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静岡の大学 コロナで体験できなかった薬局実習をVRで実施へ

  • 2023年04月21日

コロナ禍でさまざまな現場での実習の機会が減る中、VR=バーチャルリアリティの活用が教育分野にも広がっています。静岡県立大学では、VRを使って薬学部の学生に臨場感のある学びを提供しようという取り組みが始まりました。

薬局での対応 VRで再現

ゴーグルをつけてあたりを見回す白衣姿の学生たち。VRを使った薬学部の「実習」です。先月、静岡県立大学薬学部で、一部の学生を対象に試験的に行われました。

学生たちの目の前に見えているのは、薬局の窓口にやってきた患者の映像です。薬剤師が患者に対して説明する場面をVR上で再現、患者とのやりとりを疑似体験できます。

コロナで奪われた現場実習の機会

静岡県立大学薬学部 内田信也教授

この取り組みを始めたのは、静岡県立大学薬学部の内田信也教授です。VRを使った授業の背景には、コロナ禍での実習の機会が減ったことがありました。医療現場で行われる実習が相次いで中止になり、学生が患者と接する貴重な機会がほとんどなくなってしまいました。そこで、大学内で行う模擬実習では体験できない医療現場の臨場感をVRで再現できないかと考えたのです。 

静岡県立大学薬学部 内田信也教授
(模擬実習は)どうしても大学の実習室ということになりますので、患者さんの前に立っているという緊張感だったり責任感というものも薄いのですが、VRという技術を使うことで、大学の中でもある程度の臨場感をもって、患者さんの前に立っているという自覚が持てるのかなと。

学生たちの反応に手ごたえ

教材となる動画は、薬剤師と患者、双方の目線が合う高さに360度撮影できるカメラを置いて撮りました。このため、それぞれの視点で状況を確認することができます。

さらに横を見ると事務員、後ろを振り返れば調剤室の様子も見ることができます。まさに、薬局の雰囲気そのものを体感することができるんです。

試行錯誤の末に完成したVRの映像。学生たちは、ゴーグルの扱いに最初は戸惑う様子もみられましたが、慣れてくるにつれて、さまざまなところに視線を移しながら状況を観察していました。授業ではその後、スクリーンにVR画面を映し出して、薬剤師として注目すべきポイントについて解説を加えました。内田教授が強調したのは、患者に説明するときの薬剤師の目線です。

内田教授による解説
副作用の説明をするとき、慣れていなかったり緊張しているとどうしても手元の薬の説明書を一生懸命読んでしまう、下を見てしまう。VRでは、(薬剤師が)副作用を説明しているときはしっかり患者の表情を確認している。過度な心配を患者に与えてしまったら問題だし、(患者が)わかっていなくても問題です。患者が理解しているか誤解していないかよく確認します。

 授業を終えた学生たちからは、好意的な感想があがりました。

学生
自分が説明しているときに、患者さんの目線や表情、たとえば「説明が分からなくて顔が曇っていたりしないかな」とかそういったところも見られる。僕らはコロナで薬局も病院も一回も行っていないので、VR実習はイメージがしやすく、自分が「これからどう勉強しよう」と、もっと先のことを考えられる実習だと思う。

学生
視点を動かすことで、患者の視点や薬剤師の視点、第三者の視点など、いろいろな面から対応をみることができて、どんどん改善に持っていけるということがVRならではだなと思いました。

学生たちの反応に、内田教授も手ごたえを感じています。

内田教授
1年生のときにほとんど大学に入れないとか、医療現場の実習が中止になるという経験をした学生たちが実際の画面をみて「本物の臨床現場はこうなんだ」と伝わったのがよかった。学生が大学にいながらにして臨場感をもってわくわくしたような実習がつくれるんじゃないかと。実際にこれを運用して実習をおこなっていくのが楽しみです。

その場にいなくても臨場感を体験することができる最新の映像技術。大学では、病室の患者に投与した抗がん剤の副作用について確認を行う場面など、さまざまな現場を想定したVRの制作し、患者の命を預かる緊張感を体感して欲しいと考えています。今学期からの授業の中で、VRを本格的に運用していく予定です。

  • 中村 マゼラン太郎

    静岡放送局ニュースディレクター

    中村 マゼラン太郎

    ブラジル・サンパウロ生まれ。 富士山のふもとに移り住んで、自然ゆたかで山も海もきれいな静岡県が大好きになりました。 

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