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届け、声なき声 摂食嚥下障害の子どもたちの願い“一緒に食事を”

  • 2022年5月11日

食べ物をかんだり飲み込んだりする力が弱い「摂食嚥下(えんげ)障害」の子どもたち。高齢者に多い障害だと思われがちで、こうした子どもたちの存在はあまり知られていません。そのため「食事をしているだけで、じろじろ見られる」「家族みんなでお祝いの外食がしたかったのに店に利用を断られ、障害のある子どもと母親だけ帰宅した」という人もいます。
“みんなで一緒に食事を楽しみたい”
少しの気持ちや、少しの工夫で、子どもたちの願いをかなえませんか?
(首都圏局/記者 石川由季)

食についての悩みやご意見をこちらの投稿フォームにお寄せください。

食べるのが大好きな“摂食嚥下障害”の女の子

千葉県に住む、中学1年生の加藤真心(まこ)さん。笑顔が印象的な真心さんは、生まれて間もなく、進行性の難病「筋ジストロフィー」と診断されました。
徐々に筋力が衰えていく病気で、かんだり飲み込んだりする力も少しずつ弱まり「摂食嚥下障害」が進んでいます。例えば、小さな頃にはきゅうりをそのまま丸かじりできていましたが、今は難しくなっています。「胃ろう」で食事をとることもあるといいます。

3歳くらいのころの真心さん

でも、真心さんは食べることが大好き。
「好きな食べ物は何ですか?」と尋ねると「ギョーザ!」「カレー!」「ラーメン!」と次々に大好きなメニューを教えてくれました。

日々の食事は「普通食」をそのまま食べることはできないため、小さく切ったり柔らかくしたりしたものなどを食べています。
特別支援学校の給食の時間にも、小さく切ってもらったポトフなどを先生に食べさせてもらい、一口食べるごとに、うれしそうに知らせていました。

真心さんの担任の先生

元気な楽しい生徒さんで、お友達や先生とのコミュニケーションが大好きです。食べることも好きで、好きな食べ物だとすごくニコニコして食べたりとか、対話を楽しみながら食べたりしています。

広く知られていない 子どもの摂食嚥下障害

高齢者の障害と思われがちな“摂食嚥下障害”ですが、子どもの当事者も決して少なくはありません。
胃ろうなど、日々の生活で医療的ケアが欠かせない子どもの数はおよそ1万9000人いると推計されていて、近年、医療技術の発展などに伴い、増加傾向にあります。

ペースト状にした食事を口からゆっくり食べる子もいれば、鼻のチューブや胃ろうを使って食事をする子もいます。ペースト状の食事は「ミキサー食」などと言われ、家族と同じおかずやご飯をミキサーを使って食べやすく加工したものです。体重の低下が抑えられたり、体調が改善したりする効果もあると言われ、何より家族と同じメニューの味や香りを楽しむことができます。
しかし、障害のある子どもたちはそもそも「外出」のハードルが高く、こうした子どもたちが食事をしている場面を見かけることは少ないと思います。

取材を進めると、こうした子どもたちへの社会の理解や支援が十分ではないと思われるケースが多数聞こえてきました。

「ミキサー食」を食べている息子と旅行に行きました。
私たち家族は温かい食事ですが、息子は持ち込んだレトルトの冷たいごはんで、なんだか切なくなりました。ホテルからは「他の人の目が気になるようでしたら、パーテーションなどをご用意いたしましょうか?」と言われ「そんなつもりさらさらない。ほかの人の目が気になる?そんなわけないでしょ」と心の中で叫びました。私は息子を隠したいとか恥ずかしいと思ったことは、1度もないので、そんなふうに言われてしまうことがすごく悲しかったです。

家族4人で、お祝いの外食を計画しました。
でも、障害のある子が食べるレトルトの食品の持ち込みを店から断られてしまい、きょうだいはパパと2人で店で食事、ママと摂食嚥下障害のある子どもは自宅に帰って2人で食事。ハレの日でも、家族が一緒に食事ができませんでした。

“家族や友だちと、みんなで同じものを、一緒に食べたい”

真心さん自身も、成長するにつれ、食事について訴えてくることが増えてきました。家族や友達と同じ食器を使いたい、同じメニューを食べたいと伝えてくるのです。自宅に取材に行ったこの日も、父親が食べているフライドチキンをほしがっていました。でも、肉の固い部分をそのまま真心さんが食べることは難しいのが現状です。
「家族や友だちと、みんなで同じものを、“一緒に”食べたい」
そんな真心さんの願いを叶えたいと、母親のさくらさんも、日々の食事を工夫します。

丸かじりが難しくなったきゅうりも、見た目は変えずに、細かな切り込みを入れることでかみやすくして一緒に楽しめるようにしています。また、フライドチキンは食材を柔らかくすることができる調理家電を使います。特殊なカッターを使って繊維を断ちきるなどして家電の鍋に入れると20分ほどで、フライドチキンが真心さんでも食べられるほどの柔らかさになりました。見た目も、ほとんど同じです。

真心さんとさくらさんは、同じ思いを持つ家族たちとサイトを立ち上げました。サイトの名前は「スナック都ろ美(とろみ)」
ふらっと立ち寄って悩みを気軽に吐き出せる場にしたいと命名しました。「都ろ美」は、障害があっても食べやすいものが、「とろみ」のあるものであることからきています。

WEB上で、利用しやすい飲食店の情報を共有したり、障害の有無にかかわらず、おいしく食べられる商品の情報を発信しているほか、子どもたちの食事の悩みも共有します。

(左)普通食 (右)店にブレンダーを借りて加工したペースト状の食事

例えばこちらは都内のカフェで食べることができるハンバーグプレートです。
左は普通食、右は店にブレンダーを借りて加工したペースト状の食事。調理器具や加工に必要なお湯などを借りることができるため、手ぶらで行っても家族と同じ食事を楽しむことができます。

こちらの一見、普通のカステラ。
素材に寒天を使っていて、しっとりと舌の上で溶けていくような食感が特徴です。
嚥下障害のある人でも食べられるよう、医療関係者やカステラ職人などがアイデアを出し合い作られたカステラです。障害の有無に関わらずおいしく楽しむことができると、真心さんとさくらさんが商品を紹介すると、次々に「食べてみました!」と子どもたちの写真が集まりました。

真心さんとさくらさんたちは、ほかにも大手飲食チェーンや菓子メーカーなどに協力を呼びかけるなど、子どもたちの声なき声を社会へ届けたいと考えています。

メニューはなくても…ウエルカムな雰囲気を

企業などの取り組みが少しずつ進む一方、母親のさくらさんは「こうした子どもたちの存在を知ってもらうことだけでも、大きな1歩になる」と話します。

母親 さくらさん
「どこの店にも商品を作ってくださいって、言っているわけではなくて。気持ち、ソフト面ってよく言いますけど、食べられるメニューがなくても『どんな方が来てもウエルカムですよ』っていうひと言があるだけで全然違う。娘たちのような重度の障害のある子たちの、声にならない声かもしれないですけど、本当においしいもの食べた時の目、きらきらするような、ああいう輝きが伝わってほしい」

取材後記

真心さんに話を聞く記者

「真心の気持ちを100%代弁できているかは分からないけれど…」
母親のさくらさんは、そう言いながら、ふだん、真心さんたち摂食嚥下障害の子どもたちが置かれている状況についてお話を聞かせてくれました。
「子どもに障害があっても、“普通に子育て”ができる社会にしたい」
摂食嚥下障害のある子どもは、心身に重度の障害を抱えている場合も多く、困難さを伴うのは食事だけではありません。医療的ケア児をめぐっては、国や自治体に必要な対策を求める法律が施行されましたが、まだまだ支援が十分に行き届いているとは言いがたい状況です。
どんな障害があっても、当たり前のように、大切な人たちと一緒に食事が楽しめる世の中になるように。
社会の側にある“障害”をなくしていけるよう、これからも取材を続けたいと思います。

 

記事で紹介したサービスや商品はこちら
・「スナック都ろ美」 https://snack-toromi.com/
・なめらかすてら https://yumecastella.com/castella
・調理器具を貸し出してくれるカフェ https://dawn2021.orylab.com/guideline/

  • 石川由季

    首都圏局 記者

    石川由季

    2012年入局。大津局、宇都宮局を経て、首都圏局。 真心さんと同じ、ラーメン、ギョーザ、大好き。

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