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宇都宮市のLRTなぜ整備 計画と狙いは 路面電車開業は国内で75年ぶり

  • 2023年8月28日

宇都宮市と隣の芳賀町を結ぶLRT=次世代型路面電車が開業しました。新しい路面電車の開業は国内では75年ぶりです。少子高齢化や中心市街地の空洞化が進む宇都宮市は、LRTを軸としたまちづくりで都市の再生を目指そうとしています。整備の狙い、採算や今後の計画、さらに課題などについて専門家の見方とあわせて詳しくまとめました。

構想30年 宇都宮市~芳賀町にLRT

LRT=次世代型路面電車は、宇都宮市などが構想から30年をかけて導入するもので、JR宇都宮駅の東口と隣接する芳賀町の工業団地の、14.6キロの区間を結びます。すべての線路を新しく建設したLRTは全国で初めてで、新しい路面電車の開業は国内で75年ぶりです。

LRTの利点は

LRTとは、英語の「Light Rail Transit」の略称です。従来の路面電車よりも床が低く、振動や騒音を抑えた新しいタイプの公共交通システムです。バリアフリーで定時制にすぐれているとされています。
バスより多くの乗客を一度に運べることから、欧米の都市部では数多く見られ、国内では富山市などで導入されています。

宇都宮市の狙い コンパクトシティー

LRTの整備にあたり、宇都宮市は「ネットワーク型コンパクトシティー」という構想の実現を目指しています。

まず、いくつかの人が集まりやすい「拠点」を設けて、LRTで結びます。新幹線の駅がある「都市の中心部」、商業施設や住宅が立ち並ぶ「地域の拠点」、大規模な工業団地が立地する「産業の拠点」など、それぞれの停留場を中心に、従来のバス路線も大幅に見直します。

沿線を軸に「コンパクトなまちづくり」を進めることで、車だけに頼らず、誰もが移動しやすいまちにしようとする狙いです。

進む開発 沿線では新たに小学校開校も

LRTの沿線地域では、開業に先立って高層ビルや住宅地の開発が進んでいます。宇都宮市によりますと、沿線の人口は、LRTを整備するおおまかな区間が決まった年の前年から、おととしまでの10年間で、およそ4100人あまり、率にして7%増加しているということです。

このうち、LRTの停留場が3つ設置される宇都宮市郊外の「ゆいの杜」地区では、住宅地が急速に開発され、おととしには市内で26年ぶりとなる小学校も開校しました。

LRTの可能性や課題は

都市の公共交通に詳しい関西大学の宇都宮浄人教授によりますと、路面電車を中心としたまちづくりは、欧米などでは環境に優しい面などが評価され、1990年代から急速に普及した一方、国内ではあまり受け入れられなかったということです。

〇欧米と国内の違い
欧米の鉄道は、公共交通機関として公費で支えられるのが普通だが日本の鉄道は単独の収支で評価され、利益を出さなければいけないという固定概念がある。さらに地方では、車中心の社会が容認されているため、新たな鉄道事業は批判を受けやすい。

〇開業の評価
車に依存しなくてもすむ持続可能なまちづくりの事業として高く評価している。宇都宮市の場合、10人中1人が車からLRTに乗り換えれば、公共交通機関の利用者は2倍になると見込まれる。取り組みを長い目で見守る必要があるが、地方都市の姿を変えていく1つのツールになる。

〇今後の課題
まちづくりの効果を発揮するためには、まちの中心となっている宇都宮駅の西側に延伸させることが重要だ。地元のバス路線を再編したり、パークアンドライドの施設を整備したりして、LRTとの接続の強化が求められる。

“開業初年度から黒字” 延伸計画も

宇都宮市は、通勤客を中心に、平日は1日1万6300人あまり、休日は5600人あまりの利用者を見込んでいて、開業初年度から黒字になると試算しています。
宇都宮市は今後、LRTをさらに西側に延伸する計画を進めていて、2026年に工事を始め、2030年代前半に開業を目指す計画です。

安全の確保など課題は

人口減少や少子高齢化が進む中でLRTによってコンパクトなまちづくりを進められるか注目される一方、去年11月に起きた試運転中の脱線事故を受けて安全対策を強化していて、乗客の安全や歩行者や車との事故を防ぐ対策が重要な課題になります。

また栃木県は一世帯あたりの車の保有台数が全国で5番目に多いため、「利用者は増えず、無駄な投資になる」という批判も、根強くあります。

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