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富士山噴火避難 富士宮市・富士市・御殿場市の対応は?

  • 2023年04月21日

富士山の噴火を想定した新たな避難計画がことし3月、まとまりました。気象庁の情報をもとに移動手段や避難の開始時期を示し噴火前には自主的な分散避難を呼びかけるとしています。

対象となる県内10の自治体では、この1年で地域の実情に応じた詳細な避難計画を作成することになっています。どう安全に住民を避難させようとしているのでしょうか。

【富士宮市】住民と市役所 同時に避難!?

住民と同時に市役所の避難も想定されているのが富士宮市です。富士山が噴火した場合、3時間以内に溶岩流が到達するとされるエリアには、商店街や市役所など市の中心部が含まれ、避難の対象は6万6000人にのぼります。

短時間でどう避難?

商店街の会長を務める増田恭子さんは、配布された市の広報を見て、思っていたよりも早く溶岩の到達が想定されていることに驚いたといいます。

「3時間で何ができるか、急に言われても無理ですよね。怖いと思いますし、どのような備えをしておいたら自分たちの家族や周りの人を守れるかということですよね」(増田恭子さん)

災害対策本部の機能 どう移設?

噴火時に災害対策本部を取り仕切る市の危機管理局は、市役所や消防本部も避難の対象エリアに入っているため、機能の移転を余儀なくされると想定しています。

市は、溶岩流が到達しない市の施設に災害対策本部を移設することを考えています。およそ10キロ離れた芝川出張所もそのひとつ。これらの公共施設も避難対象エリアの中にあり、噴火後に溶岩がどこに流れるのか見極めたうえで、移設先を決めなければなりません。

担当の職員は今、溶岩が流れるパターンを噴火口ごとにグループ化する作業を始めました。パターンごとに、住民や市役所の避難ルートを設定するためです。

住民をどう避難させるのか、今年度中に決める予定ですが、住民の避難と市の機能移設を両立させるのは、容易ではありません。

「実際に移転が迫られた場合、限られた時間の中で作業を進め、行政機能の速やかな再開を目指す。富士山噴火の場合は特殊性もあるので職員の行動計画のマニュアルを整備していく」(和田圭司・富士宮市危機管理局長)

【富士市】渋滞による逃げ遅れ懸念

富士市では、避難の際、道路の渋滞によって逃げ遅れが懸念されています。避難の対象者は県内で最も多い24万人。東西に幹線道路が走り、日頃から混雑しています。

渋滞を回避できないか 別のエリアの避難所も模索

市の防災危機管理課は、渋滞を少しでも回避することができないか模索しています。考えられるのが幹線道路を避けた避難ルートの設定。この場合、避難所の見直しも必要になるため溶岩の到達時間が遅いエリアの避難所の利用も考えなければなりません。担当者は「市内には、避難対象エリアではない場所はほとんどありません。そこで、溶岩流の到達が少しでも遅い場所に避難してもらうことも考えられます」と話しています。

避難ルートを見直したい

避難ルートの見直しをどう進めるのか。溶岩流が早く到達すると想定されている山あいの桑崎地区を例に、市が考える、幹線道路を通らない工夫を見てみます。

この地区の従来の避難ルートです。海側に下ったあと西におよそ20キロ離れた体育館に避難するとされています。この際、東西に走る幹線道路を通らなければなりません。

この避難所を、例えば南の海側に見直します。すると、東西の幹線道路を極力使わずに済むというのです。

噴火前の自主避難も視野

さらに市は、渋滞を緩和するため、避難の開始時期も見直せないかと考えています。また、住民が一斉に行動しないよう、噴火前の自主避難も視野に入れています。

「3時間以内という時間制限があるので、基本計画にある徒歩避難や噴火後避難は逃げ遅れが発生する可能性がある。富士市としては噴火前に、溶岩流が3時間で到達する第3次エリアの方には避難していただくことを検討する必要があると考えています」(富士市防災危機管理課・栗田明人主査)

【御殿場市】地形利用した避難先の見直しへ

御殿場市では富士山が噴火した場合、最大で住民の67%にあたる5万7000人の避難が想定されています。

特徴的な地形 “分水嶺”(ぶんすいれい)生かす

市の危機管理課は、新たな避難計画を受けて避難方法の見直しを進めています。中心となっているのが、危機管理補佐監の杉本嘉章さん。自衛隊で災害対応などを経験しました。

杉本さんは市内を東西に走る地形に注目しました。富士山から東に伸びるなだらかな尾根が「分水嶺」です。富士山が噴火した場合も、溶岩の流れの分かれ目になると考えられています。

標高600メートルあまりの富士山のふもとに、分水嶺の起点となる場所があり、ここから東におよそ7キロ緩やかに下りながら尾根が伸びています。

「富士山から流れてきた溶岩はこの『馬の背』のところで左右に流れが分かれる。この道路は溶岩の影響を受けない、まさに『人道回廊』といえる」(杉本嘉章さん)

御殿場市はこれまで、避難先を原則として市外に設定していましたが、この地形をもとに市内を中心に設置する方針に切り替えました。想定したのは3つの溶岩の流れです。

【パターン1】分水嶺から北に溶岩が流れた場合は、南側の地区に避難します。

【パターン2】南側に溶岩が流れた場合は分水嶺から北側に避難。青い部分は溶岩の影響を受けない尾根の一部。これも新たな避難先にしようとしています。

【パターン3】分水嶺の両側に溶岩が流れた場合は、一部をのぞき、原則として市外への避難を検討する方針です。

避難所も見直し

これらのパターンをもとに、市は新たな避難所の確保を進めています。こちらは尾根沿いに公民館です。受け入れた場合の収容人数や設備などを確認しました。

公共施設だけでは避難所が足りなくなることも予想されます。杉本さんは、観光ホテルにも住民の受け入れの打診を始めています。

住民の理解 大切に

見直しが進む新しい避難方法。今月18日、杉本さんは、避難所や避難ルートの詳細を今後段階的に決めて行くことを勝又正美市長に説明しました。勝又市長は「これだけ溶岩流が流れるパターンが明確になったのであれば、市民に知ってもらうことがいちばん大事だ。そこにも力を入れてもらいたい」と指示しました。

「具体的な溶岩の流れがはっきりした。これを御殿場の最大の特性として避難計画を詰めていきたい。1年間の流れの中で具体的な計画にしていきたい」(杉本嘉章さん)

市はことしじゅうに新しい避難計画の内容を固め、住民への説明会や検証を兼ねた避難訓練を実施したいとしています。

富士山の噴火は、火口の位置や規模がいくつも想定されます。不確定な要素が多い中、いかに住民の安全な避難を進めることができるのか、それぞれの自治体は解決すべき多くの課題に直面しながら、避難計画づくりへの取り組みを進めています。

  • 吉田渉

    記者

    吉田渉

    静岡県富士市出身。地元愛にあふれる取材を続ける。

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