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液状化被害 再建の課題➀ ~被災者・地域はいま 支援制度は~

  • 2024年04月26日

能登半島地震で明らかとなったのが、液状化の脅威です。県内では約9,500件の住宅被害が推定されるなど、県内に潜む液状化のリスクも浮かび上がりました。住まいの再建を阻む壁や被災地域が直面する現状とは?能登半島地震からまもなく4か月。液状化被害からの再建の課題を考えます。(NHK新潟ディレクター永井宏美)

◆県内で最も液状化の被害が大きかった新潟市西区

新潟市西区に住む、立松修さんと有美さんです。

西区に住む立松修さん有美さん

液状化によって、駐車場は隆起。
築37年の自宅は30センチ沈み込み、「大規模半壊」と判定されました。
さらに、上下水道管が破損し、トイレや水道は今も使えません。
地震翌日から避難生活を余儀なくされ、営むカフェを休業し仮住まいをしています。

立松さんの自宅 ゴルフボールを置くと転がるほど傾いていた

自宅の修理を最優先に考える中、立松さんが直面したのは想像以上の「費用負担」でした。
業者からの見積もりでは、沈下を直すための工事に約1,500万円。
さらに、外壁やアプローチなど外構修理などに約250万円かかります。
立松さんの場合、修繕で活用できる補助金は、最大でも650万円。
修さんは昨年末に定年退職したばかりで、年金暮らしの夫婦にとっては厳しい金額です。

修さん

1,800万円が住めるようになるまでの費用。
この金額を見たときがくぜんとしましたね。
合算したら新たに家を建てるのと変わらないじゃんって。

有美さんは、避難生活を続けながら、様々な生活再建の方法を模索するうち、「精神的な負担」を感じるようになったといいます。

自宅に来るたび、やりきれない思いがこみ上げるという
有美さん

いろんな書類があって、「この制度があります」、「あの制度があります」って言われるんだけど、「あなたたちは対象になりません」って言われると、気持ちが上がったり下がったりしてしまう。

修さん

新潟の場合は、周りの皆さん、普通の生活じゃないですか。
なので、その中で取り残された感じがすごくあります。

早く元の生活に戻りたいと、修理は諦め、自宅を解体して費用を抑えた家を建てることに決めました。
しかし今、新たな問題に直面しています。
上下水道の復旧に欠かせない自宅前の道路の修繕工事の日程が決まらないのです。

立松さん自宅前の道路 大きく隆起し、波打っている
修さん

道路そのものが直らないことには家を作り直す高さも決まらないし駐車場をどこの高さに作り直すかも決まらない。
来年になるのか再来年になるか…それまでどうするかが悩みの種です。

◆懸念される“地域の空洞化”

液状化被害による地域の空洞化を懸念する人もいます。
自治会の会長を務めてきた北條雄一さんです。
北條さんは地域をまわりながら、住民の困りごとなどに耳を傾けてきました。

北條さんは地域に危険な場所がないかなど見回りを行う

今月、自治会内にあった地元の人が通っていた医療機関は移転しました。
また、430世帯が所属するこの自治会では、地震後、15世帯が地域を離れたといいます。

北条さん

一生懸命ご自分で家の整備をしてここに住もうという意識を持っておられた方もいたんですけど、「やっぱりだめだね」と思って引っ越しを決心された方もいらっしゃるんですよね。
空洞化することは寂しいけれど、今のところはそれを受け止めざるを得ないかなと。

◆新潟市の支援状況は

新潟市は、公的支援を受けるため必要な「り災証明書」について、申請があった世帯の9割近くに交付を完了しています。
また、新潟市独自の支援策として、建て替えや補修の費用を補助する国の被災者生活再建支援金に市の支援金を上乗せしたほか、国や県の制度では対象にならない駐車場などの修理費用を補助することにしています。
また、道路については復旧工事のスケジュールが決まれば順次住民に示していくとしています。(4月18日時点)

◆再建の課題は?専門家に聞く

地震から4か月が経とうとする中、支援の状況や課題について追手門学院大学教授の田中正人さんに話を聞きました。
聞き手は木花牧雄アナウンサーです。

木花

4か月が経とうとしている中(放送時点)で新潟市の支援状況をどうご覧になりますか?

田中教授

支援の前提となっている被害の表れ方に注意を払う必要があると思っています。新潟県では被害が局所的に起きています。能登半島地域に比べて、被害の大きかった所と、ほぼ平常に近いような状態のところが混在してるっていう特徴があるので、被災状況も被災者も見えづらいというところに注意を払うという必要があると思います。

木花

金額的な負担に対する不安の声も聞かれています。液状化被害に対する支援の現状をどう捉えていますか?

田中教授

制度の構造的な問題なので、今すぐどこまで改善が図れるか、というと難しいかもしれませんが、被害認定と支援制度の関係性を見直すということが重要だと思っています。というのも、被災者生活再建支援法は、り災証明書の被害認定に基づいて金額が決定されます。また、金額に関わらず、その後の支援の在り方は全てそのり災証明書に基づいて決定されていくことになります。ところが、「全壊」「半壊」「大規模半壊」などの被害区分は、ある意味、非常に段階的に決められますが、被害そのものにはグラデーションがあり、その境界は非常に曖昧です。今の制度の仕組みは「元の建物がどれだけ壊れたか」を査定してそれで支援の大きさを決めていますが、。本来は「元の暮らしに戻すためにはどれだけ必要か」というふうに考えるべきではないかと思います。

木花

液状化被害は、見えにくい被害という側面もありますか?

田中教授

見えにくいというところもありますし、液状化被害は建物の沈下や傾きに加え、建物本体ではない外構などの被害も起きます。そういった事も考えますと、従来のような制度でどこまで手当てできるのかとなると、非常に難しい面があるのではないかと思っています。

◆新潟市 今後の動きは

こうした中で新潟市は、今月から市長を本部長とする復旧復興推進本部を設置し、本格的な復旧に向けて計画的に政策を進めていくことにしています。
具体的には住民への個別訪問や、住民説明会を通して、支援の手続きの方法や復旧の方針などの説明を強化していく予定です。(4月18日時点)

木花

田中さんはこうした新潟市の支援についてどのようにお感じでしょうか?

田中教授

個別に聞き取っていくことは非常に重要だと思います。そして1回限りではなくて継続的に行っていくというところが重要だと思います。といいますのも、被災地の状況は刻々と変化しますし、1人1人の生活再建のスケジュールもそれぞれ違いますので、今日思っていたことが明日も同じような気持ちであるかどうかっていうと、それは異なっていても全然不思議はありません。そういうことをきちんと押さえていこうと思うと、継続的に対話を続けていくような機会づくりはとても大事になってくると思います。

木花

こうしたことを実現する事例や参考になる例はありますか?

田中教授

行政のマンパワーには限界がありますので、全てを行政でやっていただくということにはならないと思います。過去、2004年の中越地震の時には「地域復興支援員」という非常にすぐれた制度が創設されています。行政と地域の方の橋渡しをするであるとか、地域の方の当事者の方の日々の思いとかを丁寧に汲み取っていくような役割です。そうした過去の経験にもう1度学ぶということがあってもいいのではないかと思います。

◆県内には液状化の再発防止対策を行った地域も

その取り組みはこちら

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