静岡かに情報 かわいいのに毒?甲羅スベスベマンジュウガニ
- 2023年05月17日
富士山をはじめ伊豆半島や駿河湾など自然豊かな静岡県には、観光やグルメを求めて多くの人が訪れます。実は不思議なカニやおいしいカニもいっぱい!どんなカニがいるのか、どんな食文化があるのか各地で調べました。シリーズ「静岡かに情報」。第4弾は、磯に生息するスベスベマンジュウガニです。(静岡かに取材班)
「おまんじゅう」の名前をもちながらも、猛毒を持ち、実は毒まんじゅう。NHKの「みんなのうた」でも話題になりました。
こわいカニ?かと思いきや、触ると死んだふりをするおとなしいカニだそう。不思議に満ちたユニークなカニの生態について、下田海中水族館で飼育する都築信隆さんにNHK静岡放送局の田中洋行アナウンサーが聞きました。
たのしい名前の由来
教えてくれたのは飼育歴23年。下田海中水族館の飼育課長 都築信隆さんです。
「スベスベマンジュウガニは私が来る前から常設展示されている生き物です。ですから23年以上展示されている人気のカニですね」(都築さん)
なんと20年以上のロングラン!(個体は変わっています)。伊豆半島に多く生息していますし、それだけ人気の生き物なんですね。
それにしてもインパクトのある名前です。どうしてこんな名前なんでしょうか?
名前の由来は実にシンプル。そもそも「マンジュウガニ属(ぞく)」というカニの仲間のグループがあり、中でも、このカニは体がすべすべしていたからだそうです。
「すごく特徴をとらえたおもしろい名前ですよね。マンジュウガニの仲間はその形から名前がついていることが多く、赤いので“アカマンジュウガニ”、甲羅のへりが縁どられている“ヘリトリマンジュウガニ”、赤い星もようのついたベニホシマンジュウガニなどがいます。みんな名前の由来がわかりやすくて、覚えやすいですね」
実際に写真をいただきました。
こうやって違いを見ると、スベスベマンジュウガニは、本当につるつるでスベスベ。
手にのせるとおまんじゅうのようでかわいいですね。
NHK「みんなのうた」で人気
そんなスベスベマンジュウガニ。さらに注目が集まるきっかけとなったのが2003年に「みんなのうた」で放送された「恋のスベスベマンジュウガニ」。その後何度か再放送されているので、記憶にある方もいるかもしれませんね。
スベスベマンジュウガニが恋をする物語がユーモラスな曲とともに放送され、当時、水族館でも人気者に。水槽前の来館者からは「歌であったね!」「これがスベスベマンジュウガニ!」「本物を初めて見た!」などという声が聞かれたそうです。
「みんなのうた」はリクエストに応じて再放送される機会もあるので、よかったらリクエストしてみてくださいね。
「みんなのうた」HPからリクエストできます!コチラ ⇒ 『恋のスベスベマンジュウガニ』
毒ガニ あぶなくないの?
ところで、このスベスベマンジュウガニ。フグと同じ毒(テトロドトキシン)などを持つ「毒ガニ」として知られています。手に乗せて大丈夫なのでしょうか?
「意外かもしれませんが、おとなしいカニで、捕まえるとぐっと固まって“死んだふり”をするんです。はさむ力もそれほど強くないですね」。
「かわいらしい名前の割に毒を持つことを説明すると、お客さんもギャップに驚かれることが多いですよ」
実はフグなど毒を持つ生き物を、普通の魚と一緒にバケツに入れると、一緒に入れた魚が死んでしまうこともあるのですが、このカニはそういったこともないそうです。
毒の謎
スベスベマンジュウガニの毒を調べた研究者にも話を聞いてみました。
毒は体全体にありますが、特に多かったのがハサミの筋肉だったそうです。魚などの敵に襲われるときに、ハサミから毒を分泌して食べられないようにしている可能性があるとのことでした。
しかも同じスベスベマンジュウガニでも、沖縄など南方に住むカニと、伊豆や関東のカニでは持っている毒が違うようです。沖縄では主に貝が蓄積する毒(麻ひ性貝毒)を持ち、関東のカニはフグ毒(テトロドトキシン)を持っています。両方の毒を持つ個体もあり、どちらも人の神経に作用する猛毒です。
また毒はカニ自身が作るのではなく、カニが毒を持つエサ(巻貝など)を食べて、その毒を蓄積しています。魚などに食べられないようにその毒を防衛に使ったり、卵に毒を持たせて子孫が生き残る可能性を高めたりしているようです。
巧みな生存戦略に驚かされます。
「触る程度で人体に影響があるわけではありませんが、絶対に食べてはいけません」。
「そもそもカニの仲間は漁業権が設けられていることが多いので、取る道具、種類はよく調べないと漁業者の権利を侵害してしまうおそれがあります。安易に野生の生き物を取って口にするのは大変危険ですので気をつけてください」。
フグ毒、麻ひ性貝毒(まひせい)ともに調理で煮たり焼いたりするレベルで分解されることのない毒です。
さらに海に住む毒ガニはスベスベマンジュウガニだけではありません。過去にはカニによる中毒事故も起きていますので、くれぐれもご注意を!
水族館のカニ…実はイセエビ漁から
磯の多い伊豆半島を象徴するカニですが、このあたりでは岩礁帯の中でも、潮の満ち干でできる潮だまりよりも、ちょっと深めのところに住んでいることが多いそうです。
ではどうやって採取しているんでしょうか?
「実はイセエビ漁の網に引っ掛かるんです。水族館のスベスベマンジュウガニは漁師さんからもらって展示していることが多いですね」
高級なエビと一緒に取られる毒ガニ。漁師さんにはやっかいかも知れませんが、水族館ではスターです。
やってきた水族館ではオキアミやアジの切り身を食べてのんびり過ごしていて、春になるとオスとメスがお腹を合わせて抱き合うように交尾をする姿も見られるそうです。
運がよかったら「みんなのうた」の通りの「恋のスベスベマンジュウガニ」を見られるかも?
寿命は4~5年と言われ、大きくなっても、甲羅の幅は5センチほど、高さは3.5センチほどと、小さめの“おはぎ”程度の大きさにしかなりません。
「スベスベマンジュウガニもユニークですが、カニは色々なところに住んでいて、それぞれ特徴的な体をしています。特に脚を見てもらうと、違いがあっておもしろいですよ。ワタリガニで知られるガザミの仲間は泳ぎがうまく、オールのような平べったい脚をしています。水族館ではそんなところも観察してほしいですね」
これからの季節、水族館でカニを観察して、自然観察や磯遊びに出かけるのもおもしろそうですね。
都築さん、ありがとうございました。
シリーズ「静岡かに情報」。第5弾は、ほかの生きものにくっついて生きる不思議な生態を持つカニをご紹介します。(イボイソバナガニ ゼブラガニ コマチガニ アミメサンゴガニ)
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