ひるまえほっと

  • 2023年4月10日

中江有里ブックレビュー “普通”って何?問いかける4冊

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わたしの“普通”は、ほかの人の“普通”でないのはよくあること。 
それなのに人は“普通”という言葉にとらわれ、視野がどんどん狭くなり、不自由になる。 
人々を縛る“普通”とは一体何なのか?そんなことを考えさせてくれる4冊をご紹介する。

【番組で紹介した本】

『父ではありませんが 第三者として考える』 
著者:武田砂鉄 
出版社:集英社

Yuri’s Point 
「父とは」「母とは」「家族とは」といった当事者の語りに、そうでない者はどう考えればいいのか。当事者でない、第三者の視点で考察した随筆。「父ではない」著者は、世の中における「子どもを持つ、持たない」で他人と比較するケースの多さとともに「正しい家族」「家族のあり方」が勝手に世間で作られているのでは、と指摘する。 
普通の家族の「普通」とは一体何なのか。「普通」の意味を定めることは、普通ではない第三者だけでなく、当事者をも苦しめているように思った。

『他人の家』 
著者:ソン・ウォンピョン 
訳:吉原育子 
出版社:祥伝社

Yuri’s Point 
ミステリー、近未来SF、さまざまなタイプの8篇の短編が収められた一冊。主な舞台は「家」。プライベート空間である「家」に「他人」が入り込んだ途端、そこは落ち着ける場所ではなくなる。離婚寸前の夫婦、シェアハウスに暮らす人々、父親を殺そうと計画している子供たち……たとえ血縁であっても、自分以外の人間はすべて「他人」。他人との生活を送る「家」は、外からは決してわからない顔をしている。理想の家を見つけるのは、自分だけの居場所を探すのと同じことかもしれない。

『うけいれるには』 
著者:クララ・デュポン=モノ 
訳:松本百合子 
出版社:早川書房

舞台はフランス、セヴェンヌ地方。両親、長男、長女。幸せな家庭に待望の第3子が生まれたが、成長するにつれ、彼に重度の障害があることがわかる。弟の世話にのめり込んでいく長男。弟の存在に徹底的に反抗する長女。障がいのある子どもが生まれた家庭の葛藤を、庭の石の視点から克明に描いた小説。

Yuri’s Point 
障害がある子どもがいれば、ケアはどうしてもその子に偏りがちになる。“普通”の子どもは意外と大人の都合を受け止めて我慢できるが、実は傷ついている。長男と比べれば長女は反抗したかもしれないが、十分我慢してきた。長女はだれよりも“普通の家庭”を求めていたから、よけい苦しかったのかもしれない。でも誰もが思う“普通の家庭”なんて、実はどこにもない。 
長女自身が“普通”にとらわれたことが、より長女を苦しめてしまったのかもしれない。 
この話はみんな傷ついて、大変な思いをして、大きな波乱を超えた中で安定していく、そんな一家族の物語。“普通の”家族ではないかもしれないが、最後まで読み終えたとき、すごく大きな愛情とあたたかさを感じた。

『私のものではない国で』 
著者:温又柔 
出版社:中央公論新社

「安心して。名まえさえ言わなければ、だれもあなたをガイジンとは思わない」 
3歳で台湾から日本に移り住んだ著者が、日常で味わった小さな違和感からアイデンティティをめぐる問題などをつづる、日本の“ふつう”をやわらかにゆすぶるエッセイ集。

Yuri’s Point 
日本に生まれて日本で育って日本語を話してという多くの日本人を真ん中と仮定するならば、温さんは周辺からそれを見ている。 
小学生の頃は、それを逆手にとって、ここぞとばかりに中国語で数を数えて特別感を演出したり、でもやりすぎて傲慢だと言われ、軌道修正したり、周囲の反応を敏感に感じながら自分が日本社会で生きるすべを見出していく。 
自分が真ん中にいると見えないことはたくさんある。これはきっと差別や区別に繋がっていく。日本のど真ん中にいない温さんだからこそ見える日本があって、それを知ることは、物事をより立体的に見せてくれる、やわらかいけど、するどいエッセイだと思う。

 

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【案内人】 
☆俳優・作家・歌手 中江有里さん

1973年大阪生まれ。1989年芸能界デビュー。 
数多くのTVドラマ、映画に出演。02年「納豆ウドン」で第23回「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞受賞。NHK-BS『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』、『風の歌が聴きたい』などに出演。 
近著に『万葉と沙羅』(文藝春秋)、『残りものには、過去がある』(新潮文庫)、『水の月』(潮出版社)など。 
文化庁文化審議会委員。2019年より歌手活動再開。

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