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富山県でパートナーシップ宣誓制度開始
杉山加奈(記者)
2023年03月01日 (水)
富山県で、3月1日から「パートナーシップ宣誓制度」が始まりました。
パートナーシップ宣誓制度とは、性的マイノリティーなどの同性カップルや事実婚の2人を、自治体が「結婚に相当する関係」であると認めるものです。
こちらが富山県で発行される受領証。
2人がパートナーであるということを自治体に宣誓すると、その証明としてこうしたカードが交付されます。
富山県の受領証には、性別違和(自己の身体の性別に違和感を持つこと)がある場合などには、戸籍などに記載されている氏名の代わりに社会生活で日常的に使用している通称を記載できます。
また、双方または一方と生計を同一にする未成年の子ども(実子または養子)がいる場合、その子どもとの関係性を確認できる住民票の写しや戸籍謄本の写しを提出することで、受領証に子どもの名前を記載できます。
全国でどのくらい導入されている?
渋谷区とNPO「虹色ダイバーシティ」が行った調査によりますと、すでに全国255の自治体にこうした制度があり、青森県や茨城県、東京都など10の都府県では全体で導入されています。
富山県ではこれまで市町村レベルでも導入されていませんでしたが、都道府県全体では同じく3月1日に始まった静岡県と並んで11番目の導入となります。
この「パートナーシップ宣誓制度」ができると、具体的に何が変わるのでしょうか。
パートナーシップ宣誓制度で何ができる?
医療
制度が導入されると、対象が親族に限定されていた行政サービスなどの一部を同性カップルも利用できるようになります。
そのひとつが医療です。
例えば、同性パートナーが意識不明で救急搬送された時。
病院によりますと「パートナーシップ宣誓制度の受領証があれば、これまで確認しにくかった同性パートナーの存在が分かり病院から連絡しやすくなる」といいます。
富山県立中央病院の医師「パートナーシップによるカードを持っていることによって患者さんのキーパーソンがこの人であるということを、私たちはすぐ認識できる。患者さんにとってもすばやく治療ができるという点で非常にいい制度だと思います」
2023年2月28日時点でパートナーシップ宣誓制度を利用できる事業者・団体です。(県ホームページより)
富山市:富山県立中央病院、 富山県リハビリテーション病院・子ども支援センター、富山市民病院、富山まちなか病院、国立大学法人富山大学付属病院
高岡市:高岡市民病院
射水市:射水市民病院
黒部市:黒部市民病院
砺波市:市立砺波総合病院
上市町:かみいち総合病院
朝日町:あさひ総合病院
金融機関
金融機関では、夫婦や親子などで連帯して債務を負う住宅ローンを同性カップルでも利用できるようにする動きが広がっています。
北陸銀行でも2021年から同性カップルに対象を拡大しました。
北陸銀行では、これまで同性カップルが利用する際には関係性を住民票などで確認できないため、3種類の公正証書の提出が必要でした。
パートナーシップ宣誓制度を利用すれば、「受領証」1つで済むようになります。
2023年2月28日時点でパートナーシップ宣誓制度を利用できる事業者・団体です。(県ホームページより)
富山銀行、北陸銀行、北陸ろうきん
公営住宅
これまでは原則「親族どうし」の入居が条件になっていた公営住宅の利用も可能になります。
2023年2月28日時点で公営住宅でパートナーシップ宣誓制度を利用できる自治体です。(県ホームページより)
富山県、高岡市、射水市、魚津市、氷見市、滑川市、黒部市、砺波市、小矢部市、南砺市、上市町、立山町、入善町、朝日町
このほかにも民間企業では、生命保険の受取人に同性パートナーを指定できるようになるなどの広がりもあります。
このパートナーシップ宣誓制度、県内に住む性的マイノリティーの当事者はどのように受け止めているのか取材しました。
当事者の受け止めは
富山県で性的マイノリティーの支援団体を運営するさわさんです。
男性が恋愛対象であるさわさん。
孤立しがちな当事者の交流会を開いたり、パートナーシップ宣誓制度の導入を求める要望を県に提出したりしています。
こうした活動が実り、県は2021年、制度を導入する方針を初めて表明しました。
横田副知事答弁2021年12月2日
「誰もが互いの多様性を認め合い、性的マイノリティーの方々などが安心して生活し活躍できる社会の実現を目指し制度の導入に向けた検討を進めてまいります」
こうした動きについてさわさんは、「自分の存在が認められる安心感」が持てたといいます。
「自分が暮らしている自治体から自分たちの存在を認めてもらえる、ちゃんと性的マイノリティーの人たちのことも見てくれているというのを感じられる、そういった意味もあるのかな。やっと富山もここまで来たなという感じで嬉しく思いました」
さわさんが、性的マイノリティーの当事者を対象に、パートナーシップ宣誓制度について聞いたアンケートです。
「2人の関係が周りの人たちから祝福されることはとても幸せなことだ」
「とてもうれしい。性にかかわらずだれもが平等に好きな人と関係性をもてる世の中になってほしい」
期待の声が多く集まりました。
さわさんは、制度の導入をきっかけに多様な性があることへの理解を深めてほしいと考えています。
「カップルで宣誓しに来るときにちゃんと不安なく宣誓できるように個人情報を守ってもらえるかや、対応する自治体職員などが性の多様性についてちゃんと理解してくれているかも大切だと思います。今後も性の多様性について周知啓発していただけたらと思います」。
横田副知事「やはりこの件は人権に関わる話であります。生きづらさの解消や日常の不便を少しでも解消することに資するものにしていきたいと思っています」
制度が人権を守るメッセージに
性的マイノリティーに関する政策に詳しい富山大学の林夏生准教授はパートナーシップ宣誓制度を導入するメリットは3つあると話しています。
① 「性的マイノリティーの人を差別しない」というメッセージの発信になる
② 安心して暮らせることで性的マイノリティーの「心理的安全性」が高まる
③ 制度があることで「選ばれる街」になる
林准教授によると、制度のない街からある街へ引っ越す動きも出てきているということです。
導入されるなら富山県に残ろうという人もいるのではないかと話しています。
できるだけ多くの場面で利用可能に
また、できるだけ多くの場面で制度を利用できるようにすることが必要だと指摘します。
すでに導入されている自治体の多くは、公営住宅や公立病院での利用にとどまっています。
林准教授は「同性カップルが利用できない行政サービスなどはまだ多いので、さらに利用できる範囲を広げるべきだ」と指摘しています。
「重要性が高いと思うのは、災害や犯罪の被害に巻き込まれたときに支援のために出される給付金。異性カップルであろうと同性カップルであろうと支えていこうというのは誰も取り残さない社会をつくろうとする自治体においてとても重要だと思います。その権利の認められ方にはまだずいぶん開きがあるというのが現状です」
パートナーが災害で亡くなったときに、災害弔慰金が支給される制度があります。
ただ支給を定める法律の解釈では同性カップルに支給されません。
そこで世田谷区は、区独自の予算で同性カップルにも災害弔慰金を支給する新しい制度を2022年から始めました。
また、犯罪の被害者に支給される給付金についても、大阪市や札幌市は独自の制度を設けて同性カップルも支給対象にしています。
このように、自治体はパートナーシップ宣誓制度を設けるだけではなく、さらに一歩踏み込んで同性カップルが平等に扱われるように支援する必要があります。
今後、富山県の制度がどのように運用されるのか、引き続き取材します。