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【解説】リニア開業後に新幹線停車が1.5倍…静岡へのメリットは?

NHKたっぷり静岡10月24日放送
  • 2023年10月25日

静岡県が着工を求めていないリニア中央新幹線を巡り、国土交通省は今月20日、リニアの開業で、東海道新幹線の県内の駅での停車回数を1.5倍に増やした場合、1600億円あまりの経済効果が生まれるという試算をまとめました。環境保全の問題などで県とJRのリニア協議が進まない中、この試算の裏側にどんな意味があったのか。取材した記者とキャスターの質疑を通して、深掘りします。(静岡局記者・仲田萌重子)

国の調査は静岡へのメリットを伝えるメッセージ

(記者)
リニアが開業した場合、静岡にどんなメリットがあると思いますか?

(キャスター)
リニアが通るルートは南アルプスの山の中ですし…駅もできないですよね。

(記者)
今回の国の調査は、そんな静岡の人たちにとっての「リニアのメリット」を伝えるメッセージが含まれているんです。経緯を振り返ります。

(記者)JR東海は、国が着工を認可した2014年よりも前から、リニアの開業で静岡県内で停車する「ひかり」や「こだま」の運転本数や停車回数を増やすことができるとしていたんですが、ご存じのように、川勝知事を始め静岡県がトンネル工事の着工を認めなかったことから、県内の着工の見通しは立たないままです。
この状況を打開しようと、岸田総理大臣がことし1月の年頭会見で次のように述べたのです。

(岸田総理大臣・1月4日の年頭会見)
「全線開業に向け、大きな1歩を踏み出す年にしたい。リニア開業後の東海道新幹線における静岡県内の駅などの停車頻度の増加について、ことし夏をめどに一定の取りまとめを行い、関係者に丁寧な説明を行っていきたい」

(キャスター)
その調査結果が10か月たってようやく公表されたんですね。詳しく教えてください。

(記者)
ポイントは2つです。

1つは「停車回数の増加」。もう1つは「その経済効果」です。

開業すれば、静岡駅で1日27本増か

(記者)
まず1つめの停車回数です。リニアの開業で、東京から名古屋または大阪まで直行する新幹線の需要は3割程度減少します。これで輸送力に余裕ができ、静岡県内の駅に停車する回数を今の1.5倍に増やせるということなんです。

(記者)仮に新幹線が1.5倍多く停車すると、1日あたり、「ひかり」と「こだま」の平均で静岡駅で27本増えて現在の53本から80本、浜松駅で25本増えて49本から74本、三島駅で44本から66本、熱海駅で40本から60本、新富士駅と掛川駅で33本から50本となります。ただし「ひかり」が1時間に2本になるのかなど、「ひかり」「こだま」ともに本数は明確にしていません。国は、これで「利便性が向上する」と強調しています。

経済効果は10年で1600億円あまり

(記者)もう1つのポイントの経済効果です。停車回数が増えることで、県外からの来訪者は年間67万人、県内での新幹線利用者も年間で71万人、それぞれ増える見通しです。

(記者)この経済効果は東京ー大阪間の全面開通予定の2037年から2046年までの10年間で1679億円に上るとしています。ただこの効果はあくまで試算であって、実際にこのダイヤで運行するかどうかはJR東海が判断します。

県内では、歓迎の声のほか具体性求める声も
 

(キャスター)
10年で1600億、1年でおよそ160億円。この効果、県内の自治体の受け止めはどうでしょうか。

(記者)
まず新幹線の駅がある自治体のうち、静岡市の難波市長は「大きな経済効果をもたらす可能性がある」。浜松市の中野市長も「交流人口の拡大につながる可能性がある」。掛川市の久保田市長は「市民の利便性や市への来訪者が増えることも期待」などおおむね歓迎の声が聞かれました。

一方、リニアの水資源問題の議論が続いている大井川流域では、より踏み込んだ結果を求める声もありました。島田市の染谷市長は、「ひかりの停車が1時間に2本になるなど具体的な調査結果を示してほしかった」。牧之原市の杉本市長は「本来、JR東海が工事の認可の時に示すべき」などと指摘しています。

川勝知事は…「小学生でもできる計算でお粗末」と切り捨て

(キャスター)
そして一番に気になるのが川勝知事の反応ですね。

(記者)
川勝知事はさきほどの岸田総理大臣のことし1月の発言のあと、総理に対し、県内に停まる「ひかり」や「こだま」の本数、リニアの運賃や本数、人口減少の中でのリニア開業のメリットなど多岐にわたる情報の提示を求める文書を送っていました。ですので、定例会見では、不満をあらわにしました。

(川勝知事・今月23日の定例会見)
「1時間に2回停車するなら、1.5倍かけると3回。このかけ算は小学生でもできる。国が計算を10か月かけてやったことはお粗末であきれている」

 “メリット” 本当に伝わった?

(キャスター)
いつも以上に厳しい批判に聞こえました。今回の結果は、県とJRの議論に影響するのでしょうか。

(記者)
はい。調査結果を受けて、JR東海は「今回の結果を参考にしながら便利なダイヤを検討していきたい」とコメントしています。一方、現時点で、開業後の新幹線のダイヤはもちろん、リニア自体のダイヤも決まっておらず、今回の仮の試算によって、膠着状態にある県とJRの議論が進展するほどの「静岡へのメリット」として伝わったかというと、まだまだ限定的に感じます。 

岸田総理大臣はきのうの所信表明演説でも、「リニアの整備に向けた環境を整え災害時も途切れない広域交通ネットワークの構築を進める」と述べています。
このように、国はなんとしてもリニアを進めたいわけですから、県とJRの議論が長期化する中で、国が建設的な議論に導く「行司役」になる必要があると思います。今回の調査を皮切りにリニアが静岡にもたらすメリットを、より具体的に明確に分析して議論を後押して欲しいと思います。

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