部活動で中学生が受け継ぐ「奈佐原文楽」
- 2023年11月14日
栃木県鹿沼市で江戸時代から受け継がれてきた「奈佐原文楽」という人形浄瑠璃に、地元の中学生たちが部活動で取り組んでいます。
10月、大勢の観客の前で見事な演技を披露しました。
(NHK宇都宮放送局キャスター 川島加奈代)
中学生が部活動で継承 地元に伝わる人形浄瑠璃
命を吹き込むように人形を操り、心情を巧みに表現する人形浄瑠璃。
演じているのは、地元の中学生たちです。
国の選択無形民俗文化財になっている「奈佐原文楽」。
鹿沼市奈佐原町で200年以上もの間継承されてきました。
奈佐原文楽を受け継ぐ活動に取り組んでいるのは、
鹿沼市立北押原中学校の創作部です。
月に2回、地域住民などでつくる「奈佐原文楽座」のメンバーに指導してもらっています。
座員たちは、中学生のうちから文楽に関心をもってもらい、将来的に担い手を増やしたいと考えています。
使っている人形は、江戸時代から受け継がれている貴重なものです。
奈佐原文楽の人形は「三人遣い」です。人形の頭と右手を操る「主遣い」、左手を操る「左遣い」、そして足を操る「足遣い」の3人が分担して操作を行います。
表情の変わらない人形に感情があるかのように見せるため、息を合わせて動きを追求します。練習を重ねるうちにだんだん連帯感を持って動かせるようになってきました。
1年生 小太刀みづきさん
みんなでひとつで動かすのも楽しいなと思います
2年生 池田真人さん
大きく動かして止まらないように動かせたらいいと思います
奈佐原文楽を通じて成長できたこと
稽古場以外でも、文楽の上達に向けて励んでいます。
たとえば、筋力トレーニング。奈佐原文楽の人形は1体10kg近くも重さがあり、腕の筋力やスタミナが欠かせません。
(上腕のあたり)ここがつらいです
けっこうきついです
教わった内容の振り返りも行います。
次回は何を目標にするか、しっかりと考えて稽古に臨んでいます。
文楽に取り組むことで、自身の成長を実感できたという生徒がいます。
部長の坪山歩夢さんです。
北押原中学校創作部 部長 坪山歩夢さん
全体としては、やる人全員が自信をもってやることが大切だと思います
創作部のメインの活動は、工作やパズルなどを自身のペースで行うことです。
坪山さんはもともと運動や音楽に苦手意識があったこともあり、創作部に入部しました。
北押原中学校創作部 部長 坪山歩夢さん
最初の頃はけっこう1人とか少人数でやっていたほうが落ち着いていたんですけど、最近になってからは結構慣れてきてみんなでやれるようになって、よく声も出せるようになってきたなと思います
稽古でも1年生の頃は受け身でしたが、だんだん自分から行動できるようになったそうです。
創作部顧問 後藤好子さん
奈佐原文楽を通して(部員たちが)地域に愛着を持って、ここの文化いいものがあるなというのを伝えられるような、そんな大人になっていってほしいと思います
コロナ禍を経て大舞台ヘ 伝統芸能のバトンをつなぐ
発表の場となる地域の祭りは新型コロナウイルスの影響で中止が続いていましたが、
10月、念願の秋まつりが開催されました。
3年生を含め、大勢の市民の前で発表するのはこれが初めてです。
本番直前まで動きを確認します。
創作部部長 坪山歩夢さん
緊張していると思うけれど、みんなでこの公演を成功させましょう。いくぞー、おー!
1時間の公演が始まりました。
演目は「傾城阿波の鳴門」。長年離れて暮らした親子が再開する場面です。
120人以上の観客を前に、全員で見事に演じきりました。
見るのは初めてです。感心しました、なかなか落ち着いていて
指導してきた座員たちも、生徒たちの公演に手ごたえを感じていました。
奈佐原文楽座 副座長 大島文雄さん
中学生がやるということで若い人たちにも地元にこういう芸能があるんだよっていうのをみていただく、やっぱりありがたいですね
2年生 中山実紅さん
本番になってみると、(継承に)携わっているんだな、その中の一人なんだなと
創作部部長 坪山歩夢さん
緊張していても大きく前の人だけではなく遠くの人とかにも見えるようにっていうのを意識してやりました。(後輩たちにも)これを続けていってほしいのと、みんなで頑張ってほしいなという思いがあります
一人ひとりが奈佐原文楽の担い手として、伝統のバトンをつないでいきます。
奈佐原文楽座のみなさんが中学生に指導を始めてから11年目になりますが、今年度は15人の1年生が新たに入部しました。人形は三人一組で扱うため、部員が多くなるとそれだけ演目の幅も広がるということです。これからも、ますますみんなで頑張っていってほしいと感じる取材でした。