河村たかしと減税日本
崩れた維新との共闘 相次ぐ離反

「おふくろさんよ~おふくろさん」
3月23日、みずからの政治資金パーティーで、十八番の森進一を披露した名古屋市長の河村たかし(74)。統一地方選挙を前に、きわめて上機嫌だった。
しかし、これまで共闘していた維新とたもとを分かち、みずからが代表を務める地域政党・減税日本からも所属議員が離反するなど、態勢は盤石とは言えない。
“総理を狙う男” 河村たかしは、選挙にどう臨んだのか。
(名古屋局 豊嶋真太郎)

河村人気は健在?

統一地方選挙・前半で行われる愛知県議会議員選挙と名古屋市議会議員選挙の告示日を控え、河村たかしは、名古屋市のホテルで政治資金パーティーを開いた。
当初400人ほどの来場を見込んでいたが、会場には500人を超える支援者が集まり、急きょ追加の座席を用意する事態に。

河村は各テーブルを回り、支援者から求められる写真撮影に次々に応じていった。
ステージに立つと、名古屋市で実施した減税の成果や、実現を目指す高校入試の廃止など、みずからの実績や政策を熱弁し、大きな拍手を浴びた。

しかし、次の瞬間、会場の雰囲気が一変した。
河村の出番が終わると、支援者たちが次々と席を立ってしまったのだ。

パーティーは、統一地方選挙に向けて減税日本が公認候補たちを披露し、結束を固める場でもあった。

いわば、この日の目玉となる場面で会場は空席が目につく状況になってしまった。

“薩長同盟”の解消

減税日本は、河村が名古屋市長に初当選した翌年・2010年に設立された地域政党だ。
河村と一心同体で、2011年の名古屋市議選では、高い河村人気もあり、当時、定員が75人の市議会で28議席を獲得し、最大会派となった。

一時の勢いは失われたものの、少数与党として存在感を示していた減税日本だが、今回の選挙は、これまでとは大きく状況が異なる中で迎えた。

そのひとつが、日本維新の会との関係だ。

減税日本と維新は、ここ数年、選挙のたびに共闘してきた。同じ「非自民」の立場から“身を切る改革”を目指すなど政策面で共通点も多かったため手を組んできた。

前回2019年の名古屋市議選では、減税日本の公認候補を、維新が推薦し、両党の支持者を取り込むことに成功した。
選挙前に8議席と低迷していた減税日本は、14議席にまで勢いを盛り返した。

2022年夏の参議院選挙では、元県議で、減税日本の幹事長も務めた河村の側近、名古屋市の元副市長を両党が共同公認した。維新は、愛知県を最重点選挙区と位置づけ、当時の松井代表も応援に駆けつけた。結果は、次点で落選したものの、35万1840票を獲得した。

こうした共闘関係を、河村は、幕末に明治維新を実現した薩摩藩と長州藩になぞらえて「薩長同盟」とまで呼んでいた。

ところが、11月24日。
維新の藤田幹事長は、愛知県で会見を開き、共闘関係を解消し統一地方選挙で独自候補を擁立する考えを明らかにした。
われわれの生え抜きをしっかり作るということが前々からの課題だった

何が、亀裂を招いたのか。

維新の関係者からは、減税日本との関係に対する不満の声が聞かれた。
減税日本からは、統一地方選でもダブル公認したいという提案があったが、ほとんどの候補は、減税と維新で対立したら減税に行くと答える。ならば、こちらの看板を借りて選挙をしているだけじゃないか
減税日本もかなり弱っているので、この先、党自体がどうなるかわからない

減税日本が勢いを盛り返した前回の名古屋市議選でも、維新は減税日本の候補に推薦を出しただけで、維新の公認候補はひとりもいなかった。河村が言う「薩長同盟」は、維新にとっては何らうまみのない関係だったというのだ。

さらに、参議院選挙で、維新の公認候補が立候補していた埼玉選挙区に河村が入り、対立候補の応援演説をしていたことも明らかになり、不信を買っていたことも伏線となった。

減税議員の離反も

また、減税日本にとって逆風となっているのは、今回の選挙までの間に、減税日本に所属していた議員の離反が相次いだことだ。前回の名古屋市議選で定員68人のうち14議席を獲得した減税日本だが、党を離れる議員が相次ぎ、現在9議席まで減らしている。
このうち今回の選挙を機に新たに離党したひとりが、西区選挙区(定員4人)から立候補した鹿島敏昭だ。
鹿島は2011年の初当選以来、3期12年、減税日本の議員として活動してきた。

前回の選挙で当選した時点で72歳。当初は、任期を満了したら引退するつもりだったが、支援者から続投を求められ、立候補を決意したという。

しかし、減税日本は、西区に、河村の元秘書を擁立する方針を決定。河村からも直接、減税日本の候補を応援するよう依頼を受けたという。

鹿島には党の政策をめぐって、河村と意見が対立した過去がある。
党内で議論するのではなく、結局は、河村のワンマンで政策や党の運営方針が決められてしまうことに行き詰まりを感じ、すでに気持ちは減税日本から離れていた。減税日本からは顧問などのポストを用意するとも言われたが、鹿島が選んだのは、維新から立候補することだった。
市長のことは尊敬しているし、選挙でも力を借りてきたが、今の減税日本はあまりにも1人の力が強すぎる。議員も市長の顔色をうかがうことが多く、イエスマンになってしまっている。維新の政策には共鳴する部分もあるし、それなら維新かなと

3月31日の告示日、鹿島の出陣式には維新の衆議院議員、岬麻紀の姿があった。
岬は、取材に対し、選挙戦への自信をのぞかせた。
今まではともに戦ってきたが、今回はそれぞれに切磋琢磨していくという意味で、思う存分戦えばいいと思う。判断するのは有権者だ。維新をこれまでなかった選択肢として名古屋・愛知でも選んでもらえば、結果が出てくると信じている

今回、維新は、名古屋市議選の16選挙区のうち、9選挙区に1人ずつ候補を擁立した。
この中には、鹿島のように、河村との意見対立や会派の運営方針をめぐる意見の不一致などで減税日本を離れ、維新から立候補する4人も含まれている。

“防衛戦は無敗”

こうした、維新の対応に河村は怒りを隠さない。
維新の愛知県連とは協力しようと話をしていたが、突然、『維新の政策に従ってくれ』という話だった。それではいかんでしょう。自民党に勝つ勢力を作らないかんとなると、幕末の薩長土肥みたいにやらんといかんのに、『減税の公認候補を出すのはやめてくれ。維新の指示に従ってくれ』と言われると、そんなの解党しろってことじゃないですか。そんなの名古屋の市民を裏切ることになるから飲めない

しかし、選挙に臨む河村には自信があった。取材に対し、こう述べたことがある。
減税をやめて選挙通ったもんは、1人もおらんでね。防衛戦無敗ですから

河村の念頭にあるのは、維新と共闘する前の2015年の名古屋市議選だ。この選挙で維新は、15人の候補を擁立したものの当選したのはわずか1人。その1人も、その後、立憲民主党に移っていた。

名古屋では、どんな候補が出てきても勝てる。選挙前に開いたパーティーでの上機嫌ぶりからも、河村の自信が感じられた。

減税日本も河村も“正念場”

ナゴヤのことはナゴヤで決めよみやぁ!
河村は、このスローガンを掲げ、名古屋市民に寄り添うのは、維新ではなく減税日本だとアピールしている。

設立以来、ともに歩んできた河村と減税日本。候補者たちは、党の顔である河村の実績を強調して選挙戦を戦ってきた。

維新と競合する選挙区のひとつ、千種区で立候補した河村の元秘書・北角嘉幸は、河村市政を継続させる必要性を繰り返し訴えた。
市長の秘書をしていたときに、文部科学省から、名古屋市は子ども政策のトップランナーだと言ってもらった。河村さんは政策の実現のために、ふつうの市長ではできないような、すごい予算をつけた。河村さんだからできたことで、河村市政を続けていくかどうかが問われている

河村の4期目の任期も4月でちょうど折り返し。減税日本の候補者の勝敗は、ただちに自身の求心力にも関わると見られ、まさに正念場といえる。河村は、公務の時間を除き、精力的に各地の候補者の応援に入っている。

選挙結果が今後の身の振り方に影響する可能性もあるなかで、最近、河村のある動きが話題になった。
2022年10月、新型コロナ対策やワクチン政策をめぐって考えの近い参政党のタウンミーティングに出席したことだ。
先の参議院選挙で議席を獲得し国政政党になった参政党。その後、各地で地方議員も誕生している。

以前から、みずからを “総理を狙う男” だといってはばからない河村。それだけに、一心同体の減税日本の党勢衰退が指摘される中、次に衆議院選挙があったら、参政党から立候補するのではないかという憶測も流れた。

各選挙区の候補者の応援に回る河村に、ずばり勝算を尋ねた。
大阪に維新があるように、名古屋には減税日本がある。そりゃ維新には負けんでしょう。負けたらやっとれん。名古屋市民の皆さんも肌感覚でわかると思いますよ


名古屋市議選で議席取り戻す

名古屋市議選の開票の結果、減税日本は、議員が離れ9議席まで減っていた議席数を、前回・4年前の選挙と同じ14議席まで取り戻した。
一方、今回、減税日本とたもとを分かった維新は、9人の候補者を擁立したが、1議席の獲得にとどまった。

選挙を終え河村は記者会見でこう述べた。
「自民党に代わる勢力が大阪は維新ということになると。名古屋は減税という勢力があって何しろ減税しとる。『自民党だけではいかんわな』という人は、減税のほうに入れてくれるとなると、維新はあとになりますわね」

一方、日本維新の会愛知県総支部の幹部は、取材に対し「河村さんは、敵を作って勝ち抜く戦略に長けていて、こちらには甘さがあった。東海地方においては、維新の看板だけではとても当選ラインまではいかない状況にあると感じた」と話した。

減税日本は、少数与党の立場は変わらないものの、河村はみずからが掲げる政策をめぐり、より強い姿勢で議会に臨むことも予想される。
(文中敬称略)

【リンク】愛知県議選挙・名古屋市議選挙 開票速報

名古屋局記者
豊嶋 真太郎
2019年入局。横浜局、小田原支局を経て2022年8月から名古屋市政を担当。