仕事と子育ての両立、どうしていますか?
仕事をしていると、どうしても子どもの就寝が遅くなってしまう… 保育園に預けることで子どもに寂しい思いをさせてしまうの? 子どもと過ごす時間が短くなると、愛情が伝わるのか心配…。番組には、そんな不安や悩みの声が多く寄せられました。
働きながら子育てをすることで、子どもに影響はあるのでしょうか。

専門家:
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)
遠藤利彦(東京大学大学院 教授/発達心理学)
野井真吾(日本体育大学 教授/教育生理学)

仕事と子育ての両立を考えるポイント

「間違ったことはしていない」と思って

大日向雅美さん

仕事と子育ての両立は大変です。たくさん悩むと思います。仕事をすること、子どもから離れることがよくないのではないかと思う方もいるでしょう。ですが「間違ったことはしていない」と思ってほしい。働きながら子育てをすることは、昔から多くの人たちがやってきたことです。

子どもの発達は、親との関係の中だけで進んでいくものではない

遠藤利彦さん

子どもの発達は、親との関係だけで進むものではありません。保育士など、親以外の保育者との関係や、友だち同士の関係の中でも育っていきます。「親である自分だけがやってあげないと」と考えるより、いろいろな人との関係の中で考えるほうが自然だと思います。


仕事で帰りが夜の6時半くらいになり、子どもの生活リズムを保つのが難しい。

仕事をしながら1歳の娘を育てています。仕事を終えて保育園に迎えに行き、帰宅するのは夜の6時半ごろ。それから子どもが寝るまでの間が、唯一コミュニケーションが密にとれる時間です。でも、子どもの生活リズムを考えると、夜9時には寝かしつけたいと思っています。
母乳をあげたり、夕食の準備をしたり、お風呂に入れたり、歯をみがいてあげたり。食事を週末に準備して冷凍するなどの工夫をしていますが、バタバタしている間に9時になってしまいます。子どもと遊ぶ時間は、お風呂にお湯をためているときぐらいです。時計を見ると気持ちが焦りますし、寝る時間が遅くなると罪悪感がわいてきます。どうしても帰宅が夜の6時半くらいにはなってしまうので、子どもの生活リズムを保つのが難しいと思っています。
(1歳2か月 女の子のママ)

生活リズムは大切。1時間ぐらいのズレに収めることを心がけて

回答:遠藤利彦さん

子どもの発達にとって、一定の時間に寝て起きる生活のリズムはとても大切です。あくまで目安ですが、連続した睡眠を10時間程度とることが、一般的には望ましいといわれています。でも、忙しく時間が限られた中で、生活リズムを崩さないようにするのは大変ですよね。そんなときは「一定の時間」に幅を持たせて、例えば1時間程度のズレに収めることを心がけてみるとよいでしょう。

子どもと過ごせる時間が、1日に4時間くらいしかありません。親子のコミュニケーションと睡眠時間、どちらを大事にしたらいいでしょうか?

コミュニケーションは、やりとりの質を大切に

回答:遠藤利彦さん

コミュニケーションを、時間の長さと、やりとりの内容という視点で考えてみましょう。このとき、どちらかといえば「やりとりの質」を大切にしたほうがよいのではないかと個人的には思います。

一緒に生活していること全てがコミュニケーション

回答:大日向雅美さん

遊んだり、絵本を読んだりすることだけがコミュニケーションではありません。子どもが小さなころは、子どもと一緒にいること、一緒に生活していること全てがコミュニケーションだと思ってください。例えば、寝かしつけは、抱きしめてあげたり、歌を歌ってあげたりする、最高のコミュニケーションですよ。
私たちの生活には、理想として目指すことと、理想通りにならないことの両方があります。そのバランスを、もっと楽に考えてよいと思います。「夜9時には寝かしつけをしないと」と焦らず、「9時になったらねんねのコミュニケーションをしよう」というように考えてみてください。

子どものスムーズな寝つきのために

多くの方から、子どもの就寝時間が遅くなってしまうという悩みが寄せられています。子どもの体と心の健康について研究している野井真吾さんに、子どもの睡眠についてうかがいました。

解説:野井真吾さん

夜眠くなるのは、メラトニンなどのホルモンの影響です。このメラトニンの分泌を促すには、昼間太陽の光を浴びる・適度に体を動かす活動をする・夜は暗い環境をつくる、このような生活のしかたが大切です。

「少し暗い環境をつくる」という点でいうと、仕事で帰りが夜になるのであれば、はじめから部屋の照明を少し暗くしておくのもよいでしょう。例えば、ふだんから電球を何本か抜いておくなどの方法があります。
暗いほうが寝やすいとはいえ、部屋がまっ暗だと怖がって眠れない子もいます。そのような場合は豆電球が必要かもしれません。また、寝る前には、激しい運動や遊びなど、体や気持ちが興奮することは避けてください。

睡眠は、子どもにとってとても大事なものです。同じ時間に寝て、同じ時間に起きる、そのような生活のリズムをつくることが大切です。リズムが崩れると、寝にくい・起きにくい体になってしまいます。平日も休日も含めて、なるべく同じリズムで過ごすことを心がけてください。


「1歳から預けるのは早過ぎる」と言われてしまい複雑……どう考えたらいい?

育児休暇を終え仕事に復帰、子どもは保育園に預けることにしました。そのことで、家族から「まだ預けるには早過ぎない?」「歩きはじめとか見たくないの?」「子どもが寂しい思いをしない?」と言われて困惑しています。
親やきょうだい、家族はみんな幼稚園で、保育園に預けたことがある人がいません。私は「育休の後に仕事復帰」を前提に考えていたので、そんなことを言われるとは思ってもみませんでした。小さいうちは一緒にいないとだめなのかな、と心配な気持ちになり、複雑な心境です。
(1歳 男の子のママ)

家庭ではできない経験をしていると考える

回答:遠藤利彦さん

子どもが保育園に入ることで、家庭ではできない、とても楽しい、大切な経験ができるかもしれません。そのように発想を転換して考えてみることもできます。家庭以外の世界で、子どもたちがいろいろなことを経験できると想像してみることも大切です。

子どもの寂しい思いはマイナスばかりではない

回答:遠藤利彦さん

大人は「子どもが寂しい思いをするのは、マイナスでしかない」と考えがちです。ですが、「寂しい」を少し経験しておくことは、子ども自身の心のたくましさにつながるとも考えられます。ある研究者は「マイルドで弱い、適度なストレスの経験は、将来的に大きなストレスをはね返す力になる。ストレスの予防接種のような役割を果たす」という表現をしています。

保育園を知らないことが心配につながる

回答:大日向雅美さん

以前、大学生たちに保育園について聞いたことがあります。保育園で育った人は「自分は保育園で楽しかった」という声が多く聞かれましたが、幼稚園で育った人は「保育園の人はかわいそう」と思うそうです。保育園を経験したことのない人は「かわいそう・わからない」と思ってしまうのです。家族の方も、保育園のことを知らないことが心配につながっているのではないかと思います。

「初めて物語」にとらわれなくていい

回答:大日向雅美さん

「子どもの“初めて”を見ていたいでしょ?」は、周りからよく言われることですね。初めて立ったとき、歩いたとき、ことばを発したときなど、そんな瞬間を保育園に預けると見ることができない。そういうこともあると思います。でも、そんな「初めて物語」にとらわれなくていいのです。初めての瞬間に立ち会えなくても、子どもはそれからも歩き続けるし、話し続けます。親は、ずっと一緒に歩き続けて、一緒に会話していくんです。「初めて」でなくても、子どもとともに歩き続け、対話していく時間を大切にしてください。


短い時間で愛情を伝え、子どもの要求を見きわめられる?

育児休職中で、職場復帰を控えていますが、子どもと過ごせる時間が短くなるので不安です。子どもが「ママは忙しくて自分のほうを向いてくれてない」と思ってしまうのではないか、私の愛情が短い時間の中で伝わるのか、そんな心配があります。子どもがぐずったとき、今はずっと一緒にいるので「おはながすいてるのかな」「これが欲しいのかな」といったことがわかる気がします。接する時間が短くなると、そんな子どもの要求を見きわめるのが難しくなるかなと思っています。
(1歳1か月 女の子のママ)

「してあげる」より「そこにいる」が大切

回答:遠藤利彦さん

子どもへの愛情は、何かを「してあげる」ことだと考えてしまう大人が多いように思います。すると、どうしても「量」の話になり、たくさんのことをしてあげることが愛情だと思えてしまいます。ですが、子どもの発達という観点では、「してあげる」こと以上に、必要なときに「そこにいる」ことが大切だと考えられています。
そこにいること自体が子どもへの愛情だと考えてみてください。子どもが怖くて不安になったときは、確実に逃げ込んで安心感を与えてくれる安全な避難場所の役割を果たし、子どもが元気になったときには、いろいろなことにチャレンジできるように、後押しして応援してあげる、安心の基地の役割を果たします。子どもが求めてきたときにこたえて、子どもが1人で遊んでいたら見守りながら応援してあげるような気持ちでいることが大切だと思います。

離れている時間に見えることもある

回答:大日向雅美さん

愛情が一緒に過ごす時間の長さではないことに、もっと自信を持っていいと思います。仕事中は確かに離れているかもしれませんが、子どものことを思っているのではないでしょうか。そして、お迎えで再会したとき、かえって離れているよさが出ることもあります。ずっと一緒だと見えない、離れていると見えることがあると思います。
子どもの要求については、子どもから発信されるシグナルをキャッチできるゆとりを持って、「ここにいますよ。スタンバイしていますよ」という気持ちで、子どもとの時間を過ごせばよいのではないかと思います。

子どもに、親の愛情はちゃんと伝わるものでしょうか?

3~5歳になると、親の気持ちがわかるようになってくる

回答:遠藤利彦さん

3~5歳のころになると、人の気持ちがわかりはじめます。同時に、お父さん・お母さんが自分のことをどう思っているのかを感じることができるようになります。すると、親の気持ちや、親が置かれた状況に応じて、自分の行動を調整することもできるようになるのです。

子どもは親の姿をちゃんと見ている

回答:大日向雅美さん

仕事をしている親は、子どもにかわいそうな思いをさせているのではないかと、気持ちが揺れているかもしれません。だけど、子どもは、そんな親の姿をちゃんと見ています。子どもには「ごめんなさい」ではなく、「ありがとう」という気持ちでいることが大事ではないでしょうか。一緒に暮らして、こんなに育ってくれてありがとう。そんな子どもへの感謝を胸に、乗り越えていただきたいなと思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです