仕事と子育ての両立、どうしていますか?
働きながら家事をきちんとできるのか不安…… 仕事で周りの人に迷惑をかけたら申し訳ない……。子育てしながら、家事も、仕事もこなしていくには、いったいどうすればいいのでしょうか。

専門家:
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/教育学)

家事のしかたと働き方についてのポイントは?

「働く」と「子育て」。相乗的にいい影響があるはずと考えてみて

大日向雅美さん

「働く」と「子育て」は、働いていることで子育てに、子育てをすることで仕事に、どちらにもよい効果があるはずだと、少し発想を変えてみてはいかがでしょう。共倒れになるのではなく、それぞれにとってよい影響が相乗的にあるはずです。それを探してみようという視点で見れば、楽しくなることもあると思います。

考えながら家族をつくる時期

汐見稔幸さん

アメリカでは、かつて「スーパーウーマン症候群」という言葉が盛んに言われた時期がありました。仕事も子育ても完璧にこなそうとして疲れ果ててしまう、そんな状態を言います。どちらも完璧にしようとするのではなく、どんな工夫をすればよいのか見直しながら、「家族をつくっていく」時期だと考えてみましょう。


働きながら家事をきちんとできるか心配……

職場復帰を前に、働きながら家事がきちんとできるか不安を感じています。育休中の今は、子どものペースに合わせて家事・育児ができますが、仕事が始まると時間に追われるのではないかと思っています。
なかでも、食事について悩んでいます。私の母は、いつも料理を作ってくれて、結婚するまで市販の総菜を食べたことがないぐらいでした。私もきちんと食事を作りたい、と思い、職場復帰後の家事のシミュレーションを行っていますが、自分自身の「きちんとしなくては」という気持ちにずっと苦しんでいます。夫は家事に協力的で、食事も「無理はしないで。総菜を使って簡単に用意するのもいい」と言ってくれます。ですが、自分の中できちんとしたいという思いが強く、どうしたらよいのか葛藤しています。
(1歳 男の子のママ)

「べきオバケ」を退治しましょう

回答:大日向雅美さん

「母親だから○○すべき」のような考えは、「べきオバケ」と言うそうです。オバケですから、すべて「〇〇すべき」というのは、そもそも無理なことなんです。
また、どのように仕事と家事を両立させるのか事前にシミュレーションしていますが、これは仕事が子育てにいきているのだと思います。例えば、家事をToDoリストにすれば、仕事のように達成感を味わいながらこなしていけるかもしれません。仕事で培ったノウハウをいかして、できなかったら改善したり、ほんとうに必要かどうかを検討したりできると思います。
パパが協力的で「無理をしなくていい」と言っているのですから、一緒にべきオバケを退治しましょう。「葛藤が強くて楽しくないな」と思いつめるのであれば、それはオバケの証拠ですよ。

夫が生活人として成長する場と考えて任せてみる

回答:汐見稔幸さん

人が生活を営み、生きていくためには、家事や子育てをしていかなくてはなりません。それを全て妻がやってしまうと、夫は生活人として成長する場がなくなってしまいます。最初は時間がかかるかもしれませんが、夫に任せてみてはいかがでしょうか。今は「私がやったほうが早い」と思えても、長い目で見れば夫にとっても家族にとってもプラスになると思います。


働く先輩ママに聞く 家事のしかた

仕事をしながら、どのように家事を乗り切っているか、働く先輩ママに聞いてみました。

①メニューをあらかじめ決める(6歳 女の子のママ)

仕事から帰ってきてから食事のメニューを考えると時間がかかってしまいます。ですので、1週間分のメニューをあらかじめ決めておきます。

月曜・火曜は肉や魚のこったメニュー。水曜は冷凍の餃子や麺類、木曜は丼とサラダ、金曜はパスタやうどん。このバリエーションで回します。仕事の予定を考えて、水~金は手を抜くと決め、土日に冷蔵庫の食材を見ながら次の週のメニューを考えます。

掃除は、すこし汚れていても気にし過ぎないように。平日は私が簡単にすませ、土日にパパがしっかりするようにしています。
洗濯物を畳むのは、6歳の娘に任せています。多少うまくできなくても気にしないこと。3歳のころから畳み方を教えて、今では立派な戦力です。
これだけを頑張ると決めて、あとは気にしない、頑張り過ぎないことがポイントだと思います。

②子どもが自分で食べられるごはん(1歳 男の子のママ)

慌ただしい朝、子どもに離乳食を食べさせている時間を他の家事に回したいと思い、子どもが自分で食べられるメニューを考えました。

手づかみ食べできる離乳食は、なかなか市販品がありません。フレンチトーストや、とり肉と豆腐のハンバーグなど、週末や平日の夜にたくさん作って冷凍しています。
これで朝の準備が30分短縮できました。

③パパも家事分担できるようにする(3歳 男の子のママ)

子育てをしながら仕事を続けるには、夫婦で家事をしないとだめだと思いました。パパは全く家事ができませんでしたが、少しずつ教えて、家事ができるように育てようと考えたんです。

まず、料理をしたことがなかったパパに、簡単にできる料理を教えました。材料を切る必要がないカット野菜などを使って、簡単な手順でできるものです。こういう経験を通して、パパも「自分にも料理ができる」と思うようになります。

うまくいかない料理もありましたが、絶対に「まずい」と言わず、「おいしい!」と言っていただきます。そうすると、パパもやる気になってくれると思いました。

失敗したときや、効率がいい方法があるときはアドバイスします。そのとき、自分が言われたら嫌だなと思う言い方をしないように気をつけました。

パパが料理をはじめて6年。今では手のこんだ料理も作れるようになり、料理が楽しくなったといいます。

パパ/料理の自信はありませんでしたが、作っていくうちに「せっかくならおいしく食べてもらいたい」という思いが芽生えて、工夫するようになりました。妻に喜んでもらいたいという気持ちが大きいです。仕事で疲れて帰ってきて、ごはんが用意されていたらうれしいですよね。お互いにうれしいと思えるほうが、夫婦もうまくいくと思います。

ママ/家事を担当制にすると義務感に縛られてしまうので、絶対にしないようにしました。お互いに協力し合える関係になりたかったんです。パパには本当に感謝しています。

子育てで仕事も家庭生活も両方できる人を育てる

コメント:大日向雅美さん

家族で協力し合うことは、とてもすてきだと思います。『③パパも家事分担~』の例ではうまくいきましたが、すべての家庭でそうとは限りません。ママの中には、夫を育てることに疲れてしまう方も多いと思います。『③パパも家事分担~』のパパは、パートナーの言うことを素直に聞いていたところがよかったですね。
一方で、今の若い世代は、男女の区別なく家事ができないことが多いようです。これからの時代は、子どもを育てるときに、仕事も家庭生活も両方できる人を育てるという視点も大切になってきます。そういう意識を持った人を育てることだと思います。

お互いを思いやる家族をつくることが目標

コメント:汐見稔幸さん

共働きの家庭では、「きれいに家事を担当制にしないこと」がキーワードかもしれません。例えば「僕は料理が好きだから食事は任せて」というように、まずはそれぞれが得意なことをしっかりやる。それが、結果的に分担し合って、お互いに思いやるというかたちになればいいですよね。きっちり半々に分担する、ということよりも、そういう家族をつくることが目標だと思います。


仕事も子育てもちゃんとしたい。どう折り合いをつければいい?

職場復帰を控えた今、以前のように働けないのではないかと心配です。忙しいときは残業などでやりくりしていましたが、今後はそんな働き方ができなくなると思うと不安です。自分の好きな仕事で愛着もあります。自分の仕事は自分できちんとしたい、周りの人に迷惑をかけたくない。甘えることも性格的に慣れていません。復帰後、自分の働き方の理想をかなえられないと思うとつらいです。
仕事も子育てもちゃんとしたい、どう折り合いをつければいいのでしょうか。
(7か月 女の子のママ)

自分の看板を「育児中心」に変えよう

回答:汐見稔幸さん

私の子育ての経験ですが、子どもが3人になったとき、基本的にパートナーと同じことをやろうと決意しました。大学の同僚にも「夜の会議は一切出ません」と宣言したものです。それでも、仕事に対して葛藤がありました。でも、客観的に仕事と育児の優先度を考えれば、今一番大事なのは育児なんです。今しかできないことなんです。
こういうときは、仕事の質を考えて集中したり、何かを工夫するしかありません。私は、それを「看板を変えよう」という言い方をしています。これまでは「仕事中心」だった看板を、「育児中心」に変えて、周りの人にもはっきりと示すのです。そうしないと、なかなか葛藤は解消できないと思います。

男性も看板を変えることに意味がある

回答:大日向雅美さん

男性の汐見さんが「看板を変える大切さ」を言ってくださったことは、とても意味があると思います。これまで一般的に、女性だけが看板の掛けかえをさせられてきました。「子どもがいるでしょ」「仕事はいつでもできるでしょ」「母親は今しかできないでしょ」と言われ、多くの女性が仕事をリタイアしてきました。そして、子育てがひと段落しても、帰れる場所がない、全てが奪われて、あったとしても正規の仕事じゃない。女性は、ずっとそのような境遇にいました。
看板を変えることは大事なことです。でも、女性だけでなく、男性である夫も看板を変えることがとても大事なことなんです。

「甘える」ことは「大人になる」こと

回答:大日向雅美さん

「甘えることに慣れていない」とのことでしたが、私は「甘える」ことは「大人になる」ことだと思います。
全て自分で抱えることは、体は大変ですが、ある意味、心は楽なのです。甘えることには、相手への感謝が欠かせません。「助けてもらえますか?」と自分の弱さを見せることでもある。「お言葉に甘えさせていただきます」という言葉は、「本当は自分の仕事で、甘えないほうがいいとわかっている、それでも助けていただきたい」という、成熟したパーソナリティのあらわれです。甘えられる自分は大人だと思ったほうがいいかもしれません。

親の介護もあって時短勤務をしています。理解のある職場ですが、みんなより遅く来て、みんなの仕事中に帰ることになるので、申し訳ないと感じて心が痛みます。
(3歳 男の子のママ)

たゆたえども沈まず

回答:大日向雅美さん

「たゆたえども沈まず」という言葉があります。パリの市庁舎に掲げられている、荒波に揺れる帆船の絵にそえられている言葉です。いろいろな戦時に揺れはしたが、我々は絶対に沈まない――そんなパリ市民の意思の象徴なのです。
子育てと介護のダブルケアは本当に大変です。大変なときには、じっくりと、沈まないようにさえしていればいい。時には、波にまかせることも大事です。そこで、いろいろなものを得られるかもしれません。ひとりでなくてもいい、みんなで手を携えて乗り切っていきましょう。これ以上頑張らなくてもいい、ただ沈まないことを考えてください。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです