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原発の処理水 海洋放出 東京都内の料理店や豊洲市場の仲卸会社などの受け止めは?

  • 2023年8月24日

事故の発生から12年余りを経て、懸案となってきた福島第一原子力発電所にたまるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水。東京電力は、政府の方針に基づき、基準を下回る濃度に薄めた上で、24日、海への放出を始めました。

放出の完了には30年程度という長期間が見込まれ、安全性の確保と風評被害への対策が課題となります。

東京都内の鮮魚店や料理店、それに豊洲市場の仲卸会社などからは様々な意見が聞かれました。

東京電力 処理水の海洋放出 開始

福島第一原発では、事故の直後から発生している汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含む処理水が1000基余りのタンクに保管され、容量の98%にあたる134万トンに上っています。

政府は22日、関係閣僚会議で、基準を下回る濃度に薄めた上で、24日にも海への放出を開始することを決めました。これを受けて東京電力は放出に向けた準備作業を始め、大量の海水と混ぜ合わせた処理水を「立て坑」と呼ばれる設備にためた上で、トリチウムの濃度を確認していました。

分析の結果、トリチウムの濃度は1リットルあたり43から63ベクレルと、国の基準の6万ベクレルを大きく下回り、放出の基準として自主的に設けた1500ベクレルも下回っていて、想定どおり薄められていることが確認できたということです。

処理水の海洋放出を始めた東京電力福島第一原発 (撮影 8月24日午後1時7分)

モニタリングを行う船を出すための気象条件にも問題はないとして、東京電力は24日午後1時3分に海への放出を始めました。

放出作業は、原発内の免震重要棟という施設にある集中監視室で、作業員が画面を操作してポンプを動かし、処理水を海水と混ぜた上で「立て坑」に流し込みます。そして、「立て坑」からあふれ出ると、沖合1キロの放出口につながる海底トンネルに流れ込んで海に放出されます。

最初となる今回の放出は7800トンの処理水を海水で薄めた上で17日間の予定で連続して行うとしていて今年度全体の放出量はタンクおよそ30基分の3万1200トンを予定しているということです。

ただ、処理水が増える原因である汚染水の発生を止められていないことや、一度に大量の処理水を放出できないことから、放出期間は30年程度に及ぶ見込みで、長期にわたって安全性を確保していくことが重要な課題になります。

豊洲の仲卸会社 “香港の取引先から出荷中止の連絡”

処理水の海への放出をめぐって、東京の豊洲市場にある水産物の仲卸会社には23日夜、香港の取引先から出荷をとりやめてほしいと連絡が入り、会社は影響の広がりを懸念しています。

東京・江東区の豊洲市場から20あまりの国や地域に水産物を輸出している仲卸会社は、ウニやキンメダイ、ノドグロといった高級品を香港やマカオに輸出しています。

しかし、処理水の放出を前にした23日夜、20年近く取り引きしている香港の飲食チェーンから、24日予定していた出荷をとりやめてほしいと連絡が入ったということです。

香港政府は東京や福島など10の都県の水産物について、24日から輸入を禁止するとしています。

取引先からは現地の輸入規制の運用に不透明な部分があり、規制の対象となっていない地域の水産物も含めて、確実に入荷できる見通しが立たないと伝えられたということです。

この仲卸会社はおよそ500万円分の水産物をすでに仕入れていたことから急きょ、代わりの出荷先を探すなどの対応に追われ、仕入れ値を下回る価格での取り引きを余儀なくされたということです。

仲卸会社「山治」の山崎康弘 社長
「風評による実害がまさかきょうのきょう、出るとは思っておらず困っている。処理水の放出についての政府の説明には納得していたが、実際に実害が出た以上、理解とは別の問題だ。仕入れの支払いも迫っているので、東京電力や政府には、実害をどうケアするのか、丁寧に説明してもらいたい」

風評被害を懸念も “不安払しょくに取り組む”

福島県産の魚を扱う都内の鮮魚料理店は、風評被害による売り上げへの影響を懸念する一方で、「検査や安全性について答えられるように知識をつけておきたい」と不安を払しょくできるよう取り組み続ける考えです。

東京・北区で鮮魚料理店を営む佐藤修さんは、福島県産の魚の質が高いことから、ふだんから福島県産を含む各地の魚を仕入れて料理を提供しています。

かつて不安を口にする客もいて福島県産を敬遠していた時期もありましたが、4年前、取引先の紹介で福島県の漁港を訪問したのがきっかけで、福島県産を扱おうと意識が変わったといいます。

福島の人たちが厳しい基準を設けて水揚げされた魚を検査する様子を見て、魚の質が高いだけでなく、ほかの産地以上に安全だと判断したということです。

24日は、市場に福島県産の魚の入荷が無かったため、別の産地の魚を使って弁当を作っていました。

鮮魚料理店「魚修」の店主の佐藤さんは、次のように風評被害への懸念を示しました。

鮮魚料理店「魚修」の店主 佐藤修さん
「福島産は食べないという客は今はいないが、今後、そういう客が来たら考えないといけない。魚全般が控えられて売り上げが落ちてしまうと、客の反応を見ながら対応を考えていきたい」

その上で、不安を払しょくできるよう取り組み続ける考えです。

佐藤さん
「福島で今どういうことが起き、どういう検査をしているか、客から質問があったらきちんと答えられるよう検査や安全性について知識をつけておきたい」

弁当を買った女性
「店主がいろんなことを調べて使っている魚なので、信頼してお店に来ています。どこが産地かは特に気にしてないです」

常連客の男性
「逆に応援したいという気持ちがあるので、福島産のものがあれば選んで食べていきたいです」

銚子市の漁港では…

また、水揚げ量日本一の千葉県銚子市の漁港では、風評被害による価格の下落が起きないか懸念する声などが聞かれました。

24日朝の銚子漁港は、キンメダイやイセエビなどが水揚げされ、漁から戻ってきた漁業者や仲買人などでにぎわいました。

漁業者たちは次のように話していました。

イセエビやヒラメを水揚げした漁業者
「処理水の放出が決まった影響なのか、私が水揚げしたものはきのうから卸価格が3割ほど安くなってしまいました。旬でもあり高く売れる時期だけに、なぜこの時期に決定したのかと思います」

キンメダイを専門に漁をする漁業者
「安全性が確保されていると言っても、どうしても風評被害は出てしまうのではないでしょうか。せっかく釣ってきた魚が安くなってしまっては、やる気が起きなくなります」

魚の買い付けに訪れた仲買人
「放出は仕方のないことだと思うが、しっかり検査をして、今までと変わらず安全なんだということを何らかのかたちで証明してほしい。そうすれば、胸を張って売ることができます」

“福島産の魚のおいしさをお客様に”

一方、都内で鮮魚店など9店舗を運営する食品流通会社は、検査で問題がなければこれまでどおり、福島県産の海産物の販売を続けるとしています。

都内で鮮魚店など9店舗を運営する食品流通会社は、2019年から福島県産の海産物を現地から仕入れて販売していて、このうち目黒区にある店舗では23日、福島県沖で水揚げされたヒラメやタイが販売されていました。

親潮と黒潮がぶつかるプランクトンが豊富な海で育った福島県産の魚は味がよく、客からも好評だということで、この会社では福島第一原発にたまる処理水が薄められて海に放出されたあとも、検査で問題がなければ販売を続けることにしています。
 

食品流通会社「フーディソン」 山本久美恵さん
「今後も変わらず、基準値を下回った魚は取り扱いを続け、福島県産の魚のおいしさをお客様に伝えることで漁業者の力になっていきたい」

専門家 “買ってくれると自信をもって生産を”

風評の問題に詳しい筑波大学の五十嵐泰正教授は、風評被害を抑えるためのポイントとして次のように述べています。

筑波大学 五十嵐泰正 教授
「風評被害は、起こると思うと現実に起こってしまうという性質を持っている。流通業者が『消費者や小売業者が買わなくなる』と思えば、萎縮してしまって、その産地の水産物が流通のルートに乗ってこなくなる。消費者の間では、処理水やトリチウムに関してはだいぶ浸透してきた部分もあるので、科学的な判断で冷静に購買行動を続けてもらいたい」

 また、漁業者など生産者側に対しては、次のように話しています。

五十嵐 教授
「消費者が買ってくれないかもしれないと思って生産量を下げると、加速度的に流通構造の中から閉め出されてしまう。よいものを検査して出すのであれば消費者は買ってくれると、自信をもって生産を続けてほしいし、国もそれをしっかり守っていく姿勢を示し続けてほしい」

その上で、国の情報発信については、次のように指摘しました。

五十嵐 教授
「科学的な安全性を示す上で、事実を伝えることに加えてもう一つ大事なのは発信する主体が信頼されているかどうかだ。政府への信頼感がなければ、どんなに正しい情報でも伝わらなくなってしまう。信頼醸成に正解はなく、丁寧に理解を求めていくしかない」

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