かぜやインフルエンザ、胃腸炎など、冬は感染症が多くなる季節です。赤ちゃんにうつらないか心配… 除菌はどのくらいすればいい? 冬に備えて知っておきたい感染症の予防法について、専門家に教わります。

冬の感染症 どう予防する?

専門家:
草川功(聖路加国際病院 小児科 医長/小児科医)
堀成美(国立国際医療研究センター/看護師)

冬に感染症が多いのはなぜ?

秋から冬にかけて、特に子育て家族が気をつけたい感染症をまとめました。

  • インフルエンザ
  • 感染性胃腸炎(ノロウイルス・ロタウイルスなど)
  • 溶連菌感染症
  • RSウイルス感染症

このような感染症が冬に多いのはなぜでしょうか。

寒さによる免疫力・体力の低下、空気の乾燥のため

回答:草川功さん

冬は気温が低く、寒くて空気が乾燥しています。寒くなると、子どもの免疫力や体力が落ちやすくなり、空気が乾燥すると、ウイルスや病原体が広がりやすくなります。そして、寒くないように密閉した空間に人が集まるので、よりウイルスや病原体に接しやすくなります。このような要因から他の時期に比べて感染症にかかりやすくなるのです。


小さい子は感染症になりやすい?

小さい子どもは感染症にかかりやすいのでしょうか?

体が十分発達していないため重症化することも

回答:堀成美さん

大人であれば少し休めば治るようなものでも、小さい子どもの場合は体が十分に発達していないため、重症化することがあります。だから、感染症の予防が大事になるのです。


感染症予防のために、どんなことをすればいいの?

息子が保育園に通い出して、かぜをひいたり熱を出すことが多くなりました。

39度6分の体温計

病院の先生からは「通いはじめは、そういうものですよ」と言われましたが、つらそうな顔を見ていると心配です。いちばん重い症状になったのは胃腸炎と気管支炎を併発したときです。40度の熱が5日ほど続き、ごはんも食べられず、目もくぼんだようになっていました。妹にうつることも心配で、感染症の重い症状を見て怖いと感じました。
それからは、感染症の対策のためにできることはしています。例えば、口の周りや鼻の下にワセリンを塗るとウイルスが遮られると聞いて実践しています。空間除菌にはスプレータイプと据え置きタイプを使っています。必ず手洗いをしています。
でも、どんなに対策しても感染症にはかかってしまいます。どうやって予防すればいいのでしょうか。
(2歳11か月の男の子と11か月の女の子をもつママより)

集団生活で病原体と接する機会が増える

回答:草川功さん

子どもは、保育園のように集団生活をするようになると、自宅にいただけの頃に比べて病原体に接する機会が増え、感染症にかかりやすくなります。また、保育園に通いはじめた頃は、集団生活へのストレスもあったと思います。ストレスにより抵抗力が下がり、感染しやすくなることもあります。

感染経路には、飛沫感染、空気感染、接触感染の3つがある

回答:草川功さん

感染症予防のために、病原体がどのような経路で感染するのか知っておきましょう。感染経路は大きく次の3つに分けられます。

感染経路

<飛沫(ひまつ)感染>
感染している人が「せき」「くしゃみ」「会話」などをするときに、どうしても唾液などが飛び、そこから感染します。飛沫感染でよく知られているのは、インフルエンザ、RSウイルス感染症、マイコプラズマなどです。

<空気感染>
感染経路(空気感染)
空気中の病原体を吸い込むことで感染します。はしかや水ぼうそうなどが知られています。これらは、主にワクチンで予防します。

<接触感染>
 感染経路(接触感染)
病原体が付いたおもちゃをなめたり、おもちゃを触った手から口・目・鼻に入ったり、病原体に直接触ることで感染します。ノロウイルス、ロタウイルスなどの感染性胃腸炎、RSウイルス感染症などが知られています。
飛沫感染と接触感染は、手から体に入り感染することがほとんどです。

鼻の下にワセリンを塗ったり、抗菌剤を置いてみたり、いろいろな予防法を聞きますが、効果はあるのですか?

除菌グッズに大きな効果を期待しない。手洗いは効果がある

回答:堀成美さん

よく除菌グッズの効果について聞かれますが、おすすめするほどの効果を期待できるものは、ほとんどありません。大きな効果を期待しないようにしましょう。
そんな中、「手洗い」は効果が期待できて、すぐに実践できる予防法です。病原体は、触れた手から口や鼻を通して体に入ってくることが多いので、手洗いの効果が大きいのです。石けんを使って手を洗うことが理想ですが、石けんがない場合は水だけでも洗いましょう。また、洗った後に手で髪を触れたり、手を服で拭いたりするのは清潔ではありません。きれいなハンカチやペーパータオルなどを使いましょう。


周りの人にうつさないためには?

集団生活の中で、周りの人にうつさないためにできることはありますか?

せき・くしゃみエチケットを身につける

回答:堀成美さん

周りの人に病原体をうつさないための「せき・くしゃみエチケット」を呼びかけています。大人であれば、せき・くしゃみのときに「ティッシュを口にあてる」「二の腕をあてる」「マスクをする」などがあります。でも、子どもはティッシュが間に合わなかったり、マスクを嫌がるなど難しいこともあります。

せきくしゃみエチケット

そのような場合は、次の3つの方法を身につけていきましょう。

せきくしゃみエチケット

・人がいなければ、後ろを向いてする
・しゃがんで地面に向かってする
・電車の中など周りに人がいて身動きできないときは、服の中にする

「服の中にする」は最終手段となりますが、いずれも人に向かってせきやくしゃみをしないことが大切です。


インフルエンザの予防接種は、家族みんなでしたほうがよい?

我が家は、1歳になる娘をはじめ、曽祖父母、祖父母、叔父、パパ、ママと4世代で暮らしています。これだけの人数がいるのですが、インフルエンザの予防接種を子どもだけでなく家族全員でしたほうがよいのでしょうか?
(1歳1か月の女の子をもつママより)

完全に予防するのは難しいが感染しても軽くすむ

回答:草川功さん

基本的に、予防接種により発症を完全に予防することは難しいといわれていますが、感染しても症状が軽くなります。
インフルエンザの予防接種は、生後6か月から受けることができますが、子どもが小さく外出が少ない場合は、きょうだいや親などの家族が予防接種をして病原体を家に持ち込まないようにしましょう。子どもが1歳を過ぎ外出が増えてきたら、子どもを含めて家族で予防接種を受けましょう。

家族が健康でいることも重要

回答:堀成美さん

感染症から子どもを守ることは大切ですが、家族が健康でいることも重要です。家族に高齢者や妊婦がいることもあります。子どもも大人も予防接種を受ける方がよいと思います。


感染症にならないために、冬のお出かけは控えた方がいいの?

私は出かけることが大好きで、息子が2か月の頃からよく外出しています。子どもも外に出るとごきげんです。そんな息子ですが、6か月のときにRSウイルスに感染しました。39度くらいの熱が1週間くらい続き、鼻水とたんも2週間くらい続いて毎日病院に連れて行きました。それから何度か39度くらいの熱がありました。もしかすると、発熱することが多いのは、お出かけが多いからでしょうか。親からも「出かけ過ぎではないのか?」と言われています。
感染症にかからないように、冬のお出かけは控えた方がよいのでしょうか?
(1歳1か月の男の子をもつママより)

外出することで病原体に接する確率は高くなる

回答:草川功さん

外出する場所によりますが、外出することで病原体に接する確率は高くなります。それだけ感染症にかかりやすくなると考えることもできます。

できるだけ感染しないように工夫する

回答:堀成美さん

外出するかしないか両極端に考えるのではなく、できるだけ感染しないように工夫してみましょう。例えば、人が少ない午前中の早い時間にお出かけする。人が混雑している時間帯より感染リスクは低くなると思います。
また、手洗いをすることも大切です。手洗いのタイミングについては、外から帰ってきたとき、食事の前、トイレの後の3つを覚えておきましょう。

感染症の予防に「うがい」もよいと思うのですが、うがいができない子はどうしたらよいでしょうか?

小さい子は、うがいができなくてよい。水分をとって口の中を清潔にする

回答:草川功さん

大人の場合は、うがいでかぜを少し予防するという研究結果がありますが、小さい子はうがいができなくても、無理に教える必要はありません。口の中が乾燥してしまうと清潔が保てなくなるので、水分を補うだけでも意味があります。空気が乾燥しているときは、適度に水分をとるようにしましょう。


外出時に気をつけることは?

その他に、お出かけするときに気をつけることはありますか?

感染症の流行情報や天気予報を確認する

回答:草川功さん

例えば、住んでいる地方自治体のホームページで「感染情報」を検索すれば、感染症の発生状況や前年との比較など、いろいろな情報を見ることができます。感染症の流行情報を把握しておくようにしましょう。
また、日常生活では天気も大事な情報です。天気予報を確認して、天気や気温によって服装を調整する。感染症の予防でなくても、寒いのに薄着で外出するとかぜのきっかけになることもあります。


感染症予防のための除菌は、どのくらいすればいいの?

幼稚園に通う娘が手足口病にかかり、当時5か月の息子にうつってしまいました。息子は手足口病の症状が治ったあとにRSウイルスにも感染して、とても苦しそうでした。
それからは、感染症の予防をしっかりするようにしています。口に入れるおもちゃは消毒液につけて除菌、キッチンや食卓・いすは毎日除菌スプレー、ママ・パパ・娘は帰ったら手洗いとうがい、かぜの季節はジェルで手を除菌します。外出時は除菌ジェルや抗菌シートなどを持ち歩いています。公衆トイレのおむつ台は汚れが気になり使いません。でも、多少の免疫をつけるために除菌のやり過ぎはよくないと聞いた事もあります。
感染症予防のための除菌は、どのくらいがちょうどいいのでしょうか。
(3歳11か月の女の子と7か月の男の子をもつママより)

除菌をするタイミングにメリハリをつける

回答:堀成美さん

家の中と家の外の2つで除菌を考えてみましょう。家の中は、家族だけしかいない限られた空間なので、神経質に除菌する必要はないと思います。家の外は、いろいろな人が使ったものがあるので、できる範囲で除菌してあげてもよいと思います。例えば、子どもが触りそうなものがあれば除菌シートで拭いてあげる。しかし、決して除菌しないと危ないわけではなく、子どもが触るものすべてを除菌するのは現実的ではありません。ですので、何を除菌するのかメリハリをつけるのもよいでしょう。例えば、おむつ替えの後は目に見えなくても汚れていると考えて、しっかり除菌して、ママやパパも手をきれいに洗うなどです。

除菌シートには、アルコールが入っているものと、入っていないものがあります。どちらがよく除菌できますか?

除菌シートはしっかり拭いて使う

回答:堀成美さん

どちらがよいとおすすめするほどの根拠はないので、どちらでもかまわないと思います。人によっては、アルコールでかぶれてしまうことがあるので、その点には気をつけましょう。きちんと除菌するためには、アルコールの有無より使い方のほうが大切です。除菌シートは軽くなでるのではなく、しっかり拭いて使うことが重要です。


かぜをひいたほうが、免疫ができて強い子になる?

かぜをひいたほうが、免疫ができて強い子になると聞いたことがあります。

重症化することもあるので、できるだけ予防した方がよい

回答:草川功さん

繰り返し病気になることで、体の負担となり、場合によっては障害が残るなど重症化するケースもあります。できるだけ予防した方がいいでしょう。免疫力や抵抗力を作るためには、健康状態を保つことが大切です。しっかり生活のリズムを整えて、食べて、寝て、遊んで体を動かしましょう。


お医者さんに病気がうつらないのはどうして?

お医者さんは、病院でいろいろな患者さんと接しているのに、どうして病気がうつらないのか不思議です。予防のポイントなどがあれば教えてください。子どもが病気のときに、親にうつらないために自分ができることがあれば知りたいです。

基本的な対策をしっかりする

回答:草川功さん

感染症を予防するために、受診時はマスクをつけ、触診後は手を洗い、適度に水分をとります。そういった、みなさんもやっているような基本的な対策をしっかりすることに尽きます。その他、大体の予防接種は受けています。

菌やウイルスが気になるときは利き手で触らない

回答:堀成美さん

職業病かもしれませんが、日常生活で使う手に気をつけています。私は右利きですが、菌やウイルスが気になる場所を右手で触らないようにしています。例えば、切符を買うために券売機を操作したり、ドアを開けたりするときには左手を使います。もちろん効果があるかどうかはわかりませんよ。


すくすくポイント
子どもは寒いと鼻水が出るのはどうして?

小さい子どもは、寒くなると鼻水がよく出ます。これはどうしてなのでしょうか?
鼻水が出るとかぜをひいたのではないかと心配してしまいますが、そうともいえないのです。

冷たい空気を温める

寒くて空気が冷たいとき、冷たい空気は、鼻を通ることで温かくなって肺に送られます。鼻の中で出た水分によって、適切な温度や湿度に調整されるのです。
このとき出た水分が鼻水になります。鼻水が出るからといって、必ずしもかぜをひいているわけではないのです。

鼻水が、かぜの原因になることも

でも、鼻水がかぜの原因になることもあります。鼻水で鼻が詰まると口呼吸になります。すると、ウイルスや細菌が直接体内に入ってきて、感染症にかかりやすくなるのです。

鼻水は出たら取り除くことが大切

鼻づまりは、寝付きが悪くなったり、おっぱいやミルクを飲むのが大変になったり、中耳炎にかかりやすくなるなど、困ることがたくさんあります。
中でも、濁った色の粘り気のある鼻水には注意が必要です。鼻の中の炎症がひどくなっているのです。「黄色い鼻水は治りかけ」といわれることがありますが、これは間違いなのです。

鼻水は感染症を予防することもありますが、鼻づまりにならないように出たらまめに取り除くことが大切です。自分で鼻がかめない小さいうちも、ひどくなる前に取り除いてあげましょう。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです