赤ちゃんを産んで、すぐにはじまる授乳。でも、番組には「思っていたより大変だった」「つらかった」という声が多く寄せられました。今回は、母乳とミルクについて、専門家と一緒に考えます。

専門家:
石川紀子(愛育病院総合周産期センター 看護部長/助産師)
笠井靖代(日本赤十字社医療センター 第二産婦人科部長/産婦人科医)

母乳が足りているのかわからない…

番組のアンケートで「授乳について悩んでいること」を聞いたところ、いちばん多かった回答は「母乳が足りているかわからない」でした。

<授乳について悩んでいることは?> ※番組アンケートより

  • 1位 母乳が足りているかわからない
  • 2位 睡眠不足
  • 3位 乳首・乳房のトラブル
  • 4位 子どもの体重・体調
  • 5位 ママの心・体の不調

そこで、授乳中のママたちにも話を聞きました。

お子さん3か月のママ/指吸いをするのですが、母乳が足りないから吸っているのか、単に手があるという認識で吸っているのかわかりません。

お子さん3か月のママ/おっぱいを30分以上くわえていることがあります。「もういいかな」と思って離しても、泣き出したりします。ミルクを足したほうがいいのか悩みます。

2児のママ/例えば「ほっぺが赤くなったら」のような「足りている」というサインがあればいいのですが、正解もわからず、もやもやしていました。

授乳後の「指しゃぶり」や「泣く」などは、母乳が足りないからでしょうか?

「泣く=母乳が足りていない」と考えない

回答:石川紀子さん

泣くから母乳が足りないというわけではありません。例えば、たくさん飲み過ぎても「気持ち悪い」と感じて泣くこともあります。また、おっぱいを吸っている時間は、赤ちゃんにとってうれしい・心地いい時間です。そのため、授乳が終わると「ママ行かないで、離れないで」という気持ちで泣いてしまうこともあるのです。「泣く=母乳が足りていない」と考えないほうがいいでしょう。

焦らずにゆっくり、少しずつ赤ちゃんとの関係をつくっていく

回答:石川紀子さん

おっぱいの感覚と赤ちゃんの反応だけで、足りているかどうかを判断するのはとても難しいことです。どうして泣いているのかなど、だんだん赤ちゃんのサインが読み取れるようになっていくと思います。まわりの人たちに助けてもらいながら、試行錯誤を重ねて、焦らずにゆっくり、少しずつ赤ちゃんとの関係をつくっていけるといいですね。

実際は母乳が足りているのに「足りない」と感じる

回答:笠井靖代さん

「足りているか」については、「母乳不足」と「母乳不足感」があります。母乳不足感は、実際は母乳が足りているのに「足りない」と感じることで、大部分のママがそう感じて心配になってしまいます。
一般的に、母乳はミルクと比べると消化吸収がいいため、すぐにおなかがすきます。そこで何度も泣かれてしまうと、「足りないのかな」と心配になってしまうのは当然なのです。

母乳を十分に飲めている目安(生後3か月の場合)は、次のようなものがあります。

  • 1日に5回以上授乳している
  • 1日に5~6回、薄い色の尿をしている
  • 肌に張りがあって、いきいきと元気にしている

気になるときは、小児科や自治体の健診などで相談してみてください。

子どもの体重の増減が気になって、どれぐらい飲んでいるかベビースケールで量ったら、ネットでみた「1日の赤ちゃんが飲む目安」に全然足りていなくて、このままで大丈夫なのか不安になりました。神経質になってきたので、今は体重計を封印しています。
(お子さん7か月のママ)

産後の発育は、赤ちゃんの個性が大きく影響する

回答:笠井靖代さん

赤ちゃんの体重は、とても心配になることですよね。出生時の体重は、赤ちゃんの個性に加えて、子宮の中の環境などの影響を受けます。産後の発育は、赤ちゃんの個性が大きく影響します。そのため、平均より大きく産まれても、そのあとは個性に応じて小柄に成長する場合もあります。総合的に見ていく必要があるのです。あまり数字に振り回されないことが大事です。

哺乳瓶を拒否されてしまいます。克服法はありますか?
(お子さん3か月のママ)

飲ませてあげる人を変えてみる

回答:石川紀子さん

哺乳瓶であげるとき、ママだとおっぱいの匂いがするので、赤ちゃんは「おっぱいをもらえる」と思ってしまうのかもしれません。パパや家族など、飲ませてあげる人を変えてみるのもひとつの方法です。そのほか、ミルクの温度を少し変えてみる、搾乳した母乳を哺乳瓶であげるなど、いろんな工夫をしていると、突然大丈夫になることもあります。
「なんとしても哺乳瓶で飲ませないといけない」と考え過ぎないようにして、赤ちゃんにもプレッシャーを与えずに、ゆったりとした気持ちで授乳すると、意外と飲んでくれるかもしれませんね。

「母乳は夜につくられる」と聞いたことがあります。泣いてなくても、起こして授乳したほうがいいのか、寝かしておいたほうがいいのか迷います。
(お子さん3か月のママ)

夜は母乳の分泌が増えやすいが、無理にあげる必要はない

回答:笠井靖代さん

夜間授乳は、夜の母乳の分泌が増えやすいため、いわれているのだと思います。でも、授乳は、定期的に、赤ちゃんがほしいときにあげることが大事です。そのつど母乳をあげることで、母乳がつくられ、母乳育児がしやすくなります。赤ちゃんが寝ているなら、無理に起こす必要はありません。母乳がたまっているのであれば、搾乳で出し切ってください。すると、また新しく母乳がつくられます。


母乳でないとダメなことはあるの?

国の調査では、妊娠中に「母乳で育てたいと思っていた」という人は、9割以上にのぼります。

※厚生労働省 乳幼児栄養調査(2015年)

授乳中のママたちにも、「なぜ母乳がいいのと思うのか」について聞いてみました。

お子さん3か月のママ/妊娠中に「母乳が神だ」といった情報をたくさん見てしまって。母乳とミルクの混合育児をしていますが、「今の時期に、自分にしかできない」と思うと、できる限りやってあげたいと思います。

お子さん3か月のママ/「絶対母乳」という考え方ではないのですが、なんとなく「母乳いいな」のように、漠然とした思いはありました。

お子さん5か月のママ/「ミルクで育った子は体が弱いよ」と言われたことがあります。ミルクの割合が多いので、免疫力が落ちやすくならないか、いつも頭の片隅にあって気になっています。

母乳が少ないと、免疫力が落ちることはありますか?

母乳に免疫物質が多く含まれるが、免疫は母乳だけではない

回答:笠井靖代さん

母乳には免疫物質が多く含まれ、感染症から赤ちゃんを守るといわれています。特に産後1週間ごろまでの初乳は免疫物質が豊富なので、できるだけあげる必要があると思います。
ただ、赤ちゃんの免疫は母乳だけではありません。実は、母親の胎盤を通して、たくさんの免疫物質が引き継がれて、生後6か月ごろまで働きます。産まれたあとは予防接種もあるので、自信を持って育児をしていただければと思います。

ミルクだけで育てています。愛着障害になってしまうことはありますか?
(お子さん5か月のママ)

ミルクで愛着障害になることはない

回答:石川紀子さん

「ミルクだと愛着障害になる」といったことは、絶対にありません。「母乳だから」「ミルクだから」ではなく、どのように授乳するかが大事です。ちゃんと赤ちゃんをだっこして、目を見て、ときには話しかけながら授乳していくことが、愛着形成を育んでいくのです。

愛着形成には、赤ちゃんとのコミュニケーションが大事

回答:笠井靖代さん

授乳をしていると、「オキシトシン」というホルモンが分泌されます。これは、愛情ホルモンといわれているものです。授乳以外でも、赤ちゃんを触ったり、なでたり、赤ちゃんの匂いをかいだり、声を聞いたり、赤ちゃんのことを考えるだけでも分泌されます。もちろん男性でも同じです。愛着形成には、そういった赤ちゃんとのコミュニケーション、スキンシップが重要ではないでしょうか。

子どもが1歳を過ぎたころ、母乳をあげていたら、「もう母乳には栄養がない」と言われたことがあります。本当ですか?
(お子さん1歳のママ)

1歳過ぎても栄養はある。補完食などでバランスを

回答:石川紀子さん

1歳を過ぎても栄養はあるので、心配しなくても大丈夫です。新生児期の母乳のように脂肪分の多い成分ではありませんが、1歳でも2歳でも、タンパク質という栄養があります。その時期になれば、栄養を母乳だけからとるわけではないので、補完食(離乳食)などでバランスをとっていけばよいでしょう。


パパや家族にできることは?

続いて、パパや家族など、まわりの人たちの理解について話を聞きました。

お子さん3か月のママ/一生懸命母乳をあげているのに、母乳をあげたあと泣かれると、夫や家族に「足りてないんじゃない?」と言われます。私が「他のことで泣いている」と思っていても、まわりの人に「泣き声=おなかがすいている」と思われてしまいます。

お子さん3か月のママ/とてもつらいとき親に相談したら、姉の母子手帳を持ってきて「成長曲線がこんなに外れていたけど、今のお姉ちゃんは大丈夫でしょ。だから大丈夫!」と言ってくれて、少し安心できました。「わかってくれているのかな」と感じてうれしくなりました。

お子さん5か月のママ/私の母は「足りないならミルクあげればいいじゃない。どんどんミルクあげなさいよ」といった感じの人です。それで気が楽になったところがあります。

お子さん7か月のママ/今、パパは在宅勤務が多く、一生懸命育児に参加してくれています。私は、ホルモンバランスの乱れや産後のしんどさもあって、別人のように怒ったりすることがありますが、「産後だからしかたないね」と受け止めてほしいと思っています。パパも「ママが子どもと離れることでリフレッシュできると聞いている。ママの気分を優先してサポートしたい」と言ってくれています。

ママの心と体の状態に注目して考えてあげる

回答:石川紀子さん

この時期、ママは心身ともに大変な時期ですよね。でも、まわりの人たちは赤ちゃんには注目しているけど、ママには注目していないことが多いようです。もう少しママの心と体の状態に注目して、何をしてあげたらいいのか考えてもらえるといいですね。

回答:笠井靖代さん

赤ちゃんが産まれると、主役はすべて赤ちゃんになって、ママが置いて行かれてしまうことがありますね。

古坂大魔王さん/MC

最初は、自分が赤ちゃんを一生懸命見ることがママへの愛だと思っていました。でも、それから数年間で、それだとママが「私は?」となってしまうんだと学びました。


授乳がつらくて悩んでいるとき、どうしたらいい?

番組には、ほかにも授乳で悩んだ経験を持つママの体験談が寄せられています。

生後2か月のとき、母乳をやめました。
乳首が切れて、乳頭保護器をつけて授乳していましたが、傷が治らない状態が続きました。とても痛くて、赤ちゃんに血を飲ませているような感じがして、「大丈夫かな、かわいそうだな」という思いもありました。
それでも、母乳をやめると決めるまで時間がかかりました。「母乳を飲む赤ちゃんの権利」を奪うような気がしていました。私がやめると赤ちゃんは飲めなくなるので、申し訳ないという気持ちでした。
(お子さん3か月のママ)

母乳が多すぎることに苦しんでいます。
出産直後から母乳が過剰に作られる状態になって、飲ませても飲ませても母乳が止まらない状態でした。乳腺炎を繰り返し、手術したこともあります。和食中心の食事にして、水分も制限し、体重は30キロ台まで落ちました。
それでも母乳の分泌が減ることはなく、精神的にもかなり追い詰められました。私自身、こんなパターンがあることを出産後に知ったのですが、産む前のママにも知ってもらえるといいのではないかと思います。
(お子さん5か月のママ)

乳首が切れるのは、みなさんが思っている以上に痛い

回答:石川紀子さん

乳頭・乳房のトラブルで母乳外来にいらっしゃる方は結構います。乳首が切れるというのは、みなさんが思っている以上に吸われると痛いのです。そのため、授乳が恐怖に感じたりします。

母乳分泌過多は、授乳自体が大変になる

回答:石川紀子さん

母乳分泌過多は「たくさん出ていいじゃない」と思う方がいるかもしれないが、授乳自体がとても大変になります。あふれるように出てしまうので、赤ちゃんが短時間にたくさん飲んで、大きなげっぷと一緒にたくさん吐いてしまうこともあります。食事についても、「これでおっぱいが張ったらどうしよう」と心配になってしまいます。
手術もされたようで、本当に大変だったと思います。5か月まで続けてこられて、もう十分されたんだなと思いました。

頑張るのはママではなく、家族・地域・社会

回答:笠井靖代さん

私が勤めている病院では、「母乳外来」を「授乳サポート外来」という名称に変えました。「母乳外来」だと、母乳のことだけしか相談できないと思われがちです。でも、ミルクの相談はもちろん、育児全般も含めての心配ごとなどにも対応するような体制を整えています。
お母さんたちは、常に「立派な母親でいなければ」というプレッシャーにさらされています。ママは頑張る必要はなくて、頑張るのは家族や、地域・社会ではないかと考えています。

赤ちゃんにとっては「だっこしてもらえた」といった肌感覚のほうが大事

回答:石川紀子さん

「母乳育児がいい」と通説のようにいわれています。でも、赤ちゃんの立場で考えたら、「完全母乳だった」「母乳をたくさん飲ませてもらった」ということよりも、「ぎゅっとだっこしてもらえた」「よしよししてもらえた」といった肌感覚のほうが、赤ちゃんの中に残っているのではないでしょうか。だから、もう少しまわりに頼って、甘えてください。そして、楽しい時間を過ごすにはどうしたらいいかを考えてもいいと思います。

地域の相談先

日本助産師会 ホームページ「全国の相談窓口」
https://www.midwife.or.jp/general/supportcenter.html


みんなですくすく
先輩ママからのメッセージ

先輩ママからのメッセージを紹介します。

「ミルク? 母乳出ないの?」と言われることが苦痛だった。3人の子育てをして、今は何とも思わない。まわりは何も知らずに言っているだけ。「母乳だけにこだわらなくて大丈夫」と伝えたい。
(3児のママ)

母乳が出ない自分に落ち込んだ時期もありますが、2歳の息子はとても元気に育っています。悩んでいるお母さんたちに「自分を責めたりしないで」と伝えたいです。
(2歳6か月のママ)

母乳が出なければ出ないほど、赤ちゃんに申し訳なく、まわりが羨ましくなったりしましたが、「家族みんなでミルクをあげられる」と切り替えてから、気持ちが楽になりました。
(3歳のママ)

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです