ひるまえほっと

  • 2023年12月4日

中江有里のブックレビュー「書く」とは何か問いかける4冊

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本を読むときは「読む」ことに着目しがちだが、「読むこと」と「書くこと」は実はつながっている。 
書かれたものがあるから読むことができる。読む人がいるから書く。そして、書いたものは残るから未来へつながる。共通点はどちらも対話。 
読むことは、作者との対話であり、自分との対話であり、過去との対話。書くことは自分との対話であり、未来との対話かもしれない。 
「書く」ことにはさまざまな意味がある。書くとは一体どういうことなのか、改めて考えさせられる4冊をご紹介する。

【番組で紹介した本】

『さみしい夜にはペンを持て』 
著者:古賀史健 
絵:ならの 
出版社:ポプラ社

Yuri’s Point 
うみのなか中学校に通うタコジローは、学校にも居場所がなく、自分のことが大嫌い。ある日、不思議なヤドカリおじさんと出会ったタコジローは、日記を書くことを勧められ、その日からどんどん変わっていく。 
「書くことは、自分という最大の謎を読み解く作業」鏡を見ても自分のことはわからない。でも、自分の考えていることを言語化して把握すると周りに振り回されなくなる。ふいに誰かに何かを言われても、傷ついたり自分を卑下したりする必要はないと思える。書くことで、ぶれない自分を手に入れることができる。 
この本は、書くことの具体的な方法を示しつつ、書くことに躊躇(ちゅうちょ)している人の背中をそっと押してくれる本だと思う。

『存在を抱く』 
著者:村田喜代子・木下晋 
出版社:藤原書店

Yuri’s Point 
作家村田喜代子さんと画家木下晋さんの対談集。 
冒頭から読む側を飲み込むような迫力。村田さんが木下さんの天井画について鋭い批評をされたことがきっかけで二人の交流は始まっている。文章を書くこと、絵を描くこと、どちらも自分を深く掘っていくような行為だが、二人の対談はさらに相手の深い部分を探っていく。夫婦関係、創作をすること、戦争体験と多岐にわたる。人と話すことで自分を解き明かしていく、芸術家同士の対談は、言葉の合作とも言えるかもしれない。

『逃げ道』 
著者:ナオミ・イシグロ 
訳:竹内要江 
出版社:早川書房

Yuri’s Point 
イギリスの新鋭作家のデビュー短篇集。 
収録された作品のほとんどは、男性あるいは男の子が主人公。多くは「男らしさ」から解き放たれて、一人の人間として生きようとする姿が描かれている。 
冒頭の「魔法使いたち」は、魔法使いに憧れる空想好きの少年が、魔法使いのようないでたちの占い師と出会う。二人の視点で語られる物語は思いがけない出来事へとつながっていく。息苦しい日常にふとあらわれる非常口のような逃げ道。本を読むことも逃げ道だ、と思った。

『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く源氏物語~』 
著者:奥山景布子 
出版社:集英社

Yuri’s Point 
「フェミニズム」「ジェンダー」「ホモソーシャル」「おひとりさま」「ルッキズム」など、現代に通じるキーワードを切り口に「源氏物語」を読み解いたエッセイ。 
書くことは、時代を超えて伝えること。自分たちの思いを言葉にして残すことで、未来へバトンを渡す精神のリレー。源氏物語に出てくる女性は悲しい宿命の中で生きている人が多い。でも、そういう生き方をしたという証が、紫式部自身のことも含め、ここに刻まれている気がする。 
源氏物語には、現代にも通じる問題、振り返るべきテーマがたくさんある。それは、1000年たっても結局人間の根本は変わらないということなのかもしれない。でも、変わらないからこそ、人間はまた自分を探して何かを書き続け、未来に託すのかもしれない。

 

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【案内人】 
☆俳優・作家・歌手 中江有里さん

1973年大阪生まれ。1989年芸能界デビュー。 
数多くのTVドラマ、映画に出演。02年「納豆ウドン」で第23回「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞受賞。NHK-BS『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』、『風の歌が聴きたい』などに出演。 
近著に『万葉と沙羅』(文藝春秋)、『残りものには、過去がある』(新潮文庫)、『水の月』(潮出版社)など。 
文化庁文化審議会委員。2019年より歌手活動再開。

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