日本に住む外国人の数は約280万人(2021年)。外国にルーツを持つ子どもたちは年々増えています。でも、外国人のママ・パパたちは、日本での子育てに不安がいっぱいです。手助けしたくても、どんなふうに接したらいいかわからないママ・パパも多いはずです。私たちにどんなサポートができるのか、専門家と一緒に考えます。
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/幼児教育学・保育学)
南野奈津子(東洋大学 ライフデザイン学部 教授/社会福祉学)
今回のテーマについて
外国にルーツを持つ子どもたちの保育
まずは、外国にルーツを持つ子どもたちが多く通う保育園の様子を見せていただきました。そこにはどんな工夫があるのでしょうか。
こちらは、10か国の外国にルーツを持つ子どもたちが通っている保育園「桜本保育園(神奈川県川崎市)」です。日本人と外国人を隔てることなく、多文化に配慮した保育を行っているのが特徴です。
例えばバースデーカレンダー。「おめでとう」をさまざまな国の文字で表記することで、子どもたちが自然と他国の文化に触れられるようにしています。
園にある絵本も、スペイン語や中国語など、いろいろな言語で書かれたものがあります。子どもたちは早いうちから、いろんな言葉に触れることができます。
給食では、月2回ほど、外国にルーツを持つ子どもたちの各家庭料理をみんなで食べています。韓国料理やボリビア料理、ブラジル料理、フィリピン料理など「にじいろメニュー」と名づけ、子どもたちに大人気です。
子どもたちは一緒に育つことで、世界にはいろんな文化があり、違いがあることを自然と学んでいきます。文字や名前、味付けが違うことが当たり前なのです。その中で好みがあっても、違うことがいけないこととは思いません。
運動会や発表会などのイベントでは、各国の民族衣装を着て踊ります。この日は、韓国の伝統芸能を披露しました。
さまざまな文化を体験することで、違いをありのままに受け入れ、その違いをすばらしいと感じる気持ちを育てています。「21世紀を生きていく子どもたちは、いろんな場所で生活する可能性があり、どこにいても、自分のアイデンティティを否定することなく、自分らしく生きてほしい」という思いがあるそうです。
ここで、園長の朴栄子さんに話を聞きました。
―― 保育園をここまでしていくのは大変でしたか?
―― 保育園の中では、いろんな言葉が飛び交っているのですか?
外国人の日本での子育てには、どんな悩みがあるの?
日本で暮らす外国人にとって、日本語や文化に慣れない中での子育ては悩みがつきないようです。役所やNPOにサポートを求めてきた親たちに、どんな悩みがあるのか聞いてみました。
まずは言葉。日本語の問題です。
- 日本語ができないと、出産で大変だと思います。(ミャンマー出身ママ)
- 子どもが病気になったとき、一人で病院に連れて行くのが少し難しいですね。記入するものがあると困ります。(フィリピン出身ママ)
- 小学校に入るとき、いろいろわからないことがありました。書くことが多くて困りました。(バングラデシュ出身ママ)
育児のしかたでも迷うことが多いようです。
- 日本だと毎日シャワーやお風呂に入れますよね。ネパールでは、風邪をひいてしまうので、お風呂は週に1~2回くらいで、毎日1~2回オイルマッサージをします。(ネパール出身ママ)
- 離乳食は、お米、肉、野菜を一緒に煮込んだものを食べさせるのですが、日本の離乳食はとても細かいですね。ごはんやおかずを分けて赤ちゃんに食べさせてます。(ベトナム出身ママ)
続いて、教育の悩みです。
- 子どもより親のほうが漢字をできないくらいなので、子どもが勉強で困っているところを手伝うときに困りますね。(インド出身ママ)
- 外国人なのでいじめが心配です。日本人も外国人も同じ人間だから、仲よくしてほしいですね。(フィリピン出身ママ)
そして、こんな悩みも。
- 日本だとまわりに親戚などがいなくて、子育てをするのがとても大変です。(ミャンマー出身ママ)
ここで、パラグアイ出身ママに、外国人の親たちの悩みについて話を聞きました。
―― 外国人保護者の悩みは、多岐に渡っているのですね。
―― 違うことが当たり前な子どもに育ってほしいと思いますが、日本人ではないことで、相手を傷つけたり、悲しい思いをさせたりしないように、親としてできることはありますか?
外国人の子育てに、どんな支援があるの?
日本で子育てをしている外国人には、どのような支援があるでしょうか。いくつかの取り組みを紹介します。
こちらは、外国人の子育て支援を行なっているNPO法人「ホームスタート・二葉(東京都新宿区)」です。子育て経験者50人のボランティアスタッフが支援活動を行なっています。ここ数年、悩みを抱える外国人の訪問が増えているといいます。日本に来ていちばんに困るのは手続き。例えば、幼稚園・保育園に入るときのシステムがわからないという方がとても多いのです。
この日は、語学が堪能なボランティアスタッフと一緒に、フランス出身ママのお宅を訪ねました。来日4年目ですが、一緒に公園などに行ってくれる話し相手がほしかったそうです。友人のように寄り添いながら、育児の悩みを聞き、子育ての楽しさを伝えています。
こちらは、地域で外国人とつながりをつくる取り組みをしている任意団体「地球っ子グループ(埼玉県さいたま市)」です。この日は、4か国の外国人を含め、およそ30人が集まり、自然の中で交流を深めました。
散策のあと、みんなで楽しんだのは「クリスマス・リースづくり」です。こういった外国人と一緒に楽しむイベントを定期的に開催しています。
こちらは豊島区と連携して、特に出産前後のケアサポートに力を入れているNPO法人「Mother's Tree Japan(東京都豊島区)」です。
7か国語に対応した出産に関する動画配信もしています。日本での出産の方法や妊娠届の書き方など、きめ細かい情報を伝えています。
出産のときに役立つ指さしボードは11の言語に対応。妊婦が伝えたいことを、イラストを指さすことで意思表示ができる便利なアイテムです。
毎月開催している母国語母親相談会では、さまざまな言語の通訳者と一緒に悩みごとを聞いています。外国人ママ同士がつながれる場所にもなっています。
地方からもオンラインで相談を受けています。「地域にどうつながっていいか」「日本人のママ友をつくりたいけどできない」「どう話しかけたらいいかわからない」といった相談がくる一方で、日本人の親からも「どう話しかけてサポートできるかわからない」という話があるといいます。
今回、「Mother's Tree Japan」の坪野谷知美さんとインドネシア出身ママに話を聞きました。
―― 日本人から、どのように接してもらえるとうれしいですか?
―― 外国人子育ての支援は、日本人の問題もあるのですか?
私たちにできること
南野奈津子さん
多文化を尊重した子育て環境や社会づくりは、日本に来る方だけのためではありません。子どもや保護者が、より自分が大切にされたり、今の自分でいいのだと思えるような社会をつくることでもあるのです。日本の方も外国の方も、生きやすい社会につながっていくのではないかと思います。
汐見稔幸さん
子どものころにいろんな文化と触れ合うことが、その後の生き方に大きな影響を与えると、あらためて感じました。これから保育園・幼稚園・こども園に、たくさんの外国の子どもたちが来ることは、ある意味、私たちが国際人になっていく、地球市民になっていく訓練のチャンスだと思います。外国の方に「日本は住みやすい国だよね」と言ってもらえるような関係をつくることが、かえって自分たちのプラスになっていくと思います。
鈴木あきえさん(MC)
「外国人シャイ」という言葉を聞いて、自分も一歩踏み出してみようと思えました。親の姿を子どもも見ているはずなので、自分から変わっていきたいですね。どの国も子育ては大変で、通じる部分があると思います。
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです