子どもたちは夢中で遊ぶ経験を通して「諦めない心」や「協調性」を育むといわれています。これらは「生きる力」「非認知能力」とも呼ばれ、AI時代でますます大切になると世界中で注目されています。子どもたちが夢中で遊ぶためのヒントを、専門家と一緒に考えます。

専門家:
大豆生田啓友(玉川大学 教授/乳幼児教育学)

今回のテーマについて

非認知能力は、思いきり遊ぶ中で育つ

大豆生田啓友さん

子どもが夢中で遊ぶ、遊び込むとき、うまくいかないことがあったとしても、そこに興味があれば「どうやったらできるか」自分で考えて、試行錯誤する側面があります。諦めずに「やり抜く力」や、自分はできると感じる「自己肯定感」、そういった生きる力の基礎となる「非認知能力」は、思いきり遊ぶ中で育つといわれています。


夢中で遊ぶには、どんなことをしたらいい?

どうしたら子どもは夢中になって遊ぶのでしょうか。横浜市のある保育園の様子を見ながら、夢中で遊ぶためのヒントを探ります。

夢中で遊ぶためのヒント

5歳児クラスの散歩では、ただ歩くだけでなく、子どもたちの五感を通した発見を大事にしています。

偶然の発見を大事にする

この日、散歩の途中で水たまりの水の温かさに気づいた子がいました。保育士は「温かいの? ちょっと触ってみよう」と言って、子どもの自然な興味の中に保育士も参加します。一緒に水を触ったり、靴で水たまりに入ったりした子もいました。手や靴は後で洗えば大丈夫です。

子どもたちに「どうして温かいと思う?」と尋ねると、「太陽が光っているから」「暑いから」と答えます。太陽に照らされると水たまりまで温かくなると知った子どもたちは、たのしそうに触れていました。

道中で農家の人にあいさつすると、収穫したきゅうりを見せてくれました。保育士は「新しいのは、ここがチクチクなんだ」と声をかけます。子どもたちは「すごい!」「立派だ」と感動していました。
偶然の出会いを大切にすると、新しい発見がたくさんあるのです。

変化するものに目を向ける

次に立ち止まったのは、定期的に観察している「ツバメの巣」があるスポットです。「大きくなってきたら巣の中が狭いんじゃない?」など、日々成長するヒナの様子に関心を向けるような声かけをします。
※許可を得て観察しています

安江文子さん(保育園 施設長)

子どもが不思議に思うことを大事にしています。子どもの感性に響かないと、「なんでだろう?」と思いません。子どもが不思議に思ったことを言葉にしたとき、大人が一緒になって探したり考えたりするのも大切です。それが「考えてみよう、やってみよう」という力になり、生きていく力にもつながると思います。

子どもたちの発見をたのしみ、大人も一緒に考える

広場にやってきました。この場所は、子どもたちが安全に走り回れるだけでなく、発見の宝庫でもあります。

ダンコムシを見つけた子が「先生、見て!」と教えてくれたり、大きなミミズを見つけた子どもたちが「出てきた!」と大興奮したり。保育士も「先生もたくさん見つけた!見て!」と、一緒になってたのしみます。

チョウを捕まえようとしている子どもたちもいました。保育士は、「いけるか、いけるか… そろっといけ!」と応援しながら見守ります。そして、チョウを捕まえたときは、できたことを「やったね!」と褒めつつ、「じゃあ、どうやって虫かごに入れる?」と次のステップへ誘導します。

子どもたちは協力してチョウをそっと虫かごに入れようとしましたが… 逃げられてしまいます。うまくいきませんでしたが、何度も挑戦する子どもたちの姿がありました。

カラスノエンドウの種子

とった生き物は、保育園の中で育ててみんなで観察することもあります。これは「カラスノエンドウ」という野草の黒と緑の種子です。

カラスノエンドウの観察レポート

園で種を両方植えたところ、どちらも芽が出ることがわかりました。
大人が子どもたちの発見をたのしみ、一緒に考える関わり方が、夢中で遊ぶことの原動力になっていました。


古坂大魔王さん(MC)

保育士の方が、本気になって子どもたちと遊んでいましたね。大人がたのしそうだと、子どもも興奮してうれしいだろうと思います。

日常の中にこそ、子どもたちの心が動くことがあふれている

大豆生田啓友さん

子どもたちにとっては、この地域が保育園なんですね。外には、子どもたちがワクワクすることがたくさんあります。ありふれた日常の中にこそ、「これは何だろう?」「もっと知りたい」「こうやってみようか」といった、子どもたちの心を動かすような探究があるのです。小さなころに「おもしろい!」「世界は、こんなふうにできているのか!」「そうか、少し働きかければこんなふうになるのか」と感じたことが、自信につながっていきます。
例えば、「太陽の光で水が温かくなる」を、知識としてではなく体験として学んでいますね。体を通しての学びが、とても重要なのです。

他にも「夢中になるあそび」を紹介

子どもが「夢中になるあそび」について、大豆生田啓友さんに他の保育園の活動を紹介してもらいました。

泡ぶくあそび

泡ぶくあそび ※写真提供:鳩の森愛の詩瀬谷保育園

泡を見て触れることで、五感で感じることや想像力を高めます。石けんの泡に色をつけて、いろいろなものに見立てるおもしろさもあります。いつまでも遊び続けるぐらい、子どもたちに大人気の遊びです。

寒天の感触あそび

寒天の感触あそび  ※写真提供:鳩の森愛の詩瀬谷保育園

寒天の不思議な触り心地を体験し、五感で感じることや、試行錯誤する経験ができます。いろいろなことにものおじせずにチャレンジする力、何かを乗り越える力につながります。

空き箱や廃材あそび

空き箱や廃材あそび  ※写真提供:鳩の森愛の詩瀬谷保育園

空き箱や廃材を工夫して何かを生み出すことで、創造力・想像力・探求心が育まれます。大人は「よいおもちゃは何だろう」と考えがちですが、「よいおもちゃ」とはいろんなものに変わる可能性「可塑性」があるものです。この写真では、子どもたちが「ピタゴラスイッチ」のような装置を作って、「科学あそび」になっています。遊びは無限なのです。
子どもたちは、もともとこのような力を持っていますが、大人がやることを決め過ぎてしまうと、次第に受け身になって、自分で生み出していく経験が閉ざされてしまいます。

―― すくすくファミリーのみなさんは、どんな「夢中になるあそび」がありますか?

すくすくファミリー(お子さん4歳のママ)

絵を描くのに夢中で、最近はアニメのキャラクターを描くのがすごく好きです。3歳前後のときは数字や文字を書くことにはまっていました。カレンダーの日付の下に、自分で「1、2、3…」と書いていたんです。最近では、カタカナや漢字まで書くようになりました。教えたわけではなく自発的にしているので、見守りたいと思っています。

すくすくファミリー(お子さん2歳・2か月のママ)

息子(2歳)は生き物全般が好きです。散歩中に犬を見かけると、大きな犬でも近寄っていくんです。虫も好きなので、捕まえて帰ってきたらどうしようかと思っています。

その子が好きなことを大事に

大豆生田啓友さん

子どもにはいろいろなタイプがいて、記号や物の仕組みが好きな子もいれば、空想の世界やファンタジーが好きな子もいます。「数字や文字を書く」も遊びだったと思います。それぞれが好きなことを大事にするといいでしょう。


すくすくファミリー(お子さん6歳・4歳・1歳のママ)

長男と次男(6歳・4歳)はテレビゲームが大好きで、「ゲームは1日30分」と約束しています。私自身、ゲームが好きでした。夢中になって遊ぶのはいいけど、テレビゲームはどうなのかと悩んでいます。

ゲームをたのしむことも大事

大豆生田啓友さん

ゲームであっても心がワクワクして、「もっとこうしてみよう」「ここはどうなるのだろう?」と集中して、そこから何かを生み出していくことは大事なことです。また、「ゲームは1日30分」のように時間を区切ることも大切です。

淡い刺激の遊びや、体を動かす遊びも大事に

大豆生田啓友さん

いわゆるテレビゲームは刺激が強くて、誘う力が強くなっています。刺激の強いものばかりしていると、葉を拾ったり石を並べたりするような淡い刺激の遊びをするのに、大人からたくさん働きかけなければいけなくなるでしょう。ゲームをたのしむことも大事ですが、体や想像力といった世界も大事にする。両面から考えてください。


子どもが集中して遊ばない!? どう関わればいい?

よく児童館で遊んだり、家でもいろいろなおもちゃで遊べる環境にしたりしています。ただ、長女(4歳)はひとつの遊びに集中している時間が短いように感じています。
例えば、ブロックで遊んでいても、組み立てている途中でおままごとやお絵描きをしたり、妹のところに行ってしまったり。戻ってきてブロックを再開することもありますが、ひと段落ついて次にいってほしい、注意力が散漫でよくないのではないかと思っています。これは夢中で遊んでいると言えるのでしょうか。親はどう関わればいいのでしょう?
(お子さん4歳・2歳のパパ・ママ)

遊び方には、いろんなタイプがある

回答:大豆生田啓友さん

お子さんの表情を見ると、とても集中しているように見えました。夢中になって遊んでいると思います。子どもによって、ひとつのことをじっくり取り組むタイプの子、いろんなことを同時並行で取り組むタイプの子もいます。違うことをして、戻ってくるタイプの子もいます。大人が考えるような「ここまでやり遂げることが達成」とは限りません。子ども自身が「今日はここまで夢中になったのでいい」といった場合もあります。そのように、子どもの様子を見てみましょう。

遊ぶスペースを集中できそうな環境にすることも有効

回答:大豆生田啓友さん

子どもによっては、興味が分散して落ち着いて遊べない場合もあります。そんなときは、遊ぶスペースを集中できそうな環境にすることも有効です。いろんなことが見えないように、聞こえないように、大人が工夫してあげると、子どもがひとつのことにゆっくり集中して取り組めることもあるのです。

―― すくすくファミリーのみなさんは、どんな関わり方をしていますか?

すくすくファミリー(お子さん6歳・1歳のママ)

長男(6歳)がミニカーを使ったごっこあそびが大好きで、「ママもやろうよ」と誘われます。でも、息子の世界観にうまく合わせることができなくて、15分ぐらいが限界です。夫も全くだめで寝たふりをしていました。私の姉はすごく得意で「1時間でも、2時間でもごっこ遊びできるよ」と言っていました。

鈴木あきえさん(MC)

私の友人も、ごっこ遊びが得意な人とそうでない人がはっきり分かれていました。大人になってもそれぞれ違うし、子どもも個人差がありますよね。

すくすくファミリー(お子さん4歳のママ)

子どもの絵や制作物は、「単に褒めちぎるのではなく過程を褒めたほうがいい」と聞くのですが、私には少し難しいです。「すごいな」と思ったら、すぐに「すごいね!」と声が出てしまいます。「どこを集中して書いたの?」など、過程を聞いたほうがいいのかなと考えていると、褒めることに詰まってしまいます。

―― 大豆生田さん、どのように褒めたらいいでしょうか?

親が感じたままに褒めていい

回答:大豆生田啓友さん

そんなに頑張らなくても大丈夫です。親が「すてき」と感じたときに「すてき!」と言うのが本当の声で、いちばん伝わります。「こう褒めないといけない」と考えながらだと、つくったような褒め方になるかもしれません。心が動いたときに褒める、今のままでいいと思います。


すくすくファミリー(お子さん2人のママ)

長男(5歳)は虫と遊ぶことに夢中です。いつでも虫かごを持っていて、いつも虫を持ち帰り、家で20種類ぐらい飼っています。ゲジゲジやイモムシ、今はガが大好きです。虫を裏返してみたり、脚を1本ずつ観察したり、すごく見ています。
パパは子どものころ、川で魚やサワガニをとったり、家で育てたりしていました。私も子どものころは農業用水路で魚をとったり、オタマジャクシやカブトガニをとって家の水槽で育てたりしていました。

―― 大豆生田さん、親の好きなものを、子どもも好きになることはあるのですか?

親の好きなものを子どもが好きになることはよくある

回答:大豆生田啓友さん

子どもの好きなものをたどってみたら、親も好きだったという話はたくさんあります。虫もいいですよね。知的好奇心をくすぐり、命を大事にすることにもつながります。
小さなころに体験した、夢中になったときの幸せは、大人になっても残っていくと思います。親が子どものころに好きだったことも残っているわけです。今は、子どもの好きなことを大事にしてあげてください。


あそびのタネ 「みず」

自然の中には、子どもの創造力をかきたてる「あそびのタネ」がいっぱいあります。今回は「みず」のあそびを紹介します。

「あそびのタネ」へ


最後に

遊ぶ・食べる・寝るのサイクルは、元気に育つ大事な要素

大豆生田啓友さん

今回、すてきな子どもたちの姿をたくさん見せていただきました。「食う・寝る・遊ぶ」と言いますが、よく遊び、よく食べ、よく寝るというサイクルは、元気に育つ大事な要素だといわれています。
また、子どもの行動を見ていると、「なるほど」と思うことがたくさんあります。大人が子どもから発想を得ることも大事で、お互いにメリットがある見方もできます。遊びがどれだけ重要かを、みなさんと共有できたように思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです