ページの本文へ

かがわWEB特集

  1. NHK高松
  2. かがわWEB特集
  3. 香川の職人とアーティストがコラボ 地場産業の未来は

香川の職人とアーティストがコラボ 地場産業の未来は

  • 2023年11月22日
職人xアーティスト

職人の知られざる技術力をアーティストの斬新なアイデアで魅せるイベント「SANUKI ReMIX」。売れっ子CMディレクターが丸亀うちわをカラフルに彩ったかと思えば、寿司桶などで知られる「桶」をプロダクトデザイナーが「ソファー」にしてみたり…。これまで、職人とアーティストのコラボによって、地場産業の新たな一面を届けてきました。3回目となった今回、職人の技術力はどのようにして表現されたのでしょうか。(高松放送局 楠谷遼)

玉藻公園に登場!巨大な“缶詰”

秋だというのに汗ばむような陽気となった11月上旬。高松市の玉藻公園に円柱状の巨大な物体が登場しました。
実はこれ、缶詰をモチーフにしたブース。中には職人の感性がぎっちりと詰まっているというんです。それを感じ取ろうと、ひとつずつのぞいてみました。

庵治石をプロジェクションマッピングで

まずは、庵治石のブース。庵治石といえば主に墓石に使われる高級石材で、高松市の庵治町や牟礼町で採れます。

入り口の黒い幕をくぐってブースの中に入ると、そこは暗闇。入り口近くのオブジェにライトで庵治石の地肌が映し出されていました。

これは、プロジェクションマッピングを得意とするアーティストが庵治石職人とコラボした展示。庵治石を切って、磨いて、加工していく工程をCGでダイナミックに表現しています。

ブース内に置かれた石灯篭に特殊なライトをあてると、繊細に加工されている部分が緑色に光るという展示も。ふだん何気なく見過ごしがちな石灯篭がいかに細かく加工されているか、確認する手がかりになりそうです。

“あふれんばかりの職人技は缶詰に収まりきらない!”ということで、展示はブースの外にも。

そのうちの一つ滑り台は、滑る面が庵治石で作られています。職人技で磨いていけば、非常につるつるする庵治石の特性を感じ取ってもらおうというものです。

また、密度があってずしりと重いという特性を感じられるシーソーも置かれていました。

庵治石を加工して製品にするための技術力は一朝一夕に身につくものではありません。この展示に関わった職人の古市朋之さんに、庵治石を加工する際の難しさを教えてもらいました。

庵治石の加工職人 古市朋之さん 

庵治石の中でも、とれる時期だったりとれる場所が少し違うだけで多少の硬さの違いがあります。それにあわせて研磨をしていくところでかなり熟練の職人の勘が必要ですね。また、庵治石はすごく傷が多い石なんですが、外からみて傷がはっきりわかるものではないんですね。山からとれた石を見て、この辺に傷があるのではないかというのを長年の勘で見分けながら、気を遣って作業しています。

香川の最中種職人×パティシエ

会場には、香川の「食」をテーマにしたブースも。展示されていたのは、今回のために開発された最中です。讃岐富士をモチーフに香川県産のもち米で作った最中の皮に、アーモンドスライスに絡めたキャラメルソースを流し込んでフロランタン風に。香川の最中種職人・髙尾淳平さんと国内外で活躍するパティシエ・辻口博啓さんがコラボしました。

実際に食べてみると、最中の皮の食感はサックサク!さらに、キャラメルソースの香りと隠し味のオレンジの風味が一気に口の中に広がりました。

この最中の皮はどうやって作られているのか、高松市内にある工場に行ってみました。

原料は県産のもち米。これを粉にした後、餅状にして金属製の型に入れていきます。これを加熱していくと、餅が型の形になって最中の皮の完成です。

餅を型に入れていく作業自体は、そう難しくないようにも見えますが、ここにも職人技がつまっています。もち米が収穫されてからの時間やその日の気温や湿気によって、素材となる餅の状態が全く異なるものになってしまうからです。あのサクサクとした食感の最中の皮をいつも作りだすためには、長年の経験からその日の状態を見極めて、火加減などを微妙に調節しなければいけないといいます。

「調整とは具体的にどういうことですか?」と聞くと、職人の髙尾さんは「こればっかりは勘としかいいようがなくて、言語化できなくて申し訳ないです」と苦笑い。ことばでは表現できない絶妙の感覚というところに、職人技を感じました。

讃岐うどんを高精細カメラで

うどん県・香川県ならではのブースもありました。讃岐うどんの展示です。

ブース内に何本もの柱が立てられ、その側面にゆでたてのうどんを撮影した細長い写真が。県内の5つのうどん店で、高性能カメラを使って麺を撮影したということなんです。一見同じように見える麺も、店によって微妙に違うことを知ることができ、そこにこめたうどん職人のこだわりを感じ取れることができるといいます。

ピンク色の空間に漆器と手袋

ピンク色を基調にした華やかなブースで展示されていたのは、香川漆器と手袋です。全国的な知名度はあまり高くないかもしれませんが、香川漆器は国の伝統的工芸品に指定され、手袋は日本一の生産量を誇るなど、香川県の主要な地場産業のひとつです。

ブースの中央には職人が長年使ってきた道具が置かれ、その周りに製作の様子を工程ごとにとらえた写真が展示されています。順番に眺めていくと、職人の思いを感じながら製品がどのようにして作られていくかを知ることができる仕掛けになっています。

さらに、天井からつり下げられているのは「だだっ」とか「とっとっと」などといった文字のパネル。漫画のように音を文字で表現するいわゆる「オノマトペ」で、製品を加工する際の音を再現しています。

仕掛け人に聞く イベントのねらい

3回目となった「SANUKI ReMIX」。イベントの仕掛け人で、総合プロデューサーの村上モリローさんに、改めてねらいを語ってもらいました。

総合プロデューサー 村上モリローさん

“職人フェス”ということで香川県の職人をとことん盛り上げるためにクリエーターが集まって盛り上げるイベントです。職人さんは優れた技術を持っていてそれを追求しているのですが、口下手な方が多くそれが十分知られていません。このイベントで、職人さんの技術の翻訳ができれば、もっとたくさんの方に職人さんの素晴らしさを知っていただけることができるのではないかなと。もっと身近な存在だと感じていただきたいです。

取材後記

初回から毎回取材してきた「SANUKI ReMIX」も今回が3回目。職人の技術力をアピールしようとしてきた背景には、後継者不足など香川の地場産業が置かれている厳しい現状があります。今回、職人に現状を聞いたところ、職人を志す若い人が出てくるなど明るい兆しはあるものの、それを職業として続けていけるだけの収入を得ることができるのは一部にとどまっているということでした。

大量生産品が安価で市場に出回る中、あえて地場産業の製品を購入してもらうためには、職人の技術力や製品作りにかける思いを消費者に付加価値として感じてもらうことが、これまで以上に重要になっていると感じました。「SANUKI ReMIX」のような取り組みを通じて、香川の職人の魅力がもっと広く伝わっていくことを期待して、今後も取材を続けていきたいと思います。

  • 楠谷 遼

    高松放送局 ニュースデスク

    楠谷 遼

    2008年入局 鳥取局、経済部を経て、2021年秋から故郷の香川県で勤務。ニュースデスクのかたわら、地域活性化の取り組みなどを取材。

ページトップに戻る