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「米と水」の恵みのまち・香川県綾川町 防災のヒントを探る

  • 2023年07月07日

 

とち知り 香川の米どころ 綾川町
2023年7月7日放送

香川の米どころとして知られる綾川町。田んぼに注がれる水は、町の名前にもなっている綾川から引かれています。美しい田園風景が広がるこの土地は、実は綾川の氾濫によってできたもの。今回は「米」と「水」をテーマに防災の注意点を探ります。

「米どころ」綾川町 恵みの水を生かす

地形や地質のスペシャリスト・香川大学の長谷川修一特任教授と訪れたのは、見渡すかぎりの田んぼ。綾川町は古くからの米どころとして知られています。すでに田植えが終わり、美しい田園風景が広がっていました。

収穫された米を使ってつくる「綾川の恵み」を求めて地元の酒蔵を訪れると、蔵の中には井戸が。
いまも日本酒の仕込みに、井戸水が使われています。

 

綾菊酒造
岸本さん

酒造りで一番大事なのは水。酒造りに適した水を使っています。

長谷川さん

これは綾川の恵みですね。

綾菊酒造
岸本さん

もう何がなくても大切な我々の水です。

綾川町でとれた米と水が出会って生まれる日本酒。
この「米」と「水」が、今回の防災のキーワードです。

綾川の氾濫がおいしい米を生む!?

町の名前にもなっている綾川は県内で最も長い2級河川で、まわりには川から水を引いた水田が広がります。 

綾川町の地形を種類ごとに色分けした地図でみてみると、町の南にある綾川の上流側は薄い水色の表示に。この色は川の氾濫で作られた土地であることをあらわしています。
直近の氾濫で大きな被害が出たのは平成16年の台風23号。複数の場所で堤防が決壊し、その周囲で浸水被害が発生しました。 

被害にあった松本文男さんに当時の状況を振り返ってもらいました。綾川沿いにある松本さんの自宅は1メートル以上の高さまで浸水。80年以上住んでいてこれまで経験したことがないくらいの被害だったといいます。

決壊したのは、松本さんの家のすぐ裏の堤防でした。ただ、堤防に生えていた大きな木が災害の前触れを知らせていたと振り返ります。

松本さん

この木が揺れたから(堤防が)切れるかも分からんぞって。

五味

その木があったから予兆がわかった?

松本さん

そうそう。それがなかったら、ぜんぜんわからんな。

決壊したのは、田んぼに水を引くための「せき」がある場所でした。 
長谷川特任教授は、「せき」は川の水をせき止めているため、より注意が必要だと指摘します。

長谷川さん

「せき」があるところは、上流と下流とで水位の差があり、どうしても上流側の水位が高くなりあふれやすいんです。
ただ、「せき」は農業に欠かせないですよね。ここで水を引いて下流に流しているのと同じように、下流が浸水するリスクがあります。水の利用と水の災害は「表裏一体」であることを示してくれていると思います。

ここで綾川町のハザードマップを確認してみます。平成16年の台風23号で実際に浸水したエリアは薄い緑色の斜線で囲まれています。場所によっては、赤色やオレンジ色で塗られている浸水の想定よりも、その範囲が広くなっているところもありました。

長谷川さん

ハザードマップであらわれてない浸水エリアがあります。ハザードマップはあくまでも本流の氾濫で、支流の氾濫までは描いていないことが多いので、そうしたところでは過去の経験や地形の特徴をよく知っておくことが大事だと思います。

台地のなかの谷に水が集まる

次に注目するのは、国道32号線が通り、町役場や滝宮天満宮があるエリア。
地形の種類を示した先ほどの地図でみると茶色の表示で、これは「台地」であることをあらわしています。
長谷川特任教授は、土地が高く川からの氾濫のリスクは小さい場所だとしつつも、気をつけなくてはならないところがあると指摘しました。

そこで訪れたのは、綾川町萱原にある農業用のため池「大羽茂池」です。
台地の上には川が通らず水が不足しがちで、こうしたため池が谷をふさぐようにして何か所も作られています。台地は川の氾濫によるリスクは少ないものの、ため池の決壊による浸水リスクがあるというのです。 

複数のため池が同時に決壊したケースを想定したハザードマップをみてみます。浸水想定域を示す青色のエリアは国道を越えた範囲まで広がっていて、その中には町役場や大型の商業施設も含まれています。

町内の別のため池では、平成30年の西日本豪雨の際に堤防が地すべりし、近くに住む14世帯42人に避難指示が出されたことも。長谷川特任教授は、ハザードマップで分かる土地の高低差に注目してほしいと話します。

長谷川さん

ふだん雨が降った時もため池のある谷沿いに水が集まってくることで、谷ぞいの低い道路というのは周りと比べて浸水しやすくなっています。つまり、運転するときに注意する必要がある区間といえます。ため池のハザードマップは、ため池そのものの氾濫リスクだけでなく、大雨のときに浸水しやすい場所も示してくれているわけです。

「米」と「水」をテーマにめぐってきた今回の「とち知り」。長谷川特任教授にポイントをまとめてもらいました。

長谷川特任教授
綾川の上流にあたる旧綾上町と、その下流にあたる旧綾南町では災害特性が違います。旧綾上町は綾川の氾濫原ですから綾川の氾濫を受ける土地。一方、旧綾南町にある台地は、大雨が降ったときに谷沿いに水が集まってくるため、浸水しやすいところが至る所にあるというのが特徴です。恵みを受けている裏には災害のリスクもあるということを意識して、地域を見てもらえたらと思います。 

五味アナウンサーのひとこと
綾川の水が米を育み、その米が再び水と出会って日本酒が生まれる…豊かな恵みの裏に、災害と切り離せない土地の歴史がありました。台地のなかのため池は「谷」の場所を教えてくれているというのが、今回新たに知ったポイントです。まち歩きとハザードマップから学べることは本当にたくさん。「とち知り」を参考に、皆さんも身近な場所を再発見してみてください。

  • 五味哲太

    高松放送局アナウンサー

    五味哲太

    2020年から「ゆう6かがわ」のキャスターを担当

  • 藤松俊太郎

    高松放送局記者

    藤松俊太郎

    2021年入局
    警察や司法取材を担当
    香川ではじめて食べたうどんはカレーうどん

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