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子宮頸がんなど防ぐHPVワクチン 接種や診療ノウハウ共有する動きも

  • 2023年5月23日

子宮頸がんなどを防ぐためのHPVワクチンについて、厚生労働省が接種の積極的な呼びかけを再開してから約1年がたちました。

接種を行う医療機関の間では、安心してHPV ワクチンを受けられる環境作りをするため、接種や診療のノウハウを共有しようという動きがあります。その背景の1つに、HPVワクチンをめぐる苦い経験がありました(シリーズ「HPVワクチン」第2回)。

(首都圏局/ディレクター 竹前麻里子・齊藤翼)

HPVワクチン 医療機関の対応は

前回の記事ではHPVワクチンの効果や安全性について、漫画で解説しました。
HPVワクチンは子宮頸がんなどの予防に効果があり、厚生労働省や世界保健機関(WHO)が接種を推奨しています。日本では、小学6年生から高校1年生の女性が定期接種の対象になっており、無料で受けることができます。

HPVワクチンに限らず、ワクチンの接種においてリスクがゼロということはありません。接種後の腫れ、そして接種すること自体に伴う不安やストレスによってさまざまな症状が出たりすることもあり、WHOは「予防接種ストレス関連反応」として注意を促しています。

子宮頸がんワクチンを接種した後、気になる症状が出た場合に、適切な診療を受けられるようにしようと、国は「協力医療機関」を指定し、すべての都道府県で対応できる体制を作っています。

協力医療機関の1つ、愛知医科大学病院疼痛緩和外科・いたみセンターの牛田享宏教授たちは、安心して HPV ワクチンを受けられる環境作りをするため、診療のノウハウをマニュアル化し、医療機関への研修を行う取り組みをしています。その背景には、HPVワクチンをめぐる苦い経験があるといいます。

愛知医科大学病院 疼痛緩和外科・いたみセンター 牛田享宏教授
「HPVワクチンの接種が始まった当初は、接種後に症状が出た患者さんに対して、医師が自分の専門ではないとして、ほかの医師を紹介するといったことが繰り返され、患者さんがますます不安になる状況がみられました。

また2022年3月まで、8年あまりにわたって接種の積極的な呼びかけが中止されたため、協力医療機関でも接種後に症状が出た患者さんの診療を行った経験がない医師がいることも、課題になっています」

HPVワクチン 接種や診療のポイントは

牛田さんたちが作成したマニュアルには、医療機関がワクチンを接種する際に注意すべきポイントや、さまざまな症状が出たときの、診察や治療など具体的な方法・注意点などが載っています。

牛田さんが特に重要だと考えているのは、ワクチンを接種する人に対する、医師の姿勢です。診療マニュアルの一部を紹介します。

◯接種前の対応
・予診票では問題が記入されてなくても「何か聞いておきたいこと、不安に感じることはありませんか」と必ず質問する。
・接種について「数日間、注射部位の痛みや腫れ、赤み、発熱などがみられることがある」「体の痛みやしびれなどの異常が続くときは、接種医やかかりつけ医などに相談できる」ことなどを本人に確認する。
・本人の理解と納得が接種の大前提であるため、少しでも相反する様子が見受けられた場合、強引に接種を勧めるのではなく、説明や確認のため接種日を改める。

◯多様な症状が出た場合の対応
・接種した医師(Firstタッチ医)やかかりつけ医が問診・経過観察することが望ましい。
・患者が落ちついて話せるように長めの診療時間を確保し、一日の生活でどんな支障が出ているか、言えない(言語化できない)からこそ症状が出ている子どもがいることも念頭に置いて、具体的に確認する。
・全身を丁寧に診察し、本人と家族と所見を確認する。
精神的な問題を認める場合であっても「心因」という表現は用いない。
・患者・家族に寄り添って安心して治療ができる環境を作るように心がける。
・病態が悪化している場合、自分の施設で対応することが困難な場合は、協力医療機関へ速やかに紹介する。

「HPV ワクチン接種後に生じた症状に関する診療マニュアル」より

 牛田享宏教授
「ワクチンを打った医師、つまりファーストタッチ医が、その後の経過も含めて、責任を持って患者を見ていくことが重要です。研修会でも、ぜひそうしてほしいと話しています。

また『医師が触診もせずに、精神的な問題だと言うので傷ついた』という患者さんは少なくありません。このため『心因性』といった言葉を使わないようにしなければなりません。患者さんとの信頼関係を築くため、また、大きな病気を見逃さないために、触診などの診察や検査を丁寧に行うことも必要です」

牛田さんたちは、こうしたノウハウを医療関係者に伝えるための研修会やキャンペーンを、継続的にやっていきたいと考えています。

接種後に気になる症状が出たら…

HPVワクチンの接種後に気になる症状が生じた際は、まずは接種を行った医師や、かかりつけの医師に相談し、受診を検討してください。

HPVワクチン接種後の症状に対する治療を行うために設置されている「協力医療機関」の受診については、接種を行った医師、またはかかりつけの医師に相談をしてください。協力医療機関は厚生労働省のホームページで確認できます。

「ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状の診療に係る協力医療機関について」(※NHKのページを離れます)

厚生労働省 感染症・予防接種相談窓口
電話番号 0120-331-453
受付日時 午前9時~午後5時 (土日祝日 年末年始を除く)

  • 竹前麻里子

    首都圏局 ディレクター

    竹前麻里子

    2008年入局。旭川局、おはよう日本、クローズアップ現代などを経て2021年より首都圏局。医療、労働、性暴力の取材や、デジタル展開を担当。

  • 齊藤 翼

    首都圏局 ディレクター

    齊藤 翼

    2004年入局。福島局、仙台局、おはよう日本などを経て2020年より首都圏局。震災、教育、福祉の取材やニュース企画制作を担当。

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