ページの本文へ

静岡WEB特集

  1. NHK静岡
  2. 静岡WEB特集
  3. 富士山噴火 新たな避難計画

富士山噴火 新たな避難計画

【まとめ】静岡県内対象10市町 どう避難する?
  • 2023年03月29日

富士山の噴火を想定した新しい避難計画がまとまりました。対象となる市と町を6つのエリアに分けてそれぞれ移動手段や避難の開始時期を示したほか、山梨県や神奈川県と連携して避難者を受け入れることで、短時間での避難を完了させたいとしています。どういう避難計画なのかまとめました。

避難の対象 10市町で56万人余

新たな避難計画は、富士山の噴火を想定したハザードマップが2021年に改定されたことを受けて、静岡・山梨・神奈川の3県と国や有識者などでつくる協議会が見直しを進めてきました。ハザードマップの改定で、火口の想定範囲が広がり、溶岩流の予想到達範囲が拡大したことから、県内では10の市と町で、避難の対象となるのは56万7000人あまりと示されています。

避難対象エリア 6つに分ける

避難対象エリア 6段階に分けている
(提供 富士山火山防災対策協議会)

新たに避難が必要な地域が噴火現象などに応じて6つに分けられ、それぞれ移動手段や避難の開始時期が設定されました。このうち、薄いオレンジ色の第2次避難対象エリアは,、火砕流などが到達する可能性がある範囲です。高齢者などへの避難が呼びかけられた段階で一般の住民も自家用車で避難するよう求めています。また、黄色の第3次避難対象エリアは、溶岩流が3時間以内に到達する可能性がある範囲で、噴火直後に徒歩または自家用車で避難するとしています。

避難対象エリア

第1次避難対象エリア:想定火口範囲
第2次避難対象エリア:火砕流・火砕サージ、大きな噴石が到達する可能性がある範囲
第3次避難対象エリア:溶岩流が3時間以内に到達する可能性がある範囲
第4次避難対象エリア:溶岩流が24時間以内に到達する可能性がある範囲
第5次避難対象エリア:溶岩流が7日以内に到達する可能性がある範囲
第6次避難対象エリア:溶岩流が最終的に(最大で57日間)到達する可能性がある範囲

新たな避難の方針について

火山災害は、予兆から噴火まで長時間となる場合や結果的に噴火に至らない場合も想定されます。また噴火後に数時間で沈静化するのか、数年に及ぶのかについても予測できません。このため新たな避難方針は、多くの住民が遠方まで避難することが必ずしも効果的とは言えないことから、生活基盤をなるべく維持しつつ、避難が必要となった段階で、その範囲の住民が短時間で避難できる方法を検討したとしています。

噴火現象の特性と避難時期について

火山の噴火は、不確実性があるとしたうえで、富士山では、さまざまな噴火現象が想定され、時間的猶予がなく、生命の危険性が高い現象からは、噴火前の段階で避難対象エリアの外へ避難するとして、以下のように定めています。

大きな噴石および火砕流・火砕サージ、それに融雪型火山泥流の一部は、避難までの時間的猶予がないことや、命への危険性が高いことから、これらの現象の影響範囲からは噴火前に立ち退き避難を行う。

溶岩流は、生命への危険性は高いものの、移動速度が速くないため、想定火口範囲から離れた地域では時間的猶予があることから、現象発生後に必要な範囲での避難とする。

降灰および小さな噴石は、時間的猶予があり、かつ生命への危険性も相対的に小さいことから、現象発生後の自宅や近隣の堅ろうな建物での屋内退避など自治体内で安全が確保可能な場所での避難を原則とする。

噴火前に分散避難の呼びかけも

市街地では深刻な渋滞が発生するおそれがあることからお年寄りなどをのぞき、近くの避難場所まで「原則、徒歩で避難する」という方針が改めて示されました。そのうえで、噴火が発生する前でも、気象庁が噴火警戒レベルを引き上げた場合などに自主的な「分散避難」を呼びかけるということです。

新たに地域によっては隣接する県外の自治体への避難も可能とし、山梨県や神奈川県と受け入れの調整を行って避難を短時間で完了させるとしています。

広域避難のイメージ
(提供 富士山火山防災対策協議会)

支援必要な人たちの対策強化

新たな避難計画では、このほか避難に支援が必要な人たちへの対策も強化されました。

溶岩流が3時間で到達する地域の病院や高齢者施設などに対し、入院患者らを安全に避難させるための計画づくりを推進するほか、学校や幼稚園などは噴火警戒レベルが引き上げられた時点で速やかに休校とし、保護者への引き渡しなどの対策をとるとしています。

登山客に対しては、気象庁から臨時の情報が発表された時点で下山指示を行うほか、それ以外の観光客に対しても混乱が生じる前の早い段階で帰宅を呼びかけるということです。

市と町 詳細な避難計画策定へ

それぞれの自治体はこの避難計画ともとに今後、地域の特性を踏まえたより詳細な避難計画を作成したうえで、住民への周知を進めることにしています。

改定の経緯は?

富士山は、1707年(宝永4年)の噴火後、300年以上噴火活動は見られませんが、2000年10月から翌年の5月にかけて、深部低周波地震が多発するなど活火山であることが再認識されました。これを契機に、2001年に国や静岡県などが参加した富士山火山防災協議会が設置されました。

2004年に富士山ハザードマップが作成されたあと、さまざまな研究によって富士山の噴火履歴に関する新しい知見が確認され、実績火口の位置や噴出物の量に関して、見直す必要性が高まったことから、2021年に新たな富士山ハザードマップが公表されました。新たなハザードマップでは、富士宮市の市街地近くなどに想定火口が設定され、これによって溶岩流が市街地に到達する予想時間が短くなったほか、被害想定区域が拡大しました。

対象とする噴火活動は?

これまでの避難計画では、火山活動に直接起因する現象のうち、約3200年前以降、複数の実績があり、発生頻度が高い現象とされる噴火現象(火口形成、火砕流・火砕サージ、大きな噴石、溶岩流、融雪型火山泥流、土石流)を対象としていましたが、今回は、2021年に公表された新しい富士山ハザードマップのもとになった約5600年前以降の現象に見直されました。

  • 吉田渉

    記者

    吉田渉

    静岡県富士市出身。地元愛にあふれる取材を続ける。

ページトップに戻る