野党はなぜ弱い?
戦略は?再編は?

財務省の事務次官のセクハラ報道問題、森友学園や加計学園をめぐる問題、自衛隊の日報問題など、野党にとっては、「攻めどころ満載」な状況が続いています。
2009年の「歴史的な政権交代」から、まもなく9年。
「安倍1強」とも言われる政治状況のもと、野党は「政権を退陣に追い込む」最大のチャンスが訪れていると意気込んでいます。
しかし、政府与党に決定的な一手を打ち込めるかというと、そうとも言えないのが現状です。それはなぜか。
一方で、こうした現状を打開するため、ばらばらになった野党勢力をもう一度まとめようという動きも出ています。果たして実を結ぶのか。探ってみました。
(政治部 野党担当記者・稲田清、及川佑子)

黒い霧解散!?

「通常国会が終わるタイミングで、疑惑の払拭を図るための『黒い霧解散』のような可能性が高まってきた」。
4月17日の記者会見で、希望の党の玉木代表が語った政局観です。

昭和41年、さまざまな政治問題が相次ぐ中、当時の佐藤栄作内閣が行った、いわゆる「黒い霧解散」をあげて、安倍総理大臣が、局面の打開を図るため、6月20日の通常国会の会期末までに衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかという見立てです。
去年の衆議院選挙で、自民党が圧勝し「安倍1強」の政治情勢が続く中、私たちが、野党の国会議員から、「解散を迫っていく」という言葉を聞いたのは、財務省の改ざん疑惑が浮上してから間もない3月上旬のことでした。

それ以降、報道のトップにあげられるような問題が相次ぎ、野党の国会議員らは、4月上旬に国会内で集会を開き、「安倍総理大臣には政権を担う資格はない」と、約120人が気勢を上げました。

ただ、国会の勢力図は、自民・公明の与党が、衆議院で3分の2の議席を上回っており、参議院でも過半数を占める一方、野党は、第1党の立憲民主党が60人あまりと、自民党の最大派閥を下回る規模で、数の上では圧倒的に劣勢です。追及の見せ場である、国会の主導権は、自民党に握られているのが現状です。

「ヒアリング」という新戦法

こうした中、野党が1つの武器として活用しているのが、「野党6党合同ヒアリング」です。
問題が発覚した省庁の幹部に直接質問をぶつける野党のヒアリングは、去年の衆議院選挙での民進党分裂を受けて、各党ごとに行われることが多かったのですが、「政府を追及するにしても、野党はばらばらだ」といった指摘もありました。
そこで、立憲民主党、希望の党、民進党、共産党、自由党、社民党の野党6党が足並みをそろえて、国会の委員会などとは別に政府側をただす舞台を設けました。

「全面テレビ公開で、公開リンチのようにやる」などと発言した厚生労働副大臣が、陳謝し発言を撤回したこともありましたが、それだけ政府内にも、連日、関係省庁が厳しい質問を浴びせられる様子が報じられる状況に危機感もあったのだと思います。
合同ヒアリングは、現在、「森友学園」、「加計学園」、「セクハラ」など7つのテーマで行われており、開催回数もすでに70回を超えています。(4月23日現在)
ただ、与党側からは、政府を追及するにしても議事録が残る委員会などで行うのが筋だといった批判や国会審議が形骸化しているといった懸念も出ています。

しかしその内実は…

合同ヒアリングなどでは、足並みを揃えている野党6党ですが、肝心の国会戦術では、野党分裂の影響が出ています。

端的に表れているのが、各委員会での質問時間です。
国会は、政党を基盤にした会派の議員数によって運営が行われますが、各委員会での質問時間も、原則、所属議員の数に応じて、各会派に振り分けられます。民進党が3つに分裂したことで、それぞれの持ち時間が短くなってしまい、同じテーマを追及するにしても、質問の重複が見られるなど、連携が不十分ではないかという指摘が聞かれるようになりました。

野党どうしで主導権争い?

背景には、野党間での主導権争い、つまり与党とどう対峙していくかという国会戦術をめぐる激しい駆け引きがあります。
去年の衆議院選挙での民進党の分裂によって、衆議院では立憲民主党、参議院では民進党が、それぞれ野党第1党になっています。つまり、野党は衆参で第1党が異なる「ねじれ」が起きているのです。

2枚の写真を見比べてみます。

3月に行われた野党6党の幹事長・書記局長会談です。
野党第1党の立憲民主党の福山幹事長が、野党6党を代表する立場で中央に座っています。第2党の希望の党、第3党の民進党の幹事長が、それぞれ両隣に位置しています。

一方、テレビ中継も多く、花形といってもいい参議院予算委員会の理事会です。
中央に座る予算委員長の向かって左隣に座るのは、野党側の筆頭理事を務める民進党の川合孝典氏です。
予算委員会の開催やテーマなどは、与党と野党の筆頭理事が直接交渉しながら、委員長が判断し、実質的に決められていきます。立憲民主党の蓮舫氏の姿も見えますが、参議院の議席数は民進党、共産党、日本維新の会より少ないため、理事会では、委員長の許可がなければ発言権のない「オブザーバー」として、出席しているに過ぎません。つまり、参議院の予算委員会の攻防は、民進党が中心となっているのです。


さらに言えば、立憲民主党の福山幹事長自身が参議院議員であることに加え、「オブザーバー」の蓮舫氏も発信力があり、参議院を舞台とした与野党の攻防では、メディアの取材でも、両氏が野党を代表して発言する場面が少なくありません。
参議院の民進党幹部は、「立憲民主党とは、まともに話をしていないし、その気にもならない」と不満を漏らすなど、身内だった野党内でさや当てが繰り広げられているという実態があるのです。

再び新党構想が

こうした現状を打開しようと、3月から、再び新党構想が加速しています。来年の参議院選挙をにらんだ、最大の支持団体である連合の意向も強く反映されています。
民進党が、立憲民主党や希望の党などに新党結成を呼びかけた結果、立憲民主党は拒否しましたが、希望の党の執行部は、「待ってました」とばかりに呼応しました。

野党側が連携して政府・与党を激しく追及しているタイミングで、「水を差す動きだ」といった冷ややかな見方もあるなか、なぜ新党協議を進めるのか、そして、その後の展開はどうなるのか。民進党と希望の党の代表に改めて聞きました。

民進 大塚代表「このタイミングしかない」

「(迷いは)ない。これだけ安倍政権の横暴さや、官僚組織の劣化が明らかになってきた中で、『新しい受け皿となり得る政党が必要ではないか』と決意を示すのは、このタイミングしかない。世の中が静かで、国民の怒りが沸騰していない中で、『受け皿になります』と言って旗を掲げても、『何で今?』と言われる。『役割を終えた』と指摘されざるを得ない政党は店じまいして、新たな芽を出させて頂きたいので、『こういう考え方のもとに参集してくれる人は、どうぞ集まって下さい』ということなんです」

野党の直近の民意は、立憲民主党では?
「直近の民意は確かに立憲民主党が相対的優位を得たわけだけど、いわゆる無党派層が40%いるわけですから。かつての民主党のように、政権交代した2009年には、自民党支持層もかなり流れた訳で、そういう風にならないと、大きな政権選択を国民が出来ない。立憲民主党は頑張っていると思うが、その意味では、もう少し寛容さを持ったほうがいい感じがしますね、この半年を見ていると」

希望 玉木代表「貪欲に数を追う」

なぜ新党?
「どうしても去年の衆議院選挙の際のわだかまりがあってね。希望の党を立ち上げた皆さんと、もっと言えば、小池百合子さんと民進党から加わった方々で、生まれの違う人たちが混在していることで、なかなか大きな塊になれず、いったん整理していくこともどこかでやらないといけない。当時、小池さんの人気が非常にあった中、結果として『排除の論理』もあり、立憲民主党という政党が新たに生まれ、ひとつにまとめていこうとする動きが、かえって分断を生んでしまったのは、明らかに当初の期待とは違う結果になっている。政治は結果なので、成功しなかった総括をせざるを得ないし、国民に混乱と失望を与えてしまったことは、深く反省し、おわびもしなければいけない」

新党の見据える先は?
「2009年の政権交代を経験し、『国民の皆さんが大きな失望を感じたことを受け止めないといけない』という人も多いし、去年の衆議院選挙で希望の党に合流し、『考え方が変節した』と批判を受けた人もたくさんいる。われわれ野党も違いを言い始めると、いくらでも細分化する。それをまとめていくことがどれだけできるのか。『安倍政権より、よりよい政権が作れるんだ』、『そのために何としても政権を奪取するんだ』と、いい意味での執着、貪欲(どんよく)さが必要。『数合わせはだめだ』と言うが、民主主義は過半数を取った者がものを決めていいというルールの以上は、数を追わないといけない。貪欲に」

野党はどこへ向かうのか?

この原稿を執筆しているさなか、大塚・玉木両代表は、安全保障やエネルギー政策などの基本政策で合意した上で、新党の名称は、「国民民主党」とすることを発表しました。そして、今後新党を速やかに発足させるため、それぞれの党内手続きを進めることにしています。

1.4+0.3=?

4月のNHKの世論調査での民進党と希望の党の支持率です。
「新しい党なのだから、支持率はゼロからでもいい」
両党の執行部からは、強気な意見も聞かれますが、「新党の支持率は、それぞれを足した数字以下になりかねない」と自虐的な声もささやかれています。

さまざまな問題の噴出による「安倍1強」といわれる政治情勢の変化は、再び野党再編の動きを誘発させている側面があります。
一方で、各種の世論調査を見ると、野党の支持率は上がっておらず、有権者は冷静に現在の情勢を見ているように感じます。大きな勢力を作ることはひとつの手段ですが、「政権批判の受け皿」になれるかどうかは、有権者に期待を寄せていいと思わせる、具体的な日本の将来像を示すことが出来るかにかかっていると思います。

政治部記者
稲田 清
平成16年入局。鹿児島・福島局も経験。野党クラブで国民民主党や共産党を担当。趣味はダイビングと船釣り。
政治部記者
及川 佑子
平成19年入局。金沢局、札幌局、テレビニュース部を経て政治部。現在、野党クラブ担当。