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香川県三豊市の「岡本焼」 伝統を1人で守り継ぐ職人

  • 2023年12月25日
守り継ぐ職人 伝統の岡本焼

三豊市豊中町の岡本地区に伝わってきた「岡本焼」。県の伝統的工芸品にも指定され、地域の人々の暮らしに根づいてきました。いま、その伝統は1人の職人の手で守られています。この冬臨んだこれまでの人生の集大成となる作品作りを支えたのは周囲の人との絆でした。

岡本焼を守り継ぐ職人

岡本焼は三豊市豊中町の岡本地区でとれる土を使った陶器で、土本来の素朴な色合いが特徴です。明治末期から昭和初期にかけて最盛期を迎えましたが、その後生活習慣の変化などで需要が減少。いまでは岡本焼の職人は1人しか残っていません。
 

たった1人の岡本焼の職人 大西修治さん(75)です。
陶器を販売する仕事を通じて岡本焼の魅力に惹かれ、約30年前に岡本焼を作り始めました。

大西さん

さみしいですよね。後世のために残していかないといけない。岡本焼を広めてみんなに作って欲しい。

岡本焼を広めたいと始めたうどん屋で生まれたつながり

岡本焼を多くの人に知ってほしいと大西さんは3年前に工房の隣にうどん屋をオープンしました。器はすべて岡本焼。うどんを食べながら気軽に岡本焼に触れてもらうことで、魅力を感じてほしいといいます。

この店を毎週必ず訪れる男性がいます。徳島県から通う下岡邦敏さんです。2年前、下岡さんは家族関係の悩みを抱え、どん底の状態まで気持ちが落ち込んでいたといいます。この店を訪れた下岡さんの曇った表情を見て、大西さんが親身に話を聞いてくれました。
 

下岡さん

お前心配あるんちゃうかと。つらいことがあるんだったらいつでも来いよと。いつでも来ていつでも好きなときに帰ればいいということばをかけてくれたんですよね。人のつながりの大切さを僕はその時に教えてもらった。自分が救われたわけです。

2年間で作りためた約1500個の作品を窯に並べていく

大西さんは8年前にがんをわずらい、体力の限界を感じるようになりました。窯に火を入れるのは2年に1回。今回が最後になるかもしれないという思いで制作に臨みます。

大西さん

今までにないくらい日にちをかけて作品の並べ方を考えた。これが集大成だから思い残すことがないように命懸けで焼いていく。

仲間に支えられながら1週間焼き上げる

仲間と一緒に窯に火をつける

今回は大西さん1人ではありません。
火入れの日には、下岡さんなどうどん屋の常連客や近所の友人などが集まりました。

大西さんは自然な焼き色を出すために釉薬を使わないことにこだわっています。釉薬を使わなくても、登り窯で高温で焼き上げることで、作品に付着したまきの灰が溶け込み、表面に美しい光沢が生まれます。

作品に光沢を出すには窯の内部の温度を1200度以上に保ち続ける必要があるといいます。そのために1週間24時間休まずにまきを入れ続けなければなりません。

大西さんの力になりたいと、下岡さんは毎日窯を訪れました。まきを運んだり窯に入れたりして大西さんを支えます。
 

焼き上がったのは過去最高の作品

1週間作品を焼き上げた後、大西さんが窯を開けると、表面に光沢が現れる大西さんが理想とする岡本焼が出来上がっていました。

手伝ってくれた下岡さんたちとともに喜びを分かち合います。

大西さん

みんなの協力があってできたことなんですけど。焼いてみたらまた焼きたいなっていう気持ちが必ず湧いてくるんですよ。あとちょっと挑戦したい。

大西さんが守り継いできた岡本焼の火は、これからも消えずに燃え続けます。

香川県の伝統的工芸品は37品目ありますが、県によりますと少なくともその半数以上が後継者不足に悩まされているということです。いま、大西さんに後を継ぐ人はいませんが、興味を持ってくれる人がいれば岡本焼の作り方を教えたいということです。
大西さんが作る岡本焼は三豊市財田町にある大西さんの工房で購入できます。


「ギャラリーとよなか」
三豊市財田町財田上7239-13
0875-67-4300

  • 北村拓也

    NHK高松 カメラマン

    北村拓也

    松江放送局→2021年から高松放送局。
    岡本焼のマグカップで毎朝コーヒーを飲んでいます。

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