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92歳が集めた瀬戸内・直島の貴重な記録 アーティストが展示

  • 2023年11月16日
92歳が集めた島の記録 アーティストが着目

瀬戸内海に浮かぶアートの島・直島。ここで生まれ育った92歳のおじいちゃんが、40年にもわたって島の記録を集め続けていました。資料館にもないような貴重な記録にアーティストが着目。島の小さなギャラリーで展示が行われています。おじいちゃんの取り組みから伝えたいこととは。
(高松放送局記者 竹内一帆)
※展示会は2023年12月16日まで

小さなギャラリーで展示「田中春樹さん」

直島(宮浦)にあるギャラリー

直島の港近くの集落の一角にひっそりとたたずむ小さなギャラリー。そこで開かれている展示会の名は「直島人物図鑑02田中春樹さん」。記録を集めてきた92歳のおじいちゃん、田中春樹さん自身を題材にしたユニークな展示です。

スクラップブックは手に取って読むことができる

真っ先に目に入るのは、壁一面に展示されたスクラップブック。直島に関する新聞記事だけを田中さんがコツコツ切り抜いて貼り付けてきたもので、昭和58年からことし8月まで、実に40年分の記事がこの17冊におさめられています。開くと、その中には色あせた数々の新聞記事が。かつての島の人々の暮らしや出来事などをうかがい知ることができます。

この展示を企画したのは、直島に住むアーティスト、下道基行さんです。ひとりの島民が人知れず集め続けてきた島の記録の蓄積に、アーティストの視点で着目しました。

下道さん

地域のひとりのおじいさんがずっとやってきたことが、その地域の情報として蓄積されて活用できる。40年ほど昔のことまで、いろんな人が自分の記憶でたどれる可能性が開かれているから面白いと思った。

この展示会の主役、92歳の田中春樹さんです。展示されているのは、今となっては貴重な資料ばかりですが、本人は特別な目的があって収集を続けてきたわけではないと話します。

田中さん

別に集めようと思ったんじゃなくて、自然にこうなったのかなと思うとるよ。展示されるのも『やってくれるんだったら、やってたらええよ』ぐらいなもんでな。

アートと産業の両面を知る生き字引

製錬所で働いた当時の田中春樹さん

戦争のさなか学徒動員で直島の製錬所で働き始め、島の主要産業の現場で働いてきた田中さん。定年を迎えるまで島の移り変わりを見つめてきました。定年退職後も、アート作品の制作に協力したり、ボランティアで観光ガイドを務めたりするなどして、島の観光を支えてきました。島の主要産業とアートの両面に関わってきた田中さんを、直島の両面を知る豊富な知識や経験を持つ人物だとして、アーティストの下道さんは注目しました。

下道さん

例えば昔の直島の『こういうことはどうだった?』と聞くと、『あ、それはな』って出てくる。こっちがキーワードだったり、ワードを持って投げ込めば、いろんなものが出てくる。90歳超えてるとは思えないぐらい、本当に生き字引で、直島の辞書的な人だと思う。

貴重な記録を生かすために

島民による各活動がバインダーごとにまとめられている

田中さんが集めた記録は、別の展示にも生かされています。隣の部屋で開かれている「瀬戸内「直島部活史」資料館」という展示です。コーラスやダンス、俳句など島民によるサークル活動が活発な直島。戦後から現在までおよそ160に上る活動が紹介されていますが、高度成長期までの古い歴史を詳細に知ることができたのは、田中さんが集めた記録のおかげだったといいます。

下道さん

田中春樹さんの納屋というか倉庫みたいなところを見ていた時に、戦後間もなくからの三菱の直島の製錬所の広報誌が全部出てきて、開いていったら部活動だらけだった。直島のビッグデータを手にしてしまったみたいな感じだった。

島の歴史がつまった貴重な記録をより多くの人に知ってもらいたいと考えた下道さん。多くの島民が集まる地域のイベントでポスターを掲げて、田中さんの展示を紹介しました。下道さんは、より多くの島民に親しまれ、記録が生かされるアート空間を目指しています。

下道さん

直島にずっと住んでる人たちの当たり前のことの中から、『いやいやすごく面白いんだよ』といういうことを見せられるといいなと思っている。この土地だからこそ生まれてきた環境とか歴史とか風土みたいなものがあって、それは特別ですごく素敵なことなのではないかというものを提示して、見てもらえたらいいなと思う。

  • 竹内一帆

    高松放送局記者

    竹内一帆

    2015年入局
    高松では経済・交通など幅広く取材。登山とうどん店めぐりが趣味で、去年の瀬戸内国際芸術祭の取材を担当した。

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