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産婦人科医が足りない!

執筆者小山 悠里(キャスター)
2023年10月04日 (水)

産婦人科医が足りない!

出産できる病院が、いま各地で減り続けています。

2児の母でもある私。
第2子を妊娠していた時は青森の総合病院に通いました。
驚いたのは、そもそも出産に対応する青森の産婦人科が少ないことや
そこで働く医師も少ないという状況です。

高齢出産などリスクの高い出産が増える傾向にある中で、
出産に対応した総合病院などでの産婦人科の存在はますます重要になっています。

お産に対応している県内の大学病院と総合病院

この図は、お産に対応している県内の大学病院と総合病院です。
現在、県内には10施設あります。
このうち、産科の医師の配置が少ない病院の現状を取材することにしました。

医師3人で対応 厳しい勤務

五所川原市にある「つがる総合病院」

五所川原市にある「つがる総合病院」。
青森県の西北地域でお産を取り扱う唯一の総合病院です。
病院で生まれる赤ちゃんは年間およそ300人で、常勤の医師3人が対応しています。

産科婦人科の科長を務める谷口綾亮医師

産科婦人科の科長を務める谷口綾亮医師です。
特に負担になっているのは病院近くの宿舎で夜間待機する「宅直」と呼ばれる勤務だといいます。
出産は24時間、いつあるかわかりません。
このため、医師のうち誰かが待機する必要あるのです。

谷口医師の勤務

これは谷口医師の8月5日から1週間の勤務表です。
この週の宅直勤務は日曜日、火曜日、木曜日の3回。
このうち2回は呼び出しがあり、出産に立ち会いました。
この病院では宅直の翌日も朝から外来診療に対応するなど厳しい勤務が続いています。

谷口医師
「昨日、僕が当番だったんですけど、昨日は1人(出産)ですね。2日前は3人(出産)で呼ばれていましたけど、やっぱり夜間に呼ばれることが多い診療科なのかなと思っています。3人なので1人でも倒れたりするとそこで止まってしまうところがるので、3人という体制に関しては少し辛いなと思うところがあります」

将来病院集約のおそれも

青森県でお産を巡る医療体制について検討する協議会で会長を務める弘前大学大学院の横山良仁教授は、医師の配置が少ない病院について、つがる総合病院と同じような課題を抱えているとしています。

横山医師
「不妊治療が増えて高齢出産が増えてきているとなると、ハイリスク分べんといってリスクの高いお産が増えてきている。(時間外労働を)抑えるためには(ひとつの病院で)やっぱり7人必要だ。どんどん産婦人科医を増やさないとだめなんですけど、全然足りていないのが現状」

横山医師は、働き方改革に対応するには、一つの病院で7人の産婦人科医が必要だと指摘しています。
しかし、青森県の産婦人科の医師の数は限られていて、医師の配置が少ない病院の医師の数を増やすのは難しい状況です。
このため、横山医師は現在10か所ある出産に対応した総合病院と大学病院について「将来的には、県内3か所程度に集約せざるを得なくなる可能性がある」と話しています。

出産の体制を維持していくためには、医師の負担を軽減していくことも欠かせません。
医師の業務を、医師以外の業種へ移したり、分担することも負担軽減の一つになると注目されています。
経験豊富な「助産師」の活用を進める病院を取材しました。

医師負担削減へ 助産師を活用

八戸市民病院

地域の拠点病院となっている八戸市立市民病院です。
県内で最も多い年間1000人あまりの赤ちゃんが誕生しています。

この病院では、医師ではなく助産師のチームで分べんを担当する「院内助産」と呼ばれるシステムを導入しています。

産婦人科の業務

産婦人科の業務のうち、帝王切開など医療行為の必要なお産は、医師でしか対応出来ませんが、助産師の資格があると、健診の一部や正常なお産の介助などを担えます。

院内助産では、助産師の資格を生かして、医師に代わって助産師ができることは極力助産師が行います。

妊婦にリスクが低い場合や、妊婦自身や家族の同意のある場合に利用できるこのシステム。

例えば、妊婦健診のおよそ半数を医師ではなく助産師が担います。
1回あたりの健診時間は生活指導も含めて45分ほど。
時間が限られる医師の健診より長く設定されています。

助産師と妊婦

妊娠38週時点でシステム利用していた女性 
「おなかの赤ちゃんの成長のところとか、ちゃんと順調なのかなとか、先生に見てもらえないと不安なところがあったんですけど、やっぱり何でも相談できますし、先生の診察ともまた違って、ゆっくり時間を割いてくれるのですごく安心しますね」

そして、順調に進めば、出産時は、助産師のみでお産の介助を担います。
病院には24時間医師が待機していて、必要な場合にはすぐに駆けつけて対応出来る体制をとっていて、安全性を保ちながら、今後利用を増やしたいとしています。

館合順子さん(助産師)
「自分のスキルを存分に出せるチャンスでもある。(妊婦と)濃厚な時間を過ごすことができるし、お互いの信頼関係を築き合ってお産までいけるところがある」

田中創太医師
「助産師の資格をつかってできる範囲のことで、何も無理をしているわけではない。院内助産では、何事もなければお産に立ち会うこともなく、呼ばれることもないということになるので、産婦人科医の時間外労働の削減、業務負担の軽減につながることじゃないかなと思う。産科のタスクシェア・タスクシフトがこれから進んで行ければいい」

医師→医師以外の業務へ

医師のタスク=業務をそれ以外の業種へのシフト=移したり、シェア=分担することは、「タスク・シフト/シェア」と呼ばれています。
国も医師の負担軽減策として、積極的な導入を呼びかけています。
この助産師が中心となってお産を助ける仕組みは、県内では今のところ八戸市立市民病院のみですが、導入を検討中という総合病院もあるということです。
産婦人科の医師不足は、青森だけの問題ではありません。

偏在指数地図

こちらは出産件数に対して、出産を取り扱う医師が相対的に少ないとされた地域です。
医師が少ない県として、熊本、福島、岩手、埼玉、青森などが挙げられています。
なかには地域の総合病院で出産の取り扱いをやめざるを得なくなったケースや、今後、病院の集約が避けられないおそれがあると指摘されている地域もあります。

産婦人科の医師の数を増やしていくということは、もちろん必要なのですが、医師の側からは、医療の安全を確保しながら、
「タスク・シフト/シェア」に加えて、遠隔医療など医師の負担軽減となる事例を増やしていく必要があるとの声が出ています。

加藤育民医師

日本産科婦人科学会理事 加藤育民医師
「私たちが(助産師などを)支えられるかということもしながら連携を強めたところは十分な力になるかと思う。安全性を担保できているんだと周知できるような環境を作っておいて、タスクシェアのシフトで色々変わってくるんじゃないかなと思う。遠隔医療も含めてさまざまなものを取り入れることを模索しながら、働き方も改善していくことにつながるのではないか」

取材を終えて

2人目の子どもの出産の際、青森県内の総合病院で妊婦健診を受けましたが、検査の時になかなか医師が来てくれなかったり、対応する時間が短かったことがあって、産婦人科医の数は足りているんだろうかと疑問に思ったのが、取材の出発点でした。
今回、実際に医療現場を取材すると、厳しい環境でも医師や助産師のみなさんが「安心・安全なお産にしたい」ということに強くこだわり医療を提供し続けている姿が印象に残りました。
「地元で安心して赤ちゃんを生みたい」
子どもを産み育てる世代にとって当たり前ともいえるこの願いにどのように向き合っていくのか。社会全体で考えていく必要があると感じました。

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