浸水想定ないのに“水没” 対策迫られた足利市の4年
- 2023年11月06日
4年前の台風19号で、栃木県では県南部を中心に甚大な被害が出ました。
中でも足利市は大規模な浸水被害を受け、水害対策の見直しを迫られました。
どのように安全を確保し、命を守るのか。対策に取り組む人たちを取材しました。
(宇都宮放送局記者 齋藤貴浩)
“2度と起きてはならない”
足利市危機管理課 近藤隆久課長
台風19号によって命を落とされた方がいた。
災害で命を落とすことはもう2度と起きてはならないことだと痛感した。
私たちにとって防災行政の再出発となった出来事であることは間違いない。
足利市の危機管理行政を担う責任者が発した言葉です。
足利市にとって台風19号はこれまでの防災政策を見直し、
災害によって命を落とす人を無くしたいという思いを強くした契機だといいます。
足利市の被害状況
2019年10月に発生した台風19号で、栃木県は県南部を中心に川の氾濫や浸水など大きな被害があり、足利市でも市街地が広い範囲で浸水しました。
市内では避難途中だった車が水没し乗っていた女性1人が死亡したほか、公共施設や1000軒あまりの家屋が床上や床下浸水などの被害を受けました。
浸水想定の盲点
なぜここまで足利市で被害が大きくなったのか。
それは「想定外の場所での浸水」が関係しています。
当時、法律で浸水区域の想定を求められていたのは渡良瀬川など大きな河川のみでした。しかし、実際に氾濫したのは中小河川で、こうした川の浸水想定はなされていなかったのです。市民の中には水が押し寄せるとは知らずに車で移動していて巻き込まれたケースがあり、亡くなった女性も浸水想定域の外で水にはまり動けなくなっていました。
浸水想定外の場所で浸水した女性は
浸水想定域の外で被害を受けた住民のひとり、主婦の山本容子さんです。
当時、自宅から避難所の中学校に車で向かう途中、近くを流れる旗川からあふれた水に流されました。乗っていた車はまるで洗濯機の中にいるようにかき回され、気づくと田んぼに突っ込む形でとまっていました。
山本容子さん
とにかく怖かったです。
水の勢いがすごく、車のサイドミラーに水がかかってきたときには、「やばい」と思いパニックになりました。何をどうしたらいいかわからず、早く助けが来ないかなと思っていました。
山本さんは日頃からハザードマップを確認しており、自宅周辺が浸水想定域外であることを認識していましたが、その場所で浸水するとは思ってなかったといいます。
山本容子さん
足利の真ん中を流れる渡良瀬川の浸水想定しかハザードマップにはなく、私が住んでいるところは大丈夫だなという認識でした。自宅近くの旗川の想定はまったくなかったので、水につかると分かっていたらどこを通るか考え直していたかもしれません。
進んだ対策の見直し
台風から2年後、足利市はこのことを受けて浸水想定を見直しました。
すると従来の想定よりも広い範囲で浸水する恐れがあることがわかりました。
浸水想定を改めた結果、必要になったのが高台にある安全な避難場所です。
足利市は、台風の際に多くの市民が車で避難しようしていたことに着目し、家電量販店や商業施設など7か所と災害時には屋上駐車場へ車で避難できるようにする協定を結びました。
屋上駐車場で安全を確保できるほか、トイレも使用できるということです。
足利市危機管理課 阿部修副主幹
この近くは渡良瀬川が流れ住宅地も多い場所となっています。
いざというときには早めに避難し活用してもらいたいです。
住民に広がる防災の取り組み
一方で台風19号の被害は住民たちの意識も変えました。
4年がたちましたが足利市では住民主導の防災訓練が各地で定期的に続けられています。
10月中旬、市内の久野地区にある小学校では地域住民150人以上が集まり、地元の自治会主催の防災訓練が行われました。
避難所で使用するテントや段ボールベッド、非常食体験などが行われました。
参加した住民
いざ何かあったときのために訓練は必要と思い、参加しました。
参加した住民
さまざまな準備を行って、いつ災害が起きてもすぐ避難できるようにしたいです。
想定外をなくす
当時車で避難し被災した山本容子さん。
自宅近くにある高校も車で逃げられる避難場所になりました。
あの日の経験から、
日頃から災害への備えを怠らず、想定外の事態がないように準備をすすめたいと話します。
山本容子さん
ふだんから防災について興味を持って勉強することが大切ですよね。
たとえば避難所までどうやって安全にいけるかとか、想定できることをしっかりとやっておくことがいざというとき自分の身を守ることにつながると思いました。
防災は自分事で
毎年のように全国各地で起きる災害。栃木県でも次にいつ発生するかわかりません。いつ来るかわからない災害への備えをするのは面倒かもしれませんがぜひ、時間を作って家族で避難経路を確かめたり、備蓄を見直したり、命を守るための準備をしてほしいと思います。それが未来の自分の命を守ることにつながるはずです。この記事を読んでひとりでも行動に移していただけたら幸いです。