、十和田市と同じく予算不足を挙げる声だけでなく、自治体の職員不足や管理コストの高さを挙げる声もあった。

「インフラをすべて維持することは現実的に無理ではないか。どんどん人口が増えていて、税収も右肩上がりで増えていく自治体ならそれもできるが、日本全国の自治体でそう言える自治体がいくつあるか。その中で、選択と集中も自治体の役割だ」(富山県砺波市・夏野修市長)

「財源だけではなく、マンパワーをどうするかという懸念もある。AIなど新しい技術の導入も進んでいくが、インフラの点検は、人がしっかりパトロールして、見て回ることが欠かせない」(鹿児島県阿久根市・西平良将市長)

「財源が苦しい中、インフラ整備には、国や都道府県からの補助がもっと必要だと考える。今あるインフラを維持していこうにも、コストのかからない工法を取り入れるなど工夫が求められていくことになる」(北海道利尻町・上遠野浩志町長)

「長寿命化」へ 新たな手法を取り入れる町も

今あるインフラを廃止しなくて済むよう、「長寿命化」させるため、新たな手法を導入した町もある。

奈良県北部の田原本町。
主要な幹線道路などが通り、交通量が多い。町内各地にある橋の修理は重要な課題だが、年々増えるコストの増加に頭を悩ませてきた。

こうした状況を改善するため、町は3年前から、インフラを修理する際の設計業者と施工業者が一体的に業務を進める「ECI方式」と呼ばれる方法を採用した。

これまでの橋の修理工事で、業者は、橋の構造などで不明点があればいったん作業を止めた。そして設計業者や町に逐一、確認していた。これだと工期が長くなるデメリットがある。

「ECI方式」では、修理の設計作業に施工業者がかかわり、実際の工事の際には設計業者が現場で立ち会う。こうすることで、効率的な工事の進め方ができるようになるほか、設計と施工で二重になっていた必要な資材の情報が共有され、無駄なコストが省けるようになったという。

さらに、町はこれまで「点検」と「設計業務」を分けて年度ごとに発注し、事務が煩雑になっていたが、2つをあわせて複数の年度にわたって1つの業者に一括発注する方式もあわせて採用。
町によると、これらの方式を導入したことで、修理にかかる期間がおよそ半分になったほか、総事業費も5パーセントほど圧縮することができた。

「点検の結果、町内の363の橋のうちの39は『早期に補修が必要』とされていました。それまでのやり方では全部直すのは難しい状況だった。新たな工法を取り入れたら、迅速に工事が行うことができ、全ての橋で2024年に補修が完了する見込みとなりました」(まちづくり建設課 森戸和繁係長)

“後始末の時代”

当たり前に身のまわりにある橋や道路などのインフラ。補修するか、廃止するか。
人口が減少し、予算も不足する中で、自治体の苦悩や工夫がアンケート結果から見えてきた。

最後に、アンケート全体を通じた自由記述の1つを紹介したい。

「現代は先人の業績の後始末をする時代である。各種インフラの老朽化対策がその象徴だ。創るのは容易いが、維持管理、廃棄するのが難しい」(岩手県九戸村・晴山裕康村長)

奈良局記者
八城 千歳
2016年入局。山形局を経て奈良局。普段は県南部や考古学取材を担当。選挙では、衆・参・知事選と全て維新候補を担当。
政治部記者
阿部 有起
2015年入局。鹿児島局、福岡局を経て2021年から政治部。今夏から野党クラブ所属。趣味はツーリング。