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液状化被害 再建の課題➁ ~地域での対策は~

  • 2024年04月26日

能登半島地震で明らかとなったのが、液状化の脅威です。県内では約9500件の住宅被害が推定されるなど、県内に潜む液状化のリスクも浮かび上がりました。今後の地震による液状化を防ぐにはどうすればよいのか?そこで注目を集めているのが液状化を起きにくくする地盤改良の工事です。対策のヒントを探りました。(NHK新潟局ディレクター大久保美佳)

◆液状化対策を行った地域 柏崎市山本団地

16年前、液状化の再発防止対策を行った地域、柏崎市山本団地です。
1970年代に鯖石川沿いに造成され、現在およそ100戸の住宅が並んでいます。
2007年に起きた中越沖地震。
柏崎市では震度6強の揺れを観測しました。
山本団地では液状化が起き、地面が80センチほど沈下。
住宅の崩壊や地滑りの危険性から住民たちに避難勧告が出されました。

山本団地に45年住む本間裕子さんです。
地震当時、本間さんの自宅は崩壊の恐れがあるとして「全壊」と判定されました。
「このまま住宅を再建していいものか」。
悩む本間さんが目にしたのは、途方に暮れる地域の人たちの姿でした。

本間さん

近所中の家が傾いて、みんな落ち込んでいました。自分一人の問題じゃないっていうのはすぐ分かったから、何とかするしかないと思いました。

◆立ち上がった住民たち行政と交渉

本間さんは住民の仲間に声をかけ、団地全体の地盤改良ができないか、市に相談することにしました。
しかし「私有地に行政は介入できない」と断られます。
本間さんたちはあきらめず何度も通います。
さらには県や国にも粘り強く交渉を続けました。
そして熱意に動かされた行政はどのような制度を利用すれば住民の希望により添えるか検討を始めました。

暗きょ排水

その結果、液状化防止策として提案されたのが、地下水位を下げる方法です。
宅地の下に排水管を張り巡らせ地下水を抜き、川に流し込みます。
こうして、地下水位を下げるというのです。
総工費は1億6000万円。
その4分の3は補助金でまかなえることになりました。
しかしおよそ4000万円は地域住民で負担しなければなりません。
さらに工事には住民全員の合意が必要になります。

本間さん

お金に対する価値観は人それぞれ違う部分もあるのでまとめるのは簡単ではなかったです。やってもらいたいけど、住民負担があるんだったら迷うという意見がとても多かったです。

◆住民の合意を得るためには

住民の理解を得るうえで大きな助けになったのが近所の友人、小熊洽子さんと金井敬子さんです。
大学で地学を学んでいた小熊さん。
ボーリングの調査結果など科学的なデータを自ら集め、それをわかりやすく住民に伝えました。

小熊さん

この土地は絹ごし豆腐だと思ってください。その上に今、家が建っているんですって話をしました。だからみんなで何とかしなきゃいけないって。

それでもなかなか工事への不安をぬぐえない住民もいました。
そこで広い交友関係を持つ金井さんが活躍しました。
各地に避難している住民のもとを訪ね、不安を聞いて回ったのです。

金井さん

みんなが思いを共有するっていうかね。
思っていても言いにくい人もいるから。

本間さん

金井敬子さんが集めてきてくれた心の不安とかいろんな感情みたいなものを私たちに話す。そうするとその不安に合わせて、小熊母ちゃんがデータをかみ砕いて住民に話してくれる。すごい連携でした。

こうして、52戸の合意を得ることができました。
負担額は被害の程度などをもとに決めました。
そして地震発生から8か月後。
山本団地で工事が行われました。
国の補助金を利用して地域の液状化対策工事が行われるのは全国で初めてのことです。

◆能登半島地震液状化による被害の報告はなし

そして2024年1月。
能登半島地震で柏崎市は震度5強の揺れを観測しましたが、山本団地に液状化による被害の報告はありませんでした。
「住民の粘り強い交渉が、地域を救った」と喜びの声が3人のもとに届いています。

本間さん

住民の方から「いろいろあったけど、やってよかったよね」と言われて、泣きそうになりました。被災者自身が困っていることや思いを伝えていくことの大切さを感じています。

金井さん

違う場所に行かないでよかったなって、この土地にいてよかったなって思っています。

◆過去の液状化対策から学ぶべきこととは

山本団地の取り組みについて、追手門学院大学教授の田中正人さんに話を聞きました。
田中さんは住民と行政が連携して、思いをくんだ形で対策を進めることが大切だと指摘します。

田中教授

山本団地のケースでは、住民の主体性が尊重されたというところが最も評価すべきところだというふうに思います。今までの復興の過程として主流となってきたのは、行政側がトップダウンで制度ありきのもとで進めていくものでした。今後は、山本団地で実施されたような住民の主体性をいかに尊重していけるかというところが鍵になってくると思います。本来民間と公共というのは対立概念ではありません。民間の中でも「1人1人がどのような暮らし方をしたいのか」「地域の中で何をみんなで実現していきたいのか」ということの合意を図っていくプロセスっていうのは、まさに公共性そのものだと思います。そういった公共性を制度の中にきちんと織り込んでいくというような転換が、今、求められていると思います。

◆液状化被害があった地域では独自の調査も始まる

今後の地震による液状化を防ごうと、被害が大きかった西区でも新たな動きが出ています。
3月、新潟大学の卜部厚志教授は地盤改良を見据えた基礎調査を独自に行いました。

ボーリングで地層のサンプルを採取し、どの深さで液状化が引き起こされたか探ります。
地盤の強度も調べると、通常よりも軽い重さで沈む「自沈」が確認されました。
軟弱な地盤で起こる現象です。

調査の結果、被害が大きかった地域では、地震によって地下1メートルから3メートルほどの深さで液状化が起きていたことがわかりました。

卜部教授

再液状化するということを踏まえて何か地盤改良をしていかなければ、また被害に遭うんだということがわかってしまった。地域としてまとめてなんとかしていく、安全な地区にしていく、次の世代につなぐ町にしていくのが重要。できるなら対策事業をやって少しでも安全な地盤に町ごと変えていくことは、今しかできないので踏み出すべきだと思っています。

◆新潟市の液状化対策は

根本的な改善として被災地域の液状化対策が求められる中、新潟市は今後どのように動いていくのでしょうか。

新潟市は、専門家とともに地盤のデータを基に検討を進めていくことにしていて、今年度をめどにエリアごとにどのような対策ができるのかをまとめる予定です。
また、対策を実施する場合、着工までには2年以上かかる見通しです。
気になる住民負担について市は、対策によっては住民への負担が生じる可能性もあるということです。

◆災害にどう向き合う?今後の備えは

再び大きな地震が起こることも考えられる中、私たちはどのように災害と向き合っていけばいいのでしょうか。
田中教授は日頃から災害について話すことが大切だといいます。

田中教授

過去の災害の経験というのは、非常に大きな学びになると思います。今こそ、そうした過去の蓄積をみんなで分かち合っていくということが求められているのではないでしょうか。まさに今のような被災後は、日常会話の中で災害について語る場面があると思います。そのときに日常会話の中で近所と、過去の教訓であるとか、今後の備えについてのコミュニケーションを図っていけるといいのではないかと思います。

◆能登半島地震からまもなく4か月(放送時点)

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