橋の点検ができない!?技術者不足にリスキリングとAIで挑む
- 2023年11月07日
「通行止」そんな看板がかけられた橋をみかけたことはありませんか?
老朽化で危険になったこうしたインフラは今後増えていくとみられます。
一方で、その点検にあたる技術者は今後不足することが見込まれ、大きな課題になっています。技術者不足の中、私たちの命に関わるインフラをいかにして維持していくのか。
“リスキリング”や“AI技術”で乗り越えようと模索する香川県内の現場を取材しました。
急増する老朽化橋
老朽化で危険だというその橋は、高松市香川町の山の中にありました。
橋を支える橋脚の部分が、川の水の流れによって削られ、一部が浮いている状態に。崩落のおそれがあるため通行止めになっています。
建設から50年以上がたつこうした古い橋は全国にある橋の4割を占めています。
これが今後急速に増え10年後には6割程度になるといわれていて、老朽化する橋をどう維持管理していくかが課題となっています。
橋を管理する自治体などには、5年に1度の点検が義務づけられています。そのきっかけは、平成24年に起きた山梨県の笹子トンネルでの事故でした。天井板が138メートルにわたって崩落し、9人が死亡。これを受けて全国でトンネルや橋などといったインフラの老朽化対策が進められることになったのです。
なぜ橋は劣化するのか
そもそも古くなった橋は、どのようにして劣化するのか。橋の点検に詳しい香川高専の林和彦准教授のもとを訪ねました。
林准教授は、コンクリート内の鉄筋が原因のひとつだと指摘したうえで、2種類の鉄の棒を見せてくれました。どの箇所も同じ太さの棒と、一部が大きく膨張した棒。劣化してコンクリート橋の崩落につながりかねないのは後者です。
鉄は水や塩分が侵入することでさびることがあり、それによって直径が倍ほどにまで膨張するといいます。さびて膨張した鉄がコンクリートを押し出すことでひびわれにつながり、最終的には崩落。これが橋の劣化のメカニズムです。
こうなってしまう前に、しっかりと点検をしていち早く変化を察知する必要があるのです。
橋が仮に壊れたら人の命や財産が失われるなど非常に社会的にインパクトがありますから、きちんとスキルをもった人が点検することが必要です。
点検など担う「技術士」不足も
橋の安全を維持し続けるためは、点検だけでなく修繕も必要です。
自治体が管理する香川県内の橋のうち、およそ7割は何らかの修繕が求められるとされています。しかし、点検や修繕などを担う技術者の数が、今後さらに不足していくと懸念されています。四国地方整備局の山﨑太志 道路保全企画官は、自治体での3つの不足を指摘しています。
地方自治体の課題としましては老朽化対策を実施する上で、予算の不足、人材不足、技術力の不足が課題となっております。全国的には市区町村では橋の管理に携わる土木技術者がいない自治体もあります。
リスキリングで人材確保へ
橋の点検ができる技術者を少しでも増やそうと行われているのが、自治体の職員や民間の技術者を対象にした講習会です。
こちらはコンクリートの中のひび割れを探し出す講座。
特殊な棒をコンクリートの表面に当て、聞こえた音を頼りにコンクリートの中の異常を判断します。正常な場所と異常がある場所とでは、わずかに音の違いがあります。
点検を担う技術者には、さまざまな器具を使い分けながら、わずかな音の違いで内部の異常を察知できることが求められます。講習会では、こうしたスキルを持つ技術者を増やそうとしています。
自分の通勤している会社でも橋りょう点検できる人は少ない。
橋りょう点検業務がふえてきていますし、業務を実施するにあたって、何も知識ないのはだめだなと思ってスキルアップのために受講しました。
土木技術者がいま非常に不足していますし、とにかく橋の数はたくさんあるので、とにかく維持管理、点検はまったなしの状態になっています。自治体の方とかいろんな技術者の方に受けていただいて、はじめの重要なところ勘どころを学んでいただくと、いいボトムアップを狙っています。
AIの技術で劣化を予測
技術者の数が限られる中、優先して点検する必要がある橋を見つけ出そうという取り組みも進められています。そこで活躍するのはAI技術です。
この研究に取り組んでいる香川大学の岡﨑慎一郎准教授のもとを訪ねました。
岡﨑准教授は四国4県にある国管理の橋で行われた点検の結果を集約。そして、橋がこれまでにどう劣化していたかをAIに学習させ、40年後までにどうなっているかシミューレーションしました。
その結果の一例として見せてくれたのが、こちらのグラフ。
雨量との関係で橋がどの程度劣化するかを示したものです。最も多く雨が降る場所の橋が劣化しやすいと思いがちですが、より劣化が激しいとされたのは、年間2000ミリ程度の雨が降る場所でした。
ものすごく雨が降る地域っていうのは意外とコンクリート橋りょうにダメージを与えていなくて、意外と雨が降ったりやんで乾燥したりっていうのを繰り返すと、コンクリート橋梁がすごく悪くなるような傾向にあるという一例がこれによって示されている。
一方こちらは、海岸線からの距離との関係を予測した図です。
海に近いほど劣化しやすい印象がありますが、最も劣化が進むことを示す「赤」で判定されたのは、海岸から2~3キロ程度離れた場所でした。
岡﨑准教授によると、海のすぐ近くにはあらかじめ塩害対策がされた橋が多い一方、少し離れた場所では、そうではないことが理由だといいます。
岡﨑准教授は、こうした予測をもとに集中的に点検にあたることで、限られた技術者のもとで効率的に対応できると期待を寄せています。
本当にたくさんあるインフラを全部面倒見きれないという状況になると想定しています。どういう環境だとどのスピードで劣化していて、どのタイミングで補修が必要かという知識をアシストするような位置づけができれば、今技術者が減ってきても、なんとか対応ができるのではないかと考えています。
このAI技術を使った橋の劣化を予測するシステムについて、大学では実際の現場での活用に向けて兵庫県の企業と一緒に改良を進めていくことにしています。
一方、橋の技術者の不足に対応していこうと、国も対策に乗り出しています。
自治体の職員を対象にした橋の点検などの方法を学ぶ研修会を定期的に開いたり、省人化につながるドローン技術などの活用を促したりしています。
私たちの命にも直結するインフラ点検を続けていくために、技術者不足という課題をいかにして乗り越えるのか。官民あげての模索が続いています。